LINE6 DL4 EXTREME MODIFY

初稿:2012-06-15:てか工事中


ノイズ解析とノイズ設計

エフェクターを挿入することにより少なからずノイズが増えます。

特にデジタル・アナログに限らず,ディレイやリバーブはノイズが多いというイメージが持つ方が多いと思います。

アナログ回路ではトランジスタなどの増幅素子がノイズを発生させます。 ダイオードなどの単純な半導体もノイズを発生させます。 単なる抵抗器ですらノイズを発生させます。

量の大小こそあれ,部品を一つ通過するごとにノイズが付加されていきます。

ところがデジタル信号処理はアナログ回路のようなノイズは出しません。 いくら演算してもノイズが湧いて出てくるようなことはないのです。

デジタル演算による丸め誤差やビット落ちは発生します。それがある意味ノイズとなります。

デジタル信号処理がノイズを付加しないとしても,ADCとDACというデジタルとアナログを橋渡しするコンバータを通過する際にノイズが付加されてしまいます。

つまり,ADCとDACのノイズを最小限に抑えることでデジタル機器が発するノイズを減らすことができるのです。

最新のDTM環境では192kH-24Bitというサンプリングレートが一般的になってきています。 ノイズは特にBit幅の影響が大きいです。16bitよりも20Bit,20Bitよりも24Bitの方がノイズが少ないと考えてよいかとおもいます。

後述するように,実際は24Bitのノイズフロアを実現するのは非常に困難です

エレキ・ギターのノイズ

エレキ・ギターのシステムではノイズはどのように考えればよいでしょうか。

ワウのノイズが気になりますか?わたしは気になります。

ディスト―ション・ペダルのノイズが気になりますか?わたしは気になります。

アンプのノイズが気になりますか?わたしは気になります。

ノイズリダクションを使いますか?わたしは使いません。

「抵抗器の熱雑音」と「ICが発する雑音」

ここでは抵抗器が発する熱雑音とICが発する雑音の2種類について考察します。

雑音加算の原理(RMS加算)

本題に入る前に,基本的なことなのでノイズの足し算について説明しておきます。

ノイズはランダムな信号なので単純加算できません。

大きさが「1」であるふたつの無相関なノイズを加算すると「√2≒1.41」になります。 「2」にはなりません。

ノイズ:VnN(N=1,2,,,N)を加算する
VnSUM = Sqrt ( Vn1^2 + Vn2^2 + ,,, + VnN^2 )

上記のように2乗加算になります。

2乗加算の特徴として,支配的なノイズに対して相対的に小さい(1/3〜1/5以下)ノイズは影響を無視できるという特徴があります。

例えば,「1」のノイズに「0.2」のノイズを加算すると「1.02」となり,2%しか増えません。

例えば,「1」のノイズに「0.1」のノイズを加算すると「1.005」となり,0.5%しか増えません。

ノイズ対策を考えるとき,すべてを網羅することも重要ですが,特にボトルネックになっているポイントを押さえることがもっとも重要で解決の近道になります。

熱雑音

熱雑音は全ての抵抗成分が発するノイズです。 抵抗値と温度に比例します。

Vn^2 = 4*k*T*R*fw
Vn:熱雑音, k:ボルツマン定数, T:温度[K], R:抵抗値, fw:帯域幅[Hz]

半導体が発する雑音

ショット雑音:
電子の移動に伴って発生する電流ノイズです。電流に比例します。 主に入力段のベース電流で発生します。

in^2 = 2*q*I*fw
in:ショット雑音, q:電荷[C], I:電流[A], fw:帯域幅[Hz]

1/f雑音:
プロセスに依存するノイズです。 あるコーナー周波数よりも低い周波数で3dB/octで増えていきます。

バイポーラの低ノイズアンプではコーナー周波数が低く,ノイズは小さくなります。 CMOSアンプや高速アンプはコーナー周波数が高く,1/fノイズは大きくなります。

雑音の単位

雑音を定量的に表す場合,電圧が最終的なアウトプットですから電圧で表記します。

そしてピンクノイズ,ホワイトノイズと言われるように,ノイズ自身が周波数特性を持ちます。

ですから,ノイズの質を厳密に評価するためには各周波数におけるノイズ量を示す単位が必要です。

つまり,1Hzあたりにどれだけの電圧のノイズがあるかという指標があれば便利だというわけです。

単位としては[V/√Hz]となります。単純に[V/Hz]となっていません。

これは,ノイズは2乗加算という事情から来ています。

1Hzあたり1Vのノイズを発している回路があった場合,帯域幅を2Hzと考えるとノイズは1.41Vになります。 同様に,帯域幅が100Hzでは10Vのノイズになります。

ギターでは10kHz程度の帯域幅を考えればよいと思います。つまり1Hzあたりのノイズを100倍すれば実効的なノイズ電圧になるわけです。

さらにノイズを感知する人間の耳も周波数特性があります。 低周波や高周波のノイズよりも数kHzのノイズがもっとも耳につきやすいです。 ですから,ノイズ対策は1kHz〜5kHzを重点的に考えていく必要があります。

そもそもエレキ・ギターが発する雑音

ピックアップが発するノイズを考えてみましょう。

ピックアップはコイルを沢山巻いた構造になっています。 皆さんよくご存じのようにピックアップは固有の抵抗値を持っています。

例えば,フェンダー・ストラトのシングルコイル・ピックアップは5kΩ〜8kΩかと思います。

ギブソンのハムバッカー・ピックアップは7kΩ〜10kΩかと思います。

これらの抵抗成分は「熱雑音」を発生します。

熱雑音の大きさを簡略的に示すと,先ほどの式から,常温では1kΩの抵抗器で4nV/√Hzになります。

ですから,ピックアップの熱雑音は8〜12nV/√Hzになります。

まあ,ざっくりでよいので,10nV/√Hzと考えましょう。

10nV/√Hzは6.25kΩの抵抗が発する熱雑音と等価になります。

アルミ箔や銅箔でシールドしたり,ギターにプリアンプを仕込んだりとどんなにノイズ対策をしても熱雑音を減らすことはできません。

エレキギターは最低でも10nV/√Hz程度のノイズは発生してしまうことになります。

EMGのような低インピーダンス・ピックアップはコイルの抵抗値を少なくして熱雑音をも減らしていると考えられます。

実機におけるノイズ解析

ここまでは基本的な内容でしたが,実際のデジタル・エフェクターにおけるノイズについて考えて見ます。

プリアンプが発する雑音

プリアンプが発する雑音は熱雑音だけでなく,半導体が発する雑音が加わります。

一般的にディスクリート部品はノイズが少なく,オペアンプのようなIC(集積回路)はノイズが多くなります。

一昔前は低ノイズ性能を満足するためにはディスクリート部品を使わざるを得ませんでした。 しかし,現在ではディスクリート部品に匹敵するほど低ノイズのオペアンプがたくさん作られています。

まず熱雑音について考えます。

入力回路にピックアップよりも高い抵抗値を使うとその抵抗から発生する熱雑音が支配的に効いてきますのでピックアップ単体よりもノイズが増えます。

例えば,フェンダーのアンプは68kΩ(厳密には2本並列なので34kΩ)が入力に入ります。 ギターのピックアップに比べて抵抗値が大きいのでノイズも大きくなってしまいます。

抵抗器が等価的に並列になっていれば,熱雑音も小さくなります。

実はこの点にはジレンマがあります。ギターについてるボリュームはストラトで250kΩと高い値です。 入力回路から見たインピーダンスとしては50%の位置に持ってきた時が一番高く,125kΩが並列に接続されているように見えます。 つまり,60kΩ程度の出力インピーダンスになり,6.25kΩに対して10倍の値です。熱雑音は3.3倍になります。

opamp noise
TIのオペアンプの仕様書より引用

オペアンプと周辺部品が発するノイズは上記の計算式で計算できます。

この式は電流ノイズを考慮していません。バイポーラ入力で電流ノイズが多いオペアンプを使う場合は適用できません。 「en」はオペアンプの入力換算電圧ノイズです。

ノイズを減らすにはゲインを下げることと,R1,R2,RSの各抵抗値を下げることが効果があります。

オペアンプの入力換算ノイズ

入力換算ノイズは出力に現れたノイズをゲインで割ることにより,入力電圧に換算したノイズです。 つまり,ゲイン1倍で使用した場合に付加されるノイズです。 ゲインを10倍にすると10倍のノイズが出力に現れます。

回路のノイズ特性を代表する指標としてどのメーカーのオペアンプでも仕様書に明記されています。

入力電圧ノイズ:Vn [V/√hz] 標準的な値:1nV〜20nV
入力電流ノイズ:In [A/√hz] 標準的な値:0.1fA〜10pA

オペアンプの電圧雑音と電流雑音

opamp and resistor noise
TIのオペアンプの仕様書より引用

もう一つ図を引用しました。この図は抵抗器が発する熱雑音とオペアンプが発する電圧雑音および電流雑音の関係を示したものです。

3種類の雑音のうち,抵抗器が発する熱雑音は回路からなくすことはできません(青線)。 オペアンプが発するノイズがゼロならば抵抗の熱雑音のみが残ります。

バイポーラ入力のオペアンプ(OPA166x)は電圧雑音が低く,電流雑音が多い傾向があります(赤線)。 したがって,ソース抵抗が大きくなると電流ノイズが拡大されて見えてきます。

FET入力のオペアンプ(OPA165x)は電圧雑音は多少高いですが,電流雑音がとても低く抑えらえれています。

ソース・インピーダンスが高い場合はFET入力のオペアンプを使ったほうがノイズが小さくできるという例です。

ADCが発する雑音

アナログ・トゥ・デジタル・コンバータ(ADC)で発するノイズは量子化ノイズと呼ばれます。

信号に対するノイズの量を「SNR」(シグナル・トゥ・ノイズ・レシオ)と言います。 単位は[dB]です。

ADCのSNRは下記で表されます(ざっくりですが)。

SNR = 6 * N [dB] (N:Bit)

ノイズの絶対量はフルスケールの電圧に対して最少のビット分解能で表すことができます。

16bitだとSNRは96dBですので,1Vの電圧に対して1/2^16=1/65536した電圧(15.2uV)が分解能であり,ノイズの量です。

24bitは136dBとなり,16bitからさらに1/256ですので1Vに対して60nVの電圧となります。

ところがどっこい,実際こんなに小さな電圧をうまくカウントすることはできません。

DL4に使われているCS4223というADは24BitのBit幅を持ちます。 仕様書にはダイナミック・レンジは標準で102dBとの記載があります。つまり,17Bit相当です。

実際に測定してみると18Bit程度の精度があることがわかりました。

ノイズの測定方法ですが,ADCの入力をショートした状態で,ADCから出力されるデジタル・データの平均値をカウントしました。 結果,0x30〜0x40という値が出てきましたので,24Bit中の下位6Bitがノイズということになります。

CS4223のADCはフルスケールが2Vrmsですので,18bit(108dB)とすると7.63uVがノイズ量になります。

2Vrms/2^18=7.63uVrms

1Hzあたりのノイズは帯域幅を23kHzとすると1/152なので,50.2nV/√Hzになります。

7.63u/√23,000=7.63u/152=50.2nV/√Hz

DACが発する雑音

CS4223は刄ーという技術を使っています。ノイズシェーピングという原理で可聴帯域のノイズを高域に追いやっています。

そのため,DAC出力には可聴帯域外のノイズが多く含まれています。適切にLPFをかけてやることによってこのノイズを落とす必要があります。

また,DACのBit分解能は24bitですが,ADCと同様に実際の精度はもっと悪いです。 実力のSNRはADCとおなじ18Bitかそれ以下だと思います。

正確に測定はしていないのですが,DACのノイズはかなり多いようです。

結局DACのノイズが支配的でした。。。ということはDACのノイズをちゃんと把握していないとダメってことですね。

DACバッファが発する雑音

可聴帯域外のノイズを落とすためにフィルター回路が必要です。

2次もしくは3次アクティブフィルターを使う必要がありますので,ICからでるノイズと,周囲に接続される抵抗器のノイズが加算されます。

ノイズ計算の原理はプリアンプと同じです。


ノイズをできるだけ少なくするための方策

熱雑音の低減

使用する抵抗値をできるだけ小さくすると熱雑音を減らすことができます。

しかし,抵抗値を小さくすると消費電力が増えたり,フィルターコンデンサーの容量が増えたりしますのでむやみに小さくできません。

アンプが発するノイズの低減

最近入手できるオペアンプは十分低ノイズです。また,ディスクリート部品はそもそも低ノイズなのであまり問題になりません。 真空管はハムノイズやマイクロフォニック・ノイズが問題になることがありますが,選別すれば問題ありません。

支配的に効いているのはADC・DAC

ノイズ対策はボトルネックを抑えることだと書きました。DL4では一番大きなノイズ源はADC・DACです。

ADCとDACのノイズを少なくするためには相対的にシグナルをできるだけ大きくすればよいです。

つまり,ADC手前のプリアンプで十分なゲインを持って増幅してやればよいです。 しかし,増幅しすぎると大きな信号が入った時にレンジオーバーしてしまいますので程よいゲインがあります。

単純に増幅するだけでなく,聴感上敏感な数kHz以上を増幅することによりSNRをさらに稼ぐことができます(プリエンファシス)。


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