/ HOME  / DIY  / Portable Amp

回路設計の指針

1,プリアンプの設計  2,フェーズインバータ  3,パワーアンプの設計  4,電源の設計  5,部品選定


1,プリアンプの設計

ギターアンプのプリアンプ回路について説明します。

初段・PIともに12AX7を採用します(後に変更しました)。
双3極管2本で4ユニットとなるため、2段増幅+1段増幅直結P-K分割としました。

ギターの出力を12AX7を用いた増幅回路で増幅すると、2段の増幅でほぼクリップレベルに達します。
余裕を持って出力管をドライブさせるために、フェイズインバーターにもう一段増幅回路を設けてみました。

プリアンプ回路図

次に考慮しなければならないのは、ボリュームトーンコントロール をどこに挟み込むかという問題です。
今回トーンはあえてプリアンプの最終部にすることとしました。

最近のハイゲインアンプはプリアンプで歪みを作った後にトーンコントロールでトーンを調整する、いわゆる ポストイコライザー式のトーンコントロールが多くなっています。 ポストイコライザーでドンシャリサウンドを作るとまとまりのあるモダンなトーンになるからです。
そこで、このアンプでもポストイコライザーにしました。なぜなら、ファズなどでブーストした際に初段・次段で歪みが発生し、 その歪みにイコライザーをかけることにより、コントロールしやすい音色が得られるのではないかと予想したためです。

余談:メサブギから続くハイゲインアンプの音色の歴史では 、ポストイコライザーによるミドルカットが大きな役割を果たしています。これはソルダーノでもボグナーでもグルーブチューブでも同じことです。ポストイコライザーによるミドルカットは低音感と音抜けを失わずにうるさい(うなる)中音域をカットすることで、すっきりとしてコントロールしやすく、しかも倍音豊かな音色を作ることができます。へたすると薄っぺらでジョリジョリの音になりますが・・・

ボリュームはマーシャル型としました。フェンダーベースマン 型ともいえますが、初期のフェンダーと同様です。
マーシャル系でよく見られる、470kΩ500pFによるハイパスフィルターを付加しました。根拠は無いのですが小型アンプなので若干ハイ上がりにしてみようといったところです。

トーン回路の出力から次段グリッドへはグルーブチューブの回路をパクりました(参考にした・リスペクトした)。
前述のようにギターアンプは2段の増幅でプリアンプにおけるクリップレベルにほぼ達します。そのような大振幅の信号が真空管に入力されると、本来は流れないグリッド電流が流れてしまいます。そのグリッド電流ハイパスフィルターをかけることで、大振幅時の音色を積極的にコントロールすることができそうです。そして、プリアンプでの歪みの音色を変えられるのではないでしょうか?特にクランチさせたときに倍音を強調するためにはよい工夫といえるのではないでしょうか??検証はしていませんが・・・

プリの初段・次段の回路定数はフェンダーアンプのスタンダードな値です。
1個所だけ違うのは初段のカソードバイアス抵抗です。2.7kΩとしました。これはマーシャルなどでみられるゲイン稼ぎを参考にしたものです。 プレートの負荷も150k〜200kに変更すれば更にゲインがあがります。


2,フェーズインバーター(位相反転回路:Phase Inverter)

フェーズインバーターは2段直結のP-K分割を採用しました。ニールヤングが使っているというフェンダーの ツイードデラックスがP-K分割だからです。
またP-K分割は2次の倍音成分も出やすいようです。

直結ですので電圧配分が難しくなります。
単純に考えると前段のプレート電圧 がそのまま2段目のカソード電圧となります。
ここで、2段目のカソード電位 を、出力管ドライブのためにフルスイングさせるとします。そうすると、 前段のプレートと2段目のカソードは直結なので、前段のプレート電位も2段目のカソード電位とほぼ同じだけスイングすることになります。

PI.png - 9,414BYTES

さらに解説します・・・

P-K分割部(2段目の真空管)のカソード電圧をV1とし、出力管をドライブすることを考えるてみます。

理想的には負の方向にピークでV1振ることができます。
逆に正の方向に同じ電圧だけ振ることを考えます。 ところが、V1が正方向の場合はプレート側は逆相になりますので、プレート側では負の方向に電圧降下が発生します。
2段目のカソード・プレート間電圧を適正に保つためには、無信号時に2段目のカソード・プレート間電圧はV1の2倍以上の電圧が必要であることになります。
結果的に電源電圧からプレート負荷抵抗による電圧降下もV1であるため、電源電圧はV1の4倍必要であることになります。

実際P-K分割を採用しているアンプではそのようになっていない場合も多いようです。 もちろんフルスイングでフルドライブまで考えるのはオーディオ用アンプとしてはナンセンスなためだともいえるかもしれません。しかし、本機はギターアンプであるため、できるだけ理想的なクリップ条件としたいわけです。

といっても理想的に実現するのは無理だろうし、クリップ時の動作はグリッド電流の関係や非直線性など複雑な要素がありますので、あまり深くは考えないこととしました。

プリアンプの電源は少し低め(ギターアンプとしては)の250Vにします。
P-K分割部には最大でも400V程度は供給できそうですが、12AX7の最大プレート電圧やヒーター・カソード耐圧などを考慮するとかわいそうですので350V程度とします。
そうすると前述の理由からカソード電位V1は電源350Vの1/4程度、つまり80〜90Vが望ましいことになります。

V1が90Vなので、前段のプレート電位もほぼ90V(実際は80数V)になります。 250(電源電圧)-90(プレート電位)=160これは前段のプレート負荷抵抗による電圧降下です。
プレート電流は1mA程度でよいので、プレート負荷抵抗は160kΩになります・・・が・・・設計の際は300-80=220と設計したので220kΩとなりました。
難しいのはグリッドバイアス抵抗です。12AX7の動作曲線が手元にないため、とりあえず1kΩに決定しました。ちゃんと設計しなかったが成功。ラッキー!

ですが、あとで大幅に変更します。(読んでくれた方スイマセン。PIの捕捉をお読みください)

PIの補足

その後12AX7はプレート電圧が低くなるとバイアスが浅くなりすぎることが判明しました。
直線性やグリッドリーク電流を考慮するとバイアスが浅いのはよくないと思いそこで、12AU7へ変更することにしました。
12AU7はプレート電圧が低くてもバイアスを深くとれ、その場合でも電流を2mA程度流すことができます。

結果、回路定数を大幅に見直しました。
前段のカソードバイアスは1.5kにしました。 プレート負荷は82kです。1.5kのバイアスで約2mA流れ、プレートは75〜80V程度になりました。次段のカソード電位は90V程度となり理想的になります。


3,パワーアンプの設計

肝心の出力管ですが、最初は双3極MT管の12BH7を採用する予定でした。しかし、負荷の最適値を求めると、 とてつもなく大きな値になってしまい(50k以上)、現実的ではありませんでした。同じくMT管である5687 なども考えましたが、小型のMT管を酷使するのは気が進まないので、いろいろと探したところ、6BX7 という双3極管が見つかりました。

6BX7は本来、テレビなどに使われるらしいのですが、出力管としても手ごろであるようです。

パワーアンプ・パワーサプライ回路図

出力段の設計ですが、まず始めに負荷をPlate-Plate10kとしました。
理由は簡単です。それ以上大きな負荷を持つトランスがほとんど見当たらないからです。 ちなみに6BX7の最適負荷はA級シングルで8k程度と私は計算しました。
つまり純A級P-Pでは2倍の16k程度となります。 16kPP用トランスの入手難が予想されますので、負荷は10kとします。

本アンプは純A級P-Pです。動作点の計算は以下のように進めました。

6BX7の特性表に10kロードラインをひきつつ、両ユニット同時使用時の 最大プレート損失である12Wを超えないようにアイドリング電流 を決定します。
出力を5W以下とし、10k負荷なので電源電圧250V程度だと仮定します。(かなりいいかげん)
21Vのバイアスで 24mA程度流すと250(V)×24(mA)×2(ユニット数)=12(W)となります。 実際はカソードバイアスですので電源電圧からバイアスの21Vを引くため(250-21)×24×2=11(W)となり定格まで余裕がある動作が可能です。 ちなみにバイアス用の抵抗は21/(24×2)=437.5Ωとなります。消費電力は1W程度です。
6BX7はヒーターが6.3V・1.5Aと大飯ぐらいなのでプレート損失は控えめにしたほうがよいと思われます。 それでもヒーターの電力とプレート損失の合計は20Wを超えてしまい、動作中はかなり加熱します。


4,電源の設計

さて、電源の設計です。電源は難しかったです。まずほしい電圧の電源トランスが手に入るかがわかりません。 そこで、入手可能なトランスを調べながらの作業としました。

トランスといえば秋葉原のノグチトランス。とりあえずホームページを覗いてみました。
真空管プリアンプ用のトランスがいくつかあります。
100mA取り出せるPMC-100に決定しました。PMC-55は残念ながら出力管を6BX7とすると電流が足りませんでした。
PMC-55でもなんとかいけるかもしれませんが、余裕を心がけます。

電源として必要な電流は

出力段アイドリング(24×2)+プリアンプ(1+1+2+2)+フィルター用ブリーダー電流(5×2)≒64[mA]です。

PMC-100は200V・240V・280Vのタップがあります(回路図は誤りです)。
出力段は240Vのタップを整流管6X4で両波整流し、250Vを得る予定です。
プリ部分は280Vのタップを利用て両波整流し、400Vを得てからフィルターを通して、360Vを得る予定で設計しました。

しかし、電圧の設定はあとで苦労することになります。

また、ヒーター用は5V・6.3V-2Aが3系統あり、このアンプにはぴったしです。


5,部品選定

今回抵抗はカーボンでいくことにしました。 ハイファイ目的ではないので、高域までのばす必要はなく、金皮を使わずにカーボンを使うことにより、滑らかな音を目指します。
信頼性のほしい部分と高抵抗はリケンRMG(ヒノオーディオで入手)を、音色を重視したいところは A&B(同アンディクスオーディオ)、その他は海神無線で売っているカーボン(タイヨーム?)としました。

コンデンサーはフィルム系とし、カソードバイパスにはごみ捨て場から拾ってきたやつを分解したらでてきた TOWAの容量の大きいフィルムコンなどを使用しました。
圧着端子により、簡単に交換できるようにしようと思いましたが煩雑になるのでやめました。
その他には、スプラグ(サンエイ無線)や、コーネルダブラー(ヒノオーディオ)などを使用してみました。
小容量はディップマイカ(海神無線and手持ち)。出力管のカソードバイパスは前述のTOWAの10uフィルムです。

ケミコンはスプラグATOM・20uF500V。 ATOMはオールドフェンダーの保守用にも使われている例を見たことがあり採用しました。容量は欲張らず小さめとしました。

VRはいつもどおり、コスモスRV24(海神無線)を使用しました。

出力トランスは春日無線の6635というトランスを使ってみます。
最大15Wで本来5kP-Pですが、2次側のインピーダンス2倍にすることにより 10kP-Pとして使用します。おかげで4Ωのスピーカーが使えません。
しかも\4000と予算オーバーしました。でもお店の親父がいい感じだったので許せます。

本当はもっと小型のトランスがほしかったのですが、見当たりませんでした。
1W以下でもよいはずです。カナダのハモンドがユニバーサルタイプで発売しているようです。

6BX7GTと6X4はクラシックコンポーネンツで入手しました。6BX7GTは最後の一本。レイセオン製です。

「最後の一本で気が引けますね。」

と店員さんに言ったら、

「仕入れがバラバラだったから残ってたんですよ。別に悪いから残ってたわけじゃないですよ。」

と言われてしまいました。

最後の一本をこんなアンプに使ってしまって気が引けるという意味だったのですが・・・商売繁盛を願います。


企画 回路設計の指針 配置設計 製作 テスト 失敗

 / HOME  / DIY  / Portable Amp

inserted by FC2 system