DAC用のディスクリート3.3Vレギュレータの製作


低ノイズレギュレター

3.3V REGを作ってみる

やはりバスパワーからのノイズが大きいと思われるので何とかしたい。 秋月のUSB DACキットは3.3V電源がレギュレータで安定化されているが,普通の3端子レギュレータは高周波は筒抜けだ。 フェライトを入れてノイズ対策としているが効果が出るのは数MHzからなので数十kHz〜数百kHzのノイズは落しづらい。

レギュレータを刷新しようと思うが欲しい性能のICはない。ディスクリートで作ってみよう。

5Vから3.3Vを作るためには1.7Vの電圧効果しか許されない。 実質トランジスタ2本分のVBEしか使えない。しかし最高性能が欲しい。

何とか出来上がったのだが,USBバスパワーの電圧が4.5Vしかなかった・・・対応に追われました。。

結局出力を3.0Vにしてお茶を濁しました。

目標

・USBバスパワーからくるノイズをできるだけ減らす:高PSRR
・レギュレータ自身が発するノイズを最小にする:低ノイズ
・低ドロップ(5.0V−3.3V=1.7V,最終的には4.4V−3.0V=1.4V)

作戦

まず既存のICから考えていこう。

3端子レギュレータでは無理。PSRRが不足,ノイズが大きい。ドロップ電圧も足らん。
高性能のLDOでも無理。PSRRが不足,ノイズは小さくなるものの最小ではない。
電圧リファレンスでは電流が足らないし,3.3Vなんて都合のいい電圧はない。

トランジスタによるリップルフィルターでも役不足。出力インピーダンスが高い。

リップルフィルターとレギュレターを組み合わせると結構いい線いけるが,惜しい。ノイズが最小ではない。

結果,ディスクリートしかない。

もう少し深く

いわゆるリップルフィルターでは出力インピーダンスが高い(数Ω)。 LEDを使ったリップルフィルターの評判がよいようだが動特性に不満がある。 大容量のコンデンサーを使わなければ出力インピーダンスを下げることが出来ない。 特に低域の出力インピーダンスを下げるのが難しいので低域のクロストークに影響が出るかもしれない。

一方,リップルフィルターを重ねることで効果的にPSRRを向上させることができる。 シミュレーションでは140dB以上までいける。 電圧ロスは1.4Vになる。

出力インピーダンスを下げるためには帰還をかける必要がある

そうするとふつーのレギュレターになってしまう。 普通のレギュレターは高周波で出力インピーダンスが上昇することと高周波でPSRRが低下する問題がある。

インピーダンスの上昇は出力のコンデンサーを増量することで解決できる。 PSRRの低下はリップルフィルターと組み合わせることで実現できる。

レギュレターの問題点

3端子レギュレターは広く普及しているが,PSRRが高域で低下する。帯域が狭い。ドロップ電圧が大きい。という問題がある。

3端子レギュレターはノイズが多いという問題もある。レギュレター自身が発するノイズが問題だ。 やっぱりコンデンサーの容量を増やせばある程度効果はあるかもしれないが,出力インピーダンスが低いのでそれなりの大容量が必要になる。

最新の高性能LDOはドロップ電圧が小さく,ノイズも少ないが,ノイズが最小ではない。またPSRRの問題は残されたままだ。

LDOは通常のレギュレターに比べて更に問題が多い。

出力トランジスタがコレクタ出力なので負荷によってLOOPゲインの変動が大きく,無負荷でもダメだし,低ESRのコンデンサーにも弱い。 発振しやすいので必ず安定性の確認が必要だ。

一般的なレギュレターでは出力インピーダンスの周波数特性も問題になる。 動特性が悪いので出力インピーダンスが周波数と共に上昇する。 つまりインダクティブな特性を持っている。実際にはここにコンデンサーをぶら下げるので特定の周波数にピークを持った特性になる。 ピークを持っているとリンギングがでたりする。

スパイスで攻める

評価ポイントは
・PSRR(0.1Hz〜100MHz)140dBが目標,最低でも120dB以上
・出力インピーダンス(0.1Hz〜100MHz)0.1Ω位
・出力ノイズ(0.1Hz〜100MHz)1nV/rootHz以下
・ヘッドルーム電圧1.5V以上
・電流制限300mAくらいで制限がかかること

結果,出力電圧を3.0Vとすることで4.4Vから動作するレギュレターができた。 ドロップ電圧は1.4Vあれば動作するということになる。

・供給電圧が5.0V以下の場合はQ10を10Ωの抵抗に置き換える,R22を47Ω〜100Ωにする,R16を220Ωとし出力電圧は3.0Vとする
・供給電圧が5.5V以上の場合はR15,R17を100Ωにすると特性が改善する

■基本構成

基本構成は非常にシンプルなレギュレターにリップルフィルターを追加した回路とした。 レギュレターが電圧の安定化と出力インピーダンスの低減を担う。 レギュレターのPSRR特性は高い周波数においてLOOPゲインが落ちるため,高い周波数で悪化する。 そのため,リップルフィルターで電源ノイズを落とす。

普通のレギュレターを基本にリップルフィルターを追加する。 リップルフィルタは60dBくらいの低減効果があるが頭打ちとなる。 2段重ねると120dBくらいまでいける。 出力トランジスタも同様にオープンループでは大して減衰しない。なのでカスコードトランジスタを追加する。 こうすることで高周波でのPSRRを高くすることが出来る。

温度による安定性を考えると差動回路が必要。
差動回路の負荷は電圧に余裕がないのでカレントミラー。

共通エミッタの定電流回路はノイズを発するので抵抗の方がよいみたい。

基準電圧はLPFする。
帰還抵抗は抵抗値を小さくしてかつバイパスる。
1nV/rootHz以下ににできる。

差動回路のトランジスタのベースのDCインピーダンスを合わせるとオフセットが小さくなり温度で安定する。

PSRRを稼ぐためにカスコードトランジスタを追加する。 カスコードトランジスタの接続先を工夫してヘッドルームを稼ぐ。

カレントミラーに抵抗を入れると安定するけど電圧ドロップになるので入れない。

電流制限はカスコードトランジスタのコレクタに入れた抵抗で行う。 この抵抗を入れることでPSRRが更に高まる。

差動1段で出力をダーリントンにもしないのでLOOPゲインは低い。 出力インピーダンスは0.1Ω程度と予想。

LOOPゲインが低く,1段増幅なので位相補正が必要ない。100kHz位まで負帰還で抑え込める。 それ以上は出力のコンデンサーで抑える。容量は2.2uF〜10uFで充分。

帰還抵抗は330Ωと1kΩと低めに設定。熱雑音を下げる。さらに330Ωは100uFでバイパス。 負帰還が強まるので出力インピーダンスが下がり,330Ωの熱雑音がなくなるので1nV/rootHz以下を狙える。

■構成部品の機能


基本回路を示す。

Q3 : 誤差アンプ用差動トランジスタ,デュアルトランジスタが望ましい
Q5 : 誤差アンプ用差動トランジスタ,デュアルトランジスタが望ましい
Q1 : 誤差アンプのカレントミラー負荷,ダイオード接続トランジスタ,ベース電流補償型にしてもよいが特性に有意差なし
Q2 : 誤差アンプのカレントミラー負荷,ここがつぶれると動かないのでVCE電圧を300mVは確保する
Q4 : ノイズ阻止用カスコードトランジスタ
Q9 : 負荷制御トランジスタ,ヘッドルームが少なくダーリントンにする余裕はないのでLOOPゲインが低くなるがその分高速
Q10 : リップルフィルター,入力電源電圧が5V以下に下がる場合は10Ωの抵抗に置き換える

R23 : 差動対のテール電流を決める抵抗,定電流源でもよいが特性は変わらないばかりかノイズを発するし回路が複雑になる
R15 : カレントミラーのバランスを向上させる抵抗,ドロップが発生するのでヘッドルームを稼ぐためゼロ
R17 : カレントミラーのバランスを向上させる抵抗,ドロップが発生するのでヘッドルームを稼ぐためゼロ
R9 : 基準電圧源のノイズフィルタ,Q3,Q6のベース抵抗を一致させてオフセットを低減する,R9=R16//R22
R16 : 出力電圧を決める帰還抵抗,330Ωで3.3V,220Ωで3.0V
R22 : 出力電圧を決める帰還抵抗,1kΩ,低消費電力性は求められないので抵抗値は積極的に小さくする
R6 : Q10がある場合は1kΩ程度,無い場合は47Ω〜100Ω程度
R20 : Q4を経由して漏れこんでくる高周波ノイズを落とす抵抗,4.7Ωにすると電流が300mA程度に制限される
R8 : 出力コンデンサのESR,80mΩ以下が望ましい
R24 : 負荷抵抗,約100mA(33Ω)程度まではまともに動く

C3 : リップルフィルター
C11 : リップルフィルター,Q10のコレクタからの漏洩ノイズを落とす,Q10が無い場合は2次のLPFとして高周波を落とす
C4 : リップルフィルター,Q4のコレクタからの漏洩ノイズを落とす
C5 : 基準電圧源のノイズとR9の熱雑音を落とすフィルター
C10 : R16の熱雑音をショートしノイズを下げる,LOOPゲインを上げて出力インピーダンスを下げる
C1 : 出力コンデンサ,最終的な高周波特性を決める,10uF程度

V2 : 基準電圧源,たまたま手持ちのREF5025を使用,TL431などでもよい
I3 : REF5025の消費電流をシミュレート,1mAとした

どれか一つ部品が欠けるだけで大きく性能が劣化する。

改善ネタとしては下記のようなネタがあるが,性能はあまり変わらない。
カレントミラーをベース電流補償型にする。
Q10のコレクタにリップルフィルターを入れる。
R23を定電流回路に置き換える。

リップルフィルタの時定数を下げていくと立ち上がりが悪くなるので注意が必要。
出力の短絡保護はR20で行っているが数百mA流れるのでトランジスタの定格に注意が必要。

■回路シミュレーション結果の周波数特性グラフ

一番上 : 入力電源電圧にリップルを印加して出力を観測,いわゆるPSRR特性,出力コンデンサはなしの状態
緑はリップルフィルタなしの特性,普通の定電圧源はこのように周波数が高くなるとPSRRが悪化する
100kHzまでフラットなので動特性が優れているのがわかる
赤は全てのリップルフィルタを有効にした場合,50Hzで60dBでそれ以上は6dB/oct,1kHz以上は12dB/octで1MHzまで落ち続ける
出力コンデンサを接続すると1MHz以上でも落ち続ける

2番目 : 出力インピーダンス特性,1kΩで出力をドライブした時の電圧,出力コンデンサはなしの状態
1mVが1Ωに相当,100uV以下なので100mΩ以下と言える
出力コンデンサーを接続すると出力インピーダンスは低下する
10Hz以下の盛り上がりは帰還回路のバイパスコンデンサの時定数による

3番目 : 出力ノイズ特性,出力コンデンサはなしの状態
100Hz以上では1nV/rootHzを下回る 0.8nV/rootHzは40Ωの抵抗が発する熱雑音と等価
100Hz以下で盛り上がりは,ノイズバイパスコンデンサの時定数による
つまり,ノイズバイパスコンデンサが無い場合は全帯域で4nV/rootHz程度になる
負帰還LOOP内にノイズ源があってもゲイン分の1に抑圧されるので
結果的には誤差アンプに使用するトランジスタのノイズ特性が支配的と考えられる


■ヘッドルーム電圧特性のシミュレーション結果

入力を徐々に上昇させたときの各部の電圧,入力電源電圧が4.4Vで出力が安定するのでドロップ電圧は1.4V必要とわかる。
なお,電源電圧が低い状態に対応のため,出力は3.0V,Q10は10Ω,R6を47Ωとしている。

この結果から3.0Vを安定して出力するには入力電圧は4.4V以上必要であることがわかる。 もし3.3Vに設定するならば4.8V以上必要だろう。

赤:出力電圧
青:Q9のベース電圧
オリーブ色:Q4のベース電圧
緑:入力電源電圧

もっともヘッドルームが厳しいのがQ2。
hfeが低下するとLOOPゲインが低下して諸特性が悪化するので,VCEを300mV程度は確保したい。

この例はQ10を10Ωに置き換えているが,Q10にトランジスタを使うと緑色の線とオリーブ色の線の電圧差が0.7Vになる。


実際に作ってみたが・・・

基準電圧はREF5025が手持ちであったので採用。ノイズが少ないらしいが,さらにLPFすることで1nV/rootHz以下を狙う。

USBバスパワーの電圧が4.5Vしかない(汗)
対応に追われる・・・
カレントミラーのトランジスタつぶれてしまう・・・
VCE電圧が100mVは確保できるように定数を調整した。

出力電圧を3.0Vとした。300mV稼げる。
リップルフィルターのトランジスタを抵抗に置き換えた。500mVくらい稼げる。

トランジスタは身近にあったもの。2SA995,2SC1733,2SC945を使用。 注意点はVCEsatが高いものはだめと言う点。まあ,普通のトランジスタならOK。デュアルトランジスタじゃなくても大丈夫かもしれないけど・・・

実力確認

FGの出力をレギュレターに接続する。2Vpp(50ohm )を出力に印加すると・・・
とれ残りが3.4mVppとよめる。(オシロで観測)
周波数特性は素直。リンギングやオーバーシュートは皆無。100kHzでも矩形波に見えるので相当高速。

出力インピーダンスは85mohm
シュミレーションは100mohm

PSRRはサボアナに突っ込んでみる。
結果,10Hz -53dB,100Hz -74dBそれ以上は測定不能
シュミレーションは10Hz -56dB,100Hz -76dB,ボトムは-140dB

ふつうレギュレータはPSRRは低域で高く,広域に向かって落ちていくが,こいつは正反対。 LOOPゲインが低いので低域のPSRRはむしろあまり高くなく,リップルフィルターの効果で単調にPSRRが増加していく。 それでもシミュレーションによると底はあり,最大で140dBということになる。140dBとは1Vのノイズが100nVになるということ・・・ 電気回路設計的には無限大(考えるだけ無駄)と考えていい。

ユニバーサル基板で作りましたが注意点はGNDの配線でしょうか。基板裏に大容量積セラを追加しています。 ノイズを漏らさないように・・・フィルタのコンデンサの配線は慎重に。


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