PCM2704 DAC用のヘッドフォンアンプ


HEAD PHONE AMP

LME49600とオペアンプを使ったヘッドフォンアンプ

PCM2704 DACのキット(AKI.DAC-U2704)を作ったが,ソレを生かすヘッドフォンアンプを作らないといけない。 出来るだけ簡単に・・・

コンセプト

・BUS POWER
・そこそこのパワー
・簡単な回路
・広帯域
・DCアンプ
・安定な回路

LME49600

秋月へ買い物に行くのにホームページを眺めていたところLME49600が目に留まった。

存在はうすうす知っていたが,最近流行ではないようだ。

ヘッドフォンアンプと言うと,昔流行った「オペアンプ応用系」,最近の流行は「電流帰還アンプ」だろうか。 ディスクリートもいくつかの作例が見つかると思う。

ディスクリートも魅力的だが手間がかかる。なのでオペアンプでよい。

電流帰還は相当考えたのだが,バイアス電流の処理が難しく,DCアンプにするのが難しい。 入力インピーダンスが一定ならばオフセットの打消しが出来るのだが,ボリュームを入れようとする限り,インピーダンスが変動してしまう。 そうなると,ボリューム位置によってオフセットが変動してしまう。

電流帰還アンプを使う場合,バッファを入れるか,DCサーボか,他のオペアンプと組み合わせる必要がありそう。

オペアンプ応用系は回路が簡単でよいのだが,安定性に難があるし,オペアンプに無理をかけてよい音が出るのか疑問に感じている。 高い出力インピーダンスを負帰還で押さえ込んでいるので出力がインダクティブな特性になっているのが気になる。

駆動能力の低いオペアンプでは負荷条件によって安定度が変わったりするだろう。 ロバストなコンセプトではない。

パワーアンプにおいて容量性負荷の問題は無視して通れない。 出力インピーダンスが低いので負荷容量を駆動しようとする。負帰還がかかっていると位相が回り,不安定になる。 対策としてはコイルと抵抗を並列にした素子を出力に入れるとかなり安定する。

出力に入れるコイル,名前は知らないのだが,これもまた問題視されているのは事実で,負帰還ループ内に入れてみたり,コイルを使いたがらない人もいる。

パワーアンプの基本は裸状態で充分に低インピーダンス,低歪みの回路を作り,ちょこっと負帰還をかけるというのがいい気がする。

理想的には10kHzくらいまではゲイン一定で,出力インピーダンスは1Ω以下,歪み率は0.1%程度の性能をオープンループで出しておいて,そこに20dB〜40dB位の負帰還をかけるのが良い気がするけど,これは机上の空論,妄想。

仕上がりゲインは最大1倍で良しとする。それはそれほど大音量で聞かないから。 結果的には1倍以下だけど音量は充分。


検討記

LME49600 ヘッドフォンアンプ

■回路・工作

・LME49600はフォーミングの上,2.54mmピッチ穴あき基板に45度配置
・放熱器は現状無し
・オペアンプはDIPでソケット,交換できる
・電源は±12V,ヘッドルームを十分確保する
→ 電源フィルターを入れた場合のロスも考えた

・DC-DCコンバータは秋月で売っていたMCW03-05D12を使ってみた
→ スイッチング周波数は1MHz
→ コモンモードノイズはオープンで4Vp-pと大きい
→ 入力のGNDと出力のGND間に抵抗を入れるとノイズが下がる,Cでもよい
・DC-DCの出力は100uFに制限されているのでOSコン1個で対応
→ 後程22uFのセラコンを追加

・ラインフィルタ(SBS9080-509T)(鈴商)
・MurataのBNXを搭載(3個)
・コモンモードチョークを搭載(トロイダルコアで手作り,バイファイラ巻)
→ GND同士をショートするとノイズは少なくなるがループとなってコモンモード電流が流れるのでコイル入れて制限する

・主要な抵抗はKOAの金被
・オペアンプのパスコンはフィルムコンを使用
・VRはスフェルニースのコンダクティブプラスチック(海神無線)

・反転アンプ(反転増幅回路)
ゲインは1.0倍
消費電力低減は考えずに帰還抵抗は1kとした
→ 入力が仮想接地なので非反転増幅よりも安定
→ 入力インピーダンスが低くなってしまう
→ VRを開くとLPF出力の電圧が下がる

・ヒューズを取付300mA
→ USB BUS Powerを考慮,フルパワーでは切れる

・GNDはOPAMP部とバッファ部をやや分離して配線

・容量性負荷対策(詳しくは後述)
→ 1kohm-47pFのローカル帰還を追加(オーバー・オール帰還だけでは不安定なオペアンプがあるため)
→ ローカル帰還とはオペアンプの出力から反転入力に接続する帰還回路
→ オーバー・オール帰還とはバッファの出力から反転入力に接続する帰還回路

・寄生発振対策(詳しくは後述)
→ LME49600の電源ピン間に0.22uFを追加
→ 出力にZobelネットワーク(47ohm-47nFのスナバ)を追加

■オペアンプの選定条件

・オフセットが小さいこと(DCアンプなので)

・入力バイアス電流が少ないこと
・FET入力ならOK
・Bipoの場合はバイアスキャンセルされているのが前提
・オフセット電圧は5mV位が目安かな〜
・バイアス電流は1mV/10kohm = 100nA以下かな
・どちらも最悪値で見れば室温ではそんなに大きくならないはず
・なので室温において実測して1mVを超えないことを目安とする

・Unity Gain Stable
・やっぱり歪み率は低いほうがいい
・できれば負荷容量対策されているほうがいい
・そこそこ高速(GBW10MHzくらい)まあ遅くてもいいけど
・Webを漁ってみるとみんなオペアンプ交換が好きらしく,色々見つかる

・2個入り(ピン配は標準)

・手持ちOPAMP

名称 オフセット電圧 バイアス電流
uPC842 (Bi) ±4.5mV, 500nA
uPC812 (FET)±3.0mV, 100pA→2nA 高安定
uPC814 (FET)±3.0mV, 100pA→2nA 高速
AD823 (FET) 0.8mV, 25pA →100pA@75deg
uPC4082 = TL082
OPA2604(FET)±5 mV, 100pA→1nA
OPA2277(Bi) ±50 uV,±2.8nA
OPA1652(FET)±1.5mV,±100pA→800pA
LM4562 (Bi) ±0.7mV, 72nA

・候補

OPA1602 ±1mV, ±200nA
OPA1612 ±500uV,±250nA

LME49880(FET)±10mV, 150pA
LME49725 ±1 mV, ±90nA

LT1469 125uV,±10/40nA

LME49860 ±0.7mV, 72nA

AD8512 1.8mV, 75pA->0.7nA
AD8672 75uV, ±12nA
OP2177 75uV, ±2nA
AD8676 60uV, ±2nA

#FET入力は温度とともにバイアス電流が上昇する
#バイポーラでバイアス電流補正しているやつは差動入力インピーダンスも見たほうがいいのかも・・・

・実動作評価

50kHz,1Vp-pの矩形波で測定
VRは500ohm位置

・OPA2277:遅いけど非常に安定(1nF〜100nF)
・OPA2604:容量性負荷で発振ぎみ(1nF〜100nF),マイナス電圧に寄生発振が見られる
・AD823 :容量性負荷で安定(1nF〜100nF)
・OPA1652:容量性負荷で安定(1nF〜100nF)

・バッファーIC

BUF634とかHA-5002も試す?LH0033もあるよ(^^)

■容量負荷対策

・現実世界

最悪条件の見積もり
ケーブルの容量を200pF/m,5mとして合計で1000pFがいいところ

・実力確認

10nF〜47nFで不安定になりやすい
22nFを最悪条件として基準にする

・容量性負荷で発振する理由

出力インピーダンスは負帰還によって抑え込まれているのでオープンループゲインが下がると出力インピーダンスは上昇する。
つまり,周波数が上がるにつれて出力インピーダンスは上昇する。
これは出力にインダクティブな素子つまりはインダクターがついている状態と同じ。
このインダクティブ成分と負荷容量で共振が発生すると考えるとわかりやすい。

容量負荷は位相が回り,位相余裕が減るという説明もされている。

バッファをつけると電流駆動能力が強化され,スルーレート制限による位相回転が発生しないので,負荷容量には強くなるが限界はある。

・容量負荷対策

負荷容量の大きさに応じてLOOPゲインや位相を補正するような構成が望ましい。

マイナー帰還ループ(ローカル負帰還)で補正する(オペアンプ出力からマイナス入力へ帰還)
→ 1kohm−47pF

負荷容量が増えるとバッファのゲインロスが大きくなり補正が強く働き周波数特性が落ちる。
負荷が軽い場合は補正も軽くなり,周波数特性は伸びる。

・結果

非常に安定(一番発振しやすかったOPA2604で確認)
→ 22nF負荷でもリンギングが2発出る程度
→ 1nF負荷ではオーバーシュートがちょこっと出る程度

■寄生発振

・負荷が軽いと発振しやすいけど容量負荷程顕著ではない

RROオペアンプだとオープンループゲインが負荷によって変化する最低限の負荷インピーダンスをぶら下げないと無負荷で不安定になることがある。
コンプリメンタリ―なエミフォロ出力なら問題ないはず。NPNによるSEPPは気をつけた方がいい。

・低周波数の三角波で確認すると特定の電位で発振がみられる(現状OPA2604のみで確認)

・負荷に依存する
→ 10ohmのセメント抵抗だと寄生発振がみられるが,負荷容量がつくと止まる
→ セメント抵抗が誘導性なのかな?

・バッファの電源デカップリングを強化した。
→ 0.22uF 50Vの2012サイズ積セラB特を電源ピン間に直付け
非常に広帯域のアンプでは高周波での歪み改善に効果があるとか・・・
電源共振とPSRRの低さという原因も考えられる

・Zobelネットワークを無負荷もしくは誘導負荷への対策としてとりつけ

高域のインピーダンス補正(いわゆるZobelネットワーク)を取り付ける。
47ohm - 0.047uF(定数はなんとなく決めた・・・抵抗値が低いと高周波で負荷になる,容量が大きいと低い周波数から影響が出る)

■トラブル

・なにか聞こえる問題

DACキット搭載の100mAのリセッタブルヒューズの発振
9kHzで400mVのサグが発生
ボリュームを絞っても聞こえたのでPSRRを通じて漏れこんでいると思われる。

アンプの電源はヒューズの手前からとる
アンプ単体にヒューズを追加

・3.3V REGに0.1uFをぶら下げたら発振,220uFを追加

レギュレターの発振はよくあることだけに確認が必要
特にLDOにセラミックコンデンサをつけると発振しやすい

・ジャックのグランド金具を削除(ヒューズがとぶ)
→ 写真を撮ろう

ジャックからプラグを抜く際にGNDとHOTがショートする(当たり前??)
ペンチで引っこ抜いた

・DCDCのコモンモードノイズ
コモンモードコイルの追加とGND配線のショートで対応
コモンモードコイルで遮蔽してGNDで閉じ込める

・容量性負荷による発振と,寄生発振は別項で説明


追記

DC-DCコンバータは秋月で売っていたMCW03-05D12を使ってみたが,どうも熱い。

±12Vかけているが,過剰品質な気がするので,チャージポンプによるボルテージインバータで±5Vを作ることにする。これでUSBバスパワーの電源電圧が4.5Vに低下してしまう減少も避けられるはず。

チャージポンプはLM2662を採用。200mAまで出せる低出力インピーダンスで強力なチャージポンプだ。

負電圧側の立ち上がりがやや遅れるが,オペアンプによってはポップノイズが出る。 対策は簡単な気がしてきたがまだ未対策。 オペアンプによって正負どちらを先に立ち上げるべきかは違う気がする。 出力をDC結合にしていると,案外本質的でない部分が難しくなる。


追記

気が向いたので写真をUPした。LME49600の45度配置がミソ。

うーん。シンプルやね。AD823は拾った基板にたくさん載ってたラッキ〜

AD823の何が好きって等価回路の美しさ・・・古いオペアンプなのに時代の割に・・・アナデバの先進性・・・

スフェルニースのVRは使ってません。現在はコパルの多回転可変抵抗を使っています。

裏はこんな感じ。やややっつけてる感あり。基板むき出しで使ってます。 写真ではLME49600の「BW」ピンはオープンですが,今はマイナス側の電源に落としています。 この接続で消費電力は増えますが,歪みが減るのだそうです。±5Vでは生ぬるい程度なので放熱器はいりません。 で,やっぱり電流は流したほうがいいです。いわゆるベールが剥がれます。 繊細で神経質な方向に変化しますが,それはある意味高音質の証しであるわけで,すぐ慣れます。 手元の音源を全て聴き直しています。

PCM2704とディスクリート・ローノイズREG,LME49600,AD823に日々癒されてる。でもソースのアラが気になる。


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