オーディオ用パワーアンプの自作


4:加工・組立

工作にかかわる部分は自作屋にとって工夫やノウハウが詰まっているところだと思う。 自作記事を見ても工作系の記事が多く,設計系の記事はあまりない。 設計と言っても回路解説にとどまることが多い。

自作したいという動機のほとんどは「自分で作れそう」という工作系の動機付けだろう。 「自分で設計できそう」という設計系の動機付けをもつ自作屋はあまりいないのではないだろうか。

つまり,自作というのは「自分で工作する」の略だと言える。のではないか。蛇足。

4-1:基板

4-1-1:アンプ基板

2.54mmピッチのユニバーサル基板に組みました。 部品点数はそれほどでもないので,2時間ほどの修行で90%位まで配線できます。 他の基板との接続は後で配線材を直接半田付けします。

MOSFET DC AMP

熱結合が必要なTO-92パッケージのトランジスタは,事前に二つのトランジスタを平らな面で突き合わせてアロンアルファで接着しておきます。

基板に部品を取り付けていきますが,背の低い部品から半田付けするのがセオリーです。 リード付き抵抗,チップ抵抗,トランジスタ,ボリューム,コンデンサの順番です。

トランジスタは3本足の内,1本をまず半田付けし,傾きを修整してから他の2本を半田付けします。 コンデンサや抵抗も両方の足を半田付けする前に傾きを修整すると部品がきれいに並びます。

部品間の配線は「半田メッキ線」を使っています。 「錫メッキ線」と違い,半田の濡れ性が良く,非常に作業しやすいです。

ユニバーサル基板のランドはすぐに剥がれます。部品交換すると必ずと言ってよいほど剥がれます。 コテの温度を低くすることで剥がれにくくなりますが,作業性が落ちます。コテ温度の目安は360℃です。

4-1-2:電源基板

電源基板は片面銅箔基板をカッターナイフで削って作りました。

まず,図面を印刷して貼り付け,センターポンチを打ってから部品のリード線を通す穴をボール盤であけていきます。 配線パターンは直線として,途中で止めるパターンは極力作らないようにするとうまくいきます。 カッターで削る際はまず定規を当てて刃を直角にして通り道をつけ,その後,45度に傾けて溝の幅を広げます。 力を入れすぎると失敗します。軽く何度もなぞるときれいにできます。

やはり,小さい部品から実装してきます。 最後にグランドと大電流ラインは網線で裏打ちして配線抵抗を下げます。

大電流配線はM3のネジで配線を基板に取り付けます。 配線側はラグ端子を圧着します。基板側にはナットを半田付けします。 ナットは鉄製ではなく,真鍮製を選びます。半田付けは補助的な役割なので,念入りに行う必要はありません。 軽くネジ止めした状態で,ナットの周囲に半田を流し込みます。半田がネジ部分に入り込まないように注意が必要です。

ネジは振動や温度変化で緩んでいきます。必ずバネワッシャを入れます。 ナット → 基板 → 平ワッシャ → バネワッシャ → ラグ端子 → ネジという順番で取り付けます。 ナットとネジに電流が流れますのでラグ端子とネジが直接触れる順番にします。

4-2:電気部品

入力ジャック,出力端子,電源IECインレット,ヒューズホルダ―はリアパネルに直接取り付けます。

フロントパネルは電源スイッチのみです。

入力ジャックを除くすべての端子はネジ止めかファストン端子を使い,分解しやすくしています。

パネル加工は何と言っても,四角い穴と大きな穴をあけることに難儀します。

大きな穴はステップドリルを使うと便利です。 四角い穴は多数の小さな穴をあけて地道にやすり掛けをするのが結局一番近道です。 やすり掛けする際に板金は万力で固定しておくと効率が良いです。

アンプ作りの中では金属加工が一番大変です。人によって性格的な向き不向きもあります。 ただ,キレイに仕上がった時はうれしいです。失敗すると落ち込みます。。

4-3:バスバー

グランド配線の要,バスバーは厚さ1mmの銅板を加工して作りました。 ポイントはラグ端子をネジ止めするバーリング加工です。

まずドリルで1.5mmの穴をあけます。 その穴を直径2.5mmになるまで押し広げていきます。テーパーのついた鋼鉄の棒が良いのですが,「目打ち」で行うのが良いと思います。

2.5mmのドリルが通ることを確認したら,M3のタップを立てて出来上がりです。

4-4:ケース加工

タカチのHYシリーズは非常によくできています。 ただし,組立上の問題として,底板を土台として組み立てていくのが難しい構造になっています。 底板には電源トランスがありますので重いです。

理想的な手順は以下の通りです。 ・「底板」に「フロントパネル」と「リアパネル」を取り付けて配線。 ・「ヒートシンク」を取り付けて配線 ・「天板」を取り付けて終了

HYシリーズは以下のようになっています。 ・「ヒートシンク」と「フロントパネル」と「リアパネル」を合体させて配線。 ・「底板」と「天板」を取り付けて終了

そのために,中敷きのようなサブシャーシが用意されていますが,貧乏金なしなので買えません。 同じケースを使っている金田式では左右のヒートシンク間にアルミサッシを渡し,そこに基板をぶら下げています。 「底板・天板」に部品を取り付けないので,最後に蓋をすることができるという,非常に合理的な構造です。

やはりトランスは底板に取り付けるしかないので,底板を取り付けたままヒートシンクを分解できるように, 底板のヒートシンク取付ネジ部分にΦ8の穴をあけました。これで理想の手順で組立できます。

MOSFET DC AMP

今回はヒートシンクにタップを多数立てました。 コツは全神経をタップの垂直維持に集中させること。 切削油を使い,少しずつタップを切り進めることです。

4-5:配線

まずは電源配線を完成させます。 AC100V部分は慎重に行い,必要に応じて熱収縮チューブで絶縁を強化します。 今回は全ての配線をファストン端子行いますので,長さを決めて金具をカシメ,熱収縮チューブで絶縁したうえで パネルに取り付けた部品の端子にファストン端子を挿しこんでいきます。

トランスの1次側はメイントランスとサブトランスの1次側配線が並列になるので引き回しが大変でした。 やや無理やり納めています。

トランス2次側は長さを揃えてラグ端子を圧着します。それを基板に半田付けしたナットにネジ止めしていきます。

ネジ止めの際は,必ずワッシャを入れます。ネジは温度変化や振動で徐々に緩んでいきます。ワッシャを入れると緩み止めの効果があります。 基板,ワッシャ,バネワッシャ,ラグ端子,ネジの順番でネジ止めしていきます。案外大変でした・・・ サボるなら,基板,ラグ端子,バネワッシャ,ネジの順番でOKですが,ラグ端子とネジの間にばねワッシャが入ります。 バネワッシャは鉄製ですのでこの順番では音が悪くなります(笑)。

続いて入力の配線を行います。 入力は半田付けです。 配線材はLANケーブルの中身です。熱に弱い場合もあるので手早く済ませます。

出力配線もネジ止めです。NFBの帰還ポイントはスピーカを接続する端子からとっています。 帰還専用の細い線を出力ケーブルと一緒にラグ端子に圧着してアンプのフィードバックポイントに戻します。 こうすることによって出力ケーブルの抵抗が帰還によって抑圧され,ダンピングファクタの低下を防ぐことができます。

大電流が流れる電源配線にはMLFCは2sqを使っています。 太さの割に柔軟性はあるのですが,すわりが悪いので,取り回しは大変です。ラグ端子を圧着する方向にも気を使います。 MOSFETはTO-220パッケージですが,絶縁されたフルモールドタイプではなく,ドレイン電極がネジ止め部分の金属板となっているタイプです。 ここにラグ端子を直接ネジ止めしました。ネジは緩みますので,ネジロックが必要です。

グランドは全てバスバーに落とします。 スピーカー出力はバスバーに直接ネジ止めです。 入力端子のグランドはバスバー半田付けします。 電源のグランドは短く太い配線材で基板とバスバーを接続します。


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