LINE6 DL4 EXTREME MODIFY
初稿:2012-06-06:てか工事中
クリスタル
水晶発振子の話です。
デジタル・オーディオ回路には必ず「クロック」が存在します。 クロックはデジタル回路の時間軸精度を決めます。 時間軸の精度が悪いとADやDA時にノイズになります。
時計に代表される時間を計測する機械は,我々が生活している時間の流れを定量的に表すことができます。
古くは「暦」から始まる天文学が地球の自転・公転を定義しました。
「天動説」の時代においては,全ての天体は我々が住む地上を中心に活動していました。
「地動説」が唱えられ,天文学が発展すると我々の住む地上は広い宇宙の一部でしかないことがわかってきました。
現在ではアインシュタインの相対性理論から光速が定義され,精密測定や難解な理論から宇宙の年齢が推定されています。
同じ空間を共有する,つまりは相対速度が光速に対して十分に遅いという条件下では相対性理論の影響は無視できるほど小さいです。 地球上はもちろん太陽系内で活動している限り,人間的な感覚として捉えるならば,相対的な時間のずれは気になりません。
ですから,時間の流れは遅くなったり早くなったりすることはないと言えるわけです。
さらに,人間が感覚的に感じる時間経過は相対的なものです。 脳の活動状態によって時間を長く感じたり,短く感じたりします。
特に寝ている時間は個人によって感じ方が様々だと思います。
疲れている時はいつ眠ったのかもわからず気付いたら朝だったということもあります。逆に,寝ている間に長い夢を見てどっと疲れることもあります。
このように時間の流れの感じ方は人それぞれです。 とはいうものの,時間を止めることはできませんし,過去に戻ったり,未来に行ったりすることはできません。
ところが技術の進歩は時間の流れを変えてしまいます。
発明家・エジソンが発明した録音・録画技術は「タイム・シフト」を実現した画期的な技術です。
音声や映像を記録して,保存・再生するという画期的な技術は人間の五感のうちでも情報量として圧倒的な割合を占める「視覚」と「聴覚」について「タイムシフト」を実現しました。
記録技術はアナログからデジタルへと進歩していく中で人間の感覚を凌駕するダイナミックレンジを獲得し,「タイムシフト」が作り出す仮想世界への没入感を十分感じるほどになりました。
音楽に限って考えた場合,記録する技術は太古の時代からあったと考えられます。
伝統的な「民族音楽」や「宗教音楽」では「口承・口伝」といった手段がまず考えられます。 文字や記号を介せず,直接人から人へと伝えていくやり方です。
文字文化があれば当然,明文化され「楽譜」となって伝えらえれていくわけです。 ベートベンやバッハなどのクラシック音楽は作曲家の頭の中で鳴っている音楽を「楽譜」として記録し,様々な楽器の演奏家が集まることによって作曲家がイメージしている音楽の再現を試みているわけです。
現代技術である「MIDI」は楽譜をデータ化して各パートの演奏情報を記録していると言えます。
そしてもっとも直接的な音楽の記録方法がマイクロフォンを利用した「録音」です。
マイクロフォンを使うことにより音楽がもつ様々な要素,つまり各パートの演奏であるとか,全体のハーモニーをとらえることができます。 優秀な録音はその場の雰囲気や空間的な広がりをとらえることもできます。
そして録音の軸となるのが「時間軸」です。アナログ録音ではテープ・スピードです。デジタル録音ではクロックです。
録音時の時間軸と再生時の時間軸をできる限りの精度で合わせることによって忠実な録音・再生が期待できます。
ところが,この「高精度な時間軸」という定義が厄介なのです。
録音と再生で時間軸が「ズレ」ると音声が「変調」を受けます。
録音・再生系の時間軸精度を考える場合は,まず「変調」つまりは時間的な「ズレ量」を縦軸にとり,横軸は時間軸として展開します。
ピッチ・シフト |
ワウ・フラッター |
温度ドリフト |
位相ノイズ |
必要があれば,さらに「変調の時間変化」を周波数軸へと変換して考える必要があります。
まず一番わかりやすい「ピッチ・シフト」を例に挙げます。 「ピッチ・シフト」は録音の時間軸と再生の時間軸にオフセットがあるということです。 ある速度で録音した音を半分の速度で再生すると再生音は1オクターブ下がります。
つまり,録音速度と再生速度に差がある(ズレている)と音程が変わるということです。
もし,この「ズレ(速度差)」が周期的に変化すると音程が周期的に変化することになります。 そしてこれが「ワフ・フラッター」であり「ビブラート」効果となります。
変調周波数が遅ければフワフワと気持ち悪い演奏になり,変調周波数が早いとビヨビヨした音になります。
変調周波数が100Hzを超えると存在しないはずの周波数が「ビート」として聞こえるようになります。
そして,再生音をホワイトノイズで変調するとノイズとして聞こえます。
クロックの精度が悪いということは再生音を変調するということに他なりません。
あとは程度の問題です。どの程度ならば人間が知覚できるのかという議論になります。
さて,前置きが長いですが,できるだけ意味不明な話をして,自分の無知を煙に巻くというのが目的でした。
DL4はCPUの内蔵回路に水晶振動子を取り付けて発振させてます。
水晶はクロックを作っています。
クロックの時間軸の精度を「位相ノイズ」とか「ジッター」とか言います。
ジッターはノイズです。1/fノイズと同様に周波数特性があります。 低周波のノイズは温度による周波数変動や,時間経過による変動が考えられます。 高周波のノイズは発振回路が発するノイズが考えられます。 それ以外に,電源から進入してくるノイズに注意が必要です。
発振周波数の精度がうたわれている水晶発振器は多いのですが,位相ノイズやジッターを管理してい作っているクロックは一般的ではありません。
計測器や通信機器に使われる発振器は位相ノイズが低い発振器が要求されます。 そういった特殊な用途に向けて低位相ノイズのクロックは作られています。
ちなみにルビジウムやセシウムによるクロックやGPS衛星によるクロックは精度が高いと言われていますが,誤解があります。 周波数の絶対精度は高いのですが,位相ノイズが小さいわけではありません。 いずれの高精度クロックも水晶発振器を微調整して周波数を安定化しているだけですので,位相ノイズが水晶発振器より低くなることはありません。
ジッターを除去するIC(ジッター・クリーナー)という魔法の石も作られていますが,これらにはマジックがあります。
これらの石はPLLを使っています。PLLは位相ノイズにローパスフィルターをかけることができます。 通信分野で重視される高い周波数の位相ノイズを除去するのが目的であり,それがその石の能力です。 ですから,位相ノイズの量は20kHz〜20MHzの範囲で定義されています。
また,ジッターの定義が絶対量の場合はクロック周波数に注意が必要です。 ジッタは相対誤差ですので,クロックの周波数が半分ならジッターは2倍になります。
PLLはノイズを抑圧する効果がありますが,元々ノイズの少ないクロックを与えると逆にノイズが増加します。 与えるクロックのノイズが少ない場合は,PLLの帯域を広くしたほうがノイズが少なくなります。
ノイズの多いクロックを与えた場合は高い周波数のノイズは減らせますが,低周波のノイズは減りません。 与えるクロックのノイズが多い場合は,PLLの帯域を狭くしたほうがノイズが少なくなります。
まあ結局は大元の水晶発振器の1/fノイズを減らす必要があります。
オーディオではもちろん可聴帯域の位相ノイズが重要と思います。 1Hz〜10kHzの範囲に存在する位相ノイズを重視するのが現実的と思います。 10Hzの位相ノイズを定義している発振器は多いので目安になると思います。 CMOSを使っていると10Hzで-100dBもあればよいほうです。 もし-120dBもあれば十分低いと言えます。むしろ十分すぎるかもしれません。
再生機器においては,発振周波数の精度よりも位相ノイズの量がクロックの音質を決めます。
周波数のずれはピッチのズレとして感じられます。 私は絶対音感は持っていませんが,絶対音感を持った人でも440Hzと441Hzを聞き分けるのは難しいと思います。誤差としては約0.22%です。
民生機器はクロックの周波数偏差が±1000ppmまで許されています。1000ppmは0.1%ですから,440Hzに対しては0.44Hzの精度があるわけです。 実際には1000ppmもずれている再生機器はほとんどないと思いますが・・・
ということで発振周波数の精度が1ppmとか2ppmとかそういった議論が無意味であることがわかります。
発振周波数のズレは「変調」で考えると直流的な偏差です。 ピッチ(絶対的な音程)は変わってしまいますが知覚することはできません。
そして「変調」がされたとしても周波数の変動が十分に遅ければ知覚できません。
例えば,60分の音楽を聴いていて,1分毎に20ppmの周波数変動が発生したとします。60分では1200ppmのズレになります。 演奏開始と演奏終了で1200ppm(0.12%)のピッチ変化があったということになります。知覚できるでしょうか??
できないと思います。
しかし,この1200ppmの変動が1Hz周期だったり,10Hz周期だとビブラートがかかりますので知覚できるようになります。
1200ppmのピッチズレはモノラルではわかりにくいですが,ステレオで聞くと音像が動くように感じます。
そして変調周波数が100Hzを超えるとビートが発生して濁ったように聞こえてきます。
エレキギターで考えると,ビブラート・コーラス・フランジャーといったエフェクトは変調によって音を変えています。
変調幅はもちろん,変調周波数が小さければ知覚しにくくなるというのがポイントです。
水晶発振回路を設計してみる
基本的な方針を考えます。
・製作を容易にするためにLは使わない
・無調整で動かすためにVRは使わない
・バイアス抵抗からの熱雑音を最小限にするためにC結は極力使わない
・トランジスタの選別は行わない
・動作点の温度補償を行う
・SNを向上させるためにノイズを減らす
・スルーレートを高くするため出力波形は矩形波にする
・1/fノイズを減らすために低周波用のバイポーラトランジスタを使う
・出力は3.3Vロジック,振幅は2Vpp以上
・消費電流は極力少なくする
コルピッツ発振回路+エミタフォロア
教科書に書いてある基本的な発振回路です。 正弦波の発振を前提としているため,振幅が不足しがちです。
上下対称・エミッタ接地
大振幅を出力するためにはレールトゥレール出力のオペアンプの出力段のような回路にする必要があります。 CMOSロジックも同様な構造になっています。
そこでCMOSロジック回路を基本としてバイポーラトランジスタへの乗せ替えを考えます。 アイドリング電流の安定化とバイアスの与え方に工夫が必要です。
上下対称・カレントミラー+増幅回路
大振幅を出力するためにはレールトゥレール出力のオペアンプの出力段のような回路にする必要があります。 CMOSロジックも同様な構造になっています。
出力段は電流ゲインのないカレントミラーになります。 カレントミラーを駆動する増幅回路の作り方に工夫の余地があります。
増幅段は電流帰還アンプのような構成か,差動アンプがすぐに思い浮かびます。
もしくはコレクタ接地のエミタフォロア風の回路にしてトランジスタのGmで増幅するという方法もあります。
いろいろ試した結果が上の図です。単純なコルピッツから始まり,上下対称回路をいじくり倒しました。10回路中8回路を実際に動かしてみました。
最終的には一番右下の「上下対称・コレクタ接地・Gm増幅・温度補償」にたどり着きました。 電源電圧は3.3V,出力は2.2Vp-p,電源電圧1.5V程度から発振開始します。消費電流は試作一発で7mA程度です。もう少し小さくしたい。。。
温度補償も行ったので冷却スプレーを噴射しても,ドライヤーで温めても安定して発振します。