ギターアンプ用の配線材の音質を比較してみる


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参考文献「自作に役立つ書籍」はこちら・・・


趣旨

どんな配線材を使うのかという悩みがなぜか尽きない。

最初に作ったアンプはLC-OFCを使った。
次に作ったアンプはBELDENのテフロン被覆線を使った。
その次に使ったアンプはIV単線とビーメックスを使った。
その次に作ったアンプはLANケーブルの中身を使った。
その次に作ったアンプはフェンダーで使われていたという綿巻線を使った。
その次に作ったアンプはMOGAMIの2514を使った。

線材で音が変わるのかどうか確かめたことは無く,なんとなくよさ気な線材をそのつど選んで使ってきた。

「比較してみましょう」というのが今回の趣旨です。

20120507:2種追加しました。


自作真空管ギターアンプのBlogで音作りのノウハウもシェア


環境

古今東西6種類の線材を用意した。

用意したそれぞれの配線材にスイッチクラフトのフォーンプラグを取り付ける。
配線材はGND,HOTにそれぞれ1本ずつ使用する。長さは2メートル。2本はかるく撚り合わせてツイストペア状態にする。
エレキギターとアンプ間をシールド無しのツイストペアケーブルで接続する。

アンプは自作「Over Drive Special +Singer 60s」真空管はいつもの組み合わせ。設定もいつもの設定。(PRS12時)
主にストラトのリアピックアップ(トーンコントロールは効く状態に改造している)。ピックアップはFENDER TEXAS SPECIALを搭載。
負荷容量は配線容量+150pF(音色を安定化させるためにギターのボリュームポットに銅箔スチコンを入れている)。

シールド無しなので,エアコンを入れるとノイズが乗るが,エアコンを切れば気にならない。
秋口で涼しくなってきたので快適に比較作業ができた。

pF単位で計測できるハンディマルチメータでGND-HOT間の静電容量を測定。


評価項目

漠然と感想を述べてもよくわからないので項目を挙げて比較する。まあ適当ですが。

キレイ繊細さふとさガッツイタさ
コードの分離感
中域の見通し
ピッキングニュアンス
タッチレスポンス
ミドルの太さ
単音の存在感
巻き弦の反応
パンチ
高域の抜け
耳に痛い成分

結果

20130203容量を測定しなおした。
クロスレプリカの容量がずいぶん少なくなったな・・・おかしい・・・こんなつもりじゃ・・・

ワイアGAUGE静電容量
pF/m
キレイ繊細さふとさガッツイタさComment
WE Enamel Solid
Black/Red
20AWG146pF 53.3pF/mギラギラしている
WE Enamel Solid
Yellow/Green
20AWG105pF 47.1pF/mまとまりがよい
GAVITT Stranded22AWG
7x30AWG
122pF 49.9pF/m巻き弦のガツンがいい
MOGAMI 2514≒20AWG
19x0.18mm
102pF 48.3pF/m全帯域にストレスが無い,見通しが良い
BELDEN 850322AWG
7x30AWG
142pF 60pF/m曇った感じ,バランスが良い
Cloth Covered Wire22AWG
7x30AWG
208pF 52.9pF/m曇った感じ,太く,柔らかい
20120507追加分
LAN Cable CAT5
Star Quad
2x24AWG
7x32AWG
300pF 140pF/mジャキっとしてブライト
TEFLON Stranded
Twisted Pair
24AWG
19x38AWG
110pF 48.6pF/m意外とふつう,やや柔らかい

△:がんばろう,よわい
○:ふつう,中庸
◎:よい,強い


左から,CLOTH WIRE,BELDEN,MOGAMI,GAVITT,WE黄,WE黒


総評

ウエスタン(WE)はどちらも単線だけに抜けがよい。
黒色被覆はよりギラギラしているのにくらべ黄色被覆はコンプをかけたようなまとまりがある。
どちらもいわゆる「ブラックエナメル」であるが,コレだけ違うと別物といってよかろう。

撚り線はMOGAMIを除き少しもやっとした感触。
GAVITTEとBELDENは非常に質感が近い。
あえて差を指摘すると,GAVITTEは巻き弦のガツっとした感じがよくでる。そしてBELDENの方がやや曇る。

クロスワイアは最も太く,ディテールを省略したダンゴ的な表現となる。その代わりミドルが厚くまとまりはよい。

MOGAMIは全帯域にハリがあり,見通しがよい。解像度がよいと感じた。

20120507:2種追加

LAN Cable CAT5 Star QuadはMOGAMIをジャキっとし感じで,明るさが足される。
案外容量が多いが,スターカッド撚りにしているせいだと思う。たぶん単純なツイストペアの2倍くらいになっている。
ここまで容量が多いと,ケーブルの容量とピックアップの共振によって生じるピークの変化が大きくなってしまうので,音が違うと感じるのは当然かもしれない。

TEFLON Strandedは意外とふつう。MOGAMIと比べるとやや柔らかい感触だが,濁る感じではない。
細い銀メッキ線の撚り線なのでビビッドな音を期待していたのだがやや肩透かしを食らった感が否めない。


配線材を交換したときの音色の変化は抵抗器を交換したときと同じくらいで大きくは無いが,全帯域に対して支配的に効いてくるように感じた。

ただし,使う場所に応じて音色の変化が異なるとも考えられる。
スピーカーケーブルに適している線材,高圧配線に適している線材,ハイインピーダンス配線に適している線材。
それぞれ求められる性能が異なるように思える。

つまり,今回はギターとアンプを接続するシールド線の置き換えとして比較したが,別の用途で比較すれば別の評価が出てくると考えている。

ギターアンプにおける音質、音色、トーンに対する各要素の影響度をイメージするとこんな感じ。

回路設計 >> 回路定数 >> 真空管(管種) > 真空管(メーカー)= トランス > コンデンサ > 線材 = 抵抗器

音色比較以前に一番大切なのは,正しく動作していて音圧があり,ノイズが少ないこと。


背景

線材による差はあまり感じたことはないのだが,情報を集めていくうちに傾向が分かってきたような気がした。

単線のほうがベクトルが明確で立ち上がり速く元気な音だが音調は単調な傾向。
撚り線はもっさり感が特徴で曇った感じになるが,音調は複雑になる傾向。

メッキがあると高域に癖が出る。
裸銅のほうが自然になる。

というような傾向から,ここ5年くらいは裸銅の7芯撚り線が良いと考えていた。身近なモノとしてはLANケーブルの中身が該当する。 著名なメーカーが特性を保障して作っているだけあって,品質は十分で皮膜との導体の密着度などはしっかりしている。 しかし,やや細いこと,熱に弱いこと,そして最近のより広帯域な「カテゴリー何とか」は単線であることが残念だった。

7芯は同心撚りと呼ばれており,幾何学的にバランスが取れていて無駄な遊びの余地がない。 単線の特徴と撚り線の特徴を兼ね揃えていると考えている。

MOGAMIの2514は19芯だが,19芯は7芯と同様に同心撚りである。 7芯撚りは6角形だがその周りに12本の線材が配置され追加され幾何学的にキレイに収まる。

といった「知識?」「愚かな推測?」を元に配線材の選択を行ってきたが,やはり実際の違いが気になる。 ということで,今回代表的な線材を集めて比較してみた。



線材6種の紹介+2種追加(20120507)

8種類の線材を紹介する。 そのうちビンテージ線材は3種類調達した。

■WEのAWG20,エナメル単線
有名ないわゆる「ブラックエナメル」と呼ばれるもの。
「WE」とは「Western Electric」の略だ。「神」である(^^)。何人たりとも冒涜することは許されない。
つまりは古き良きアメリカの最先端企業なのだ。優秀な人材と豊富な資金をつぎ込んで電話,通信,映画,軍用などの機器を作っていた。

銅の単線に黒くザラっとしたエナメル塗装がされており,絹(シルク)巻きの上に綿(コットン)で編み上げている。
硬く張りがあるのが特徴かと思われる。被覆の綿巻きも非常に硬い。
綿巻きの仕上げには編み上げ(Braid)と横巻き(Spiral)があるようだ。
横巻きはほつれやすく端末処理が難しい。

今回は赤黒の2色組みと赤系黄系の4色組みの2種類を入手し比較した。
「黒」は銅の上に銀色のメッキがかけられ,その上にエナメルがかけられている。 エナメルの質感はザラっとしている。
「黄」は銅の上に直接エナメルがかけられている。エナメルの質感はつるっとしている。

■GAVITTのAWG22撚り線。布被覆
「GAVITT」はアメリカのメーカーらしい。ビンテージ線材としては結構名が通っている。名前がヘンだよね。
今回はAWG22の撚り線を調達した。7芯の導体はメッキされており,周囲を樹脂の被覆が覆い,その外側は綿で編み上げられている。
綿巻の表面はわりとつややか。ラッカーコーティングされているのかも知れない。撚り線なので全体にしなやか。

ビンテージ線材は素材の組成が違うとかエージングされているとかそんな噂があるが,真相はいかに。

さて,現行の線材としては・・・

■MOGAMIの2514
MOGAMIは日本のメーカー。特殊な電線を得意とするみたい。
オーディオ用でも他のメーカーのように値段だけ高いのではなく,常識的な価格で質実剛健な線材を作る。
「2514」は機器内配線,スピーカーの配線などに向けたもの。太さは大体AWG20に相当する。
導体は19本の裸銅で構成されている。被覆は見た目からポリエチレン系かと思われるが詳細は不明。
樹脂を着色する顔料が音を悪くするという「噂」があり,今回は無着色のものを調達。

■BELDENの8503
BELDENはアメリカの老舗電線屋。電源コードから光ファイバまでとても幅広ラインナップをもつ。
「8503」は真空管アンプやギター用の配線材として最も一般的な配線材として知られる。
AWG22の7芯同心撚りである。導体は錫メッキされているのが特徴であるが,コレは,耐久性を第一に考えるが故であるという。
裸銅は案外厄介で,中途半端な被覆と組み合わせて長期間使用すると銅が腐食してくる。
8503はPVC皮膜だが不思議と剥がしやすく,配線時の据わりも良い。

■クロスワイアー
フェンダーのギターの配線,ピックアップのリード線として使われているのが有名。
フェンダーに供給していたという謳い文句のワイアーを調達した。
AWG22の同心撚りだが,7本の導体がハンダで固められているのが特徴。
綿の被覆は2重になっていて,「プッシュバック」とよばれ,被覆を剥く必要がない。
表面はワックスがかかっておりしなやか。バラケにくくしなやかで配線しやすい。据わりも良い。

20120507:2種追加

■LAN Cable CAT5 Star Quad
CAT5のLANケーブルをばらして中身のツイステッド・ペア・ケーブルを取り出して使用する。
LANケーブルはツイスト・ペアが4対(4色)組み合わせれている。4対それぞれ撚りピッチが異なるので,微妙に音も違うかもしれない(笑)。今回は茶色を使用した。
導体は24AWG程度の太さがあり,7本の裸銅で構成されている。CAT6は単線になる。ギター用なのでわざわざ撚り線を選んでいる。
高周波を通すのでインピーダンス管理されており,100Ωになるように設計されている。また,線間容量も少ないと思われる。
今回はさらに4本により合わせてスター・カッド(Star Quad)接続とした。電磁波のキャンセル効果を期待している。
4本撚り合せると結構太くなるがアンプ内を引き回すにはちょうど良い太さ。
被覆はポリエチレンだと思うが,被覆が薄いこともあり熱に弱いので半田付け時には注意が必要。

■TEFLON Stranded
銀メッキの細い銅線が19本撚り合されている。通常の銀メッキテフロン線は7本の撚り合せが多いがこれは19本だ。
仕上がり径は24AWG程度なので銅線ひとつひとつは結構細い。
2本の線材がツイステッド・ペアになっており,ほつれないように被覆同士が接着(融着)されている。被覆の色は黄色と黒。
被覆はテフロンなので硬いが細い撚り線なので取り回しは難しくない。
現在同様の線材は入手難。


配線材の静電容量がギターの音色に与える影響

静電容量,つまりキャパシタンスで,コンデンサーということ。 2本の線材が平行に走っていると,その線材間に寄生容量が発生する。

静電容量は被覆の素材と厚さによって決まってくる。 あとは撚りピッチもやや影響がある。静電容量が大きいとハイ落ちの原因となる。

エレキギターのピックアップ出力を直接接続する場合,負荷容量の違いが音色に影響を及ぼす。 ピックアップのインダクタンスと負荷容量で起こる共振周波数が変化して,ハイのぎらついた部分のニュアンスが微妙に違ってくる。

クロスワイアーは容量が多いのでアンプ内,ギター内を問わずに多用する場合は注意が必要。

今回はギター内部に150pFのコンデンサを入れているためか配線容量の差による音色変化は少ないと感じた。


マイクロフォニック・ノイズ(タッチ・ノイズ)の発生原理:20201001追加

配線材によって音が変わる現象をもう少し科学的にとらえてみたいと思います。 個人的にはオカルト感を感じていて本当かな〜と思っているのですが,多少は影響ありますからね。仕方ない。

マイクロフォニック・ノイズ理解してもらうためにはまず,マイクロフォン(マイク)の原理をイメージしてください。知らない人は調べてみましょう。 コンデンサーマイクやダイナミックマイクなど様々な方式のマイクがあります。 マイクは振動を電気信号に変換する装置です。機械的振動と電気信号を橋渡しする役割があります。

機械振動が電気信号に変換される現象を総じてマイクロフォニックと言います。真空管アンプではよく話題にあがります。

配線材が振動した時,その機械的な振動が電気信号に変換されるようなことがあると電気信号にとってはノイズになります。 幾つかの原理がありますがマイクの原理と同じなのです。 例えばコンデンサー・マイクは静電容量の変化を検出して電気信号とします。 ダイナミック・マイクはコイルと磁石による起電力によって振動を電気信号に変換しています。 それ以外にはピエゾ・マイクというものもあります。 これらの原理すべてが配線材に発生するマイクロフォニック・ノイズに関係するのです。

配線材から発生するノイズと絶縁体の特性:20201001追加

マイクロフォニック・ノイズ以外にも微小な迷走電流や漏れ電流によるノイズもあります。 KEITHLEYの解説書やケーブル屋さんの主張を引用しつつまとめてみます。

◆1:摩擦帯電効果(Triboelectric effects:トライボ・エレクトリック・エフェクト)
ギター用シールドケーブルを自作したことがある人は知っていますが,白い絶縁体の周りに黒いビニールの導電樹脂層があります。 この導電樹脂層は電気を通します。この樹脂が摩擦によって発生する電荷を中和してマイクロフォニック・ノイズを防止しています。 もう少し説明しましょう。絶縁体は電気を通しません。電気を通さないことが絶縁体の使命ですから電気を通さない絶縁体は優れた絶縁体です。 しかし優れた絶縁体は表面に溜まった電荷を逃がすことができません。 ケーブルが動くと静電気が発生して絶縁体表面に電荷が溜まります。この電荷は逃げ場がなくなりその場に溜まり続けます。 表面に溜まった電荷が機械的振動を受けることによってコンデンサーマイクの原理と同様に電気信号に変換されてノイズとなります。 黒い導電樹脂層は絶縁体表面の電荷を逃がして中和することによってノイズの発生を防止します。 黒い導電樹脂の替わりに絹(シルク)や綿(コットン)などの天然由来の絶縁体を使うこともできます。 天然由来の絶縁体は体積抵抗率があまり高くありません。つまり絶縁体としての性能は劣ります。 しかしその代わりに余計な静電気や電荷を逃がすことができるのでノイズの発生を防止することができるのです。


KEITHLEYのアプリケーションノートより引用

摩擦帯電効果は電流ノイズなのでインピーダンスの高い回路で特に問題になります。

◆2:圧電効果(Piezoelectric effects)
ピエゾ効果は圧電素子で顕著に発生します。当然と言えば当然,圧電素子とはピエゾ効果を顕著に高めた物質だからです。 圧電素子はピエゾ・マイク,ピエゾ・ブザー,クリスタル・イヤホンと言った用途で実用化されています。 ギターではエレアコで使われるピエゾ・ピックアップがありますし,LPレコードを再生するカートリッジにもピエゾを使ったものがあります。 もちろん専用の圧電素子が高い圧電効果を持つことは明白です。例えばロッシェル塩という物質が圧電素子として有名です。 それ以外にも意図せず発生する圧電効果は沢山あります。 大容量のセラミック・コンデンサがピエゾ効果を示すことは有名です。 ピエゾ効果を示すセラミック・コンデンサにパルス状の電流を流すと異音が発生することがあります。 水晶やサファイヤなどのクリスタル(結晶)も圧電効果を示します。 そして,テフロンなどの樹脂も圧電効果を示します。 配線材を構成するプラスチックでは問題になることは少ないようです。

圧電効果も電流ノイズなのでインピーダンスの高い回路で問題になります。

◆3:誘電分極,誘電吸収(Dielectric absoption:ダイエレクトリック・アブソープション)
もうひとつ音質に影響があると言われているのが,絶縁体の誘電分極特性です。 絶縁体と言えども分子単位でみると電気を帯びています。電界が加わると分極して動こうとする力が発生します。 ところが分子同士が絡み合った固体なので分極変化はゆっくり進みます。つまり周波数特性を持ちます。 結果として低い周波数ほど絶縁体の誘電率が高く,高い周波数ほど誘電率が低く見えることになります。 周波数によってコンデンサーの容量が変化するということになります。こういった非線形な特性は歪みや変調の原因となります。 異なる周波数を持った複雑な信号を入力すると出てくる信号に変化が加わることになります。 特に大きな電圧を印加するスピーカー・ケーブルでは影響が大きいと言われています。 塩化ビニールは誘電分極が大きく,ポリエチレン,ポリスチレン,テフロンは誘電分極が小さいです。 もちろん絶縁体の誘電率が小さく低容量であるほど影響は少ないです。誘電率の小さな発泡樹脂を使うこともあります。

歪みや変調として表れるので外来ノイズではありません。しかしトーンを変える効果はあるようです。

◆4:表面抵抗率(Surface resistivity)
絶縁体の表面は汚染されやすいです。空気中に漂う物質や指についている汗や皮脂によって汚染されます。 抵抗率が下がれば漏れ電流が発生します。漏れ電流はノイズの原因となります。 ほとんどの場合はボソボソというような非定常的なノイズになりますので,音質にはあまり関係ないと思われます。

振動とは関係しないのでマイクロフォニック・ノイズではありません。ケーブルよりもアンプ内のプリント基板で発生しやすいノイズです。 高電圧が印加される部分で発生しやすいです。

◆5:体積抵抗率(Volume resistivity)
絶縁体は固有の抵抗率を持っています。物質の純度が高ければ高いほど抵抗値は高くなります。 半導体で使われる高純度シリコンが最も極端な例です。 配線材に使われる絶縁体に影響があるのは含水率です。樹脂は少なからず水分を吸収します。 取り込まれた水分はイオンの通り道となり抵抗率を低下させます。やはり非定常ノイズを発生させる原因になります。 絶縁体中に多くの導電物質を分散させる特殊な樹脂は押しつぶすと抵抗値が下がるという極端な特性を示すことにもなります。 これはカーボンマイクの原理と同様です。

これもマイクロフォニック・ノイズではありません。電解コンデンサーが発するノイズはこのノイズです。 劣化した古い樹脂では発生しやすいと思います。


このように絶縁体を取り巻く事情は複雑です。配線用のケーブルは導体の周囲を絶縁体が覆っています。 裸の銅線で配線することをイメージすれば,それが如何に無謀なことかわかると思います。

絶縁体には外界から導体とその中を通る電気信号を守るという重要な役割があります。 しかし,配線が長くなれば当然この周囲を取り巻く絶縁体が大きな影響を及ぼすようになるわけです。

ケーブルや配線材で音が変わるのか?プリント基板とポイント・トゥ・ポイント配線で音が違うのか? 良いトーンを実現するにはどんな配線材を使えばいいのか。音の良い線材は?最強のワイアは?

ここまで語っておいて無責任ですが,答えはまだ見つかりません。

配線材の影響については素材の特徴だけでなく「糸電話効果」を提唱する人もいます。わたしはあまり実感しませんが(笑)。 他の機器やトランス,スピーカーからの音圧などで発生した振動が電線を通じて伝播し,微弱な信号を汚すということです。 液体ジャケットの極太ケーブルやケーブル・インシュレーターのようなオーディオ・アクセサリーが効果的という理由のひとつと思われます。

わたしの経験ではプラグの鳴きというものに出会ったことがあります。 ギターのマイクロフォニックノイズを調べるためにハイゲイン・アンプにギターを接続してあちこち叩く実験をしていました。 すると特定の場所を叩くと金属が響く音がします。しかし,シールド・ケーブルを交換するとこの音が止まります。 原因はシールド・ケーブルに取り付けられたプラグでした。しかも同じメーカーのプラグでも鳴くモノと鳴かないモノがあることを発見しました。 このプラグがどこのメーカーなのかは企業秘密です(笑)。

ケーブルで使われる樹脂は機械的強度,耐熱性,耐油性,耐寒性,柔軟性,耐電圧,絶縁抵抗,電気特性といった様々な条件を考慮して作られます。 たとえ同じ名前の樹脂だったとしても様々な種類や処理があります。例えば熱に強く強度を増すためには架橋処理が施されます。 もしくは樹脂を発泡することで誘電率を下げることができます。外装を含めて2重3重の被覆とすれば電気特性と強度を両立することもできます。

材質の違い例えば,塩化ビニルは安価で良好な機械的特性が得られますが,電気特性は劣ります。逆に架橋ポリエチレンや発泡テフロンを使った配線材は価格が高くなります。 デザインも兼ねて綿打ちしたりカバーをかけることでさらにコストがかかります。同時に汎用性もなくなるのでますます高価になります。 先ほども述べましたが綿や絹と言った天然素材にはノイズを低減する効果があります。しかし耐電圧と絶縁抵抗は望めませんので電源配線には使えません。

ワイアの秘密,ストラトのピックアップが蝋引きのワイアーを使う理由。黒い蝋でポッティングされていた理由。それぞれあると思いますよ。確かめてないですけど。。

つい長くなりましたが,こんなことのどこかにビンテージ配線材が重宝されるヒントが隠されているのではと,漠然と感じます(笑)

以上:2020/10/01


ギター用シールド線アレコレ:20201214追加

こちらにまとめました。ギター用シールドケーブルの比較

「ぼーっと生きてんじゃねぇよ」とおかっぱ頭の子にキレられつつ。。フラフラとさすらってるわけです。HookUpWireではないですが,シールド・ケーブルの話題です。

ギター用のシールド・ケーブはいまだに出口が見つかりません。例えばこんなのが秋葉原の店頭で切り売りされてまして,3メートル購入してシールド・ケーブを作ってみました。 1メートルの切り売りならamazonでも買えます。外側が金属の網がむき出しなのでカバーをかぶせる必要がありますケド。

WEの綿巻きのシールド線も試してみました。これは大分予算オーバーでしたが一生に一度は体験してみようと思いシールド・ケーブルに仕立ててみました。写真ないですね。

中心の導体はブラックエナメルです。綿巻き被覆の外側が編組シールドされており,さらに綿巻きされています。 これも細いくて折れそうなのでカバーをかぶせてます。カバーは中心に空洞がある太い紐に黒い導電性の染料を染み込ませ,その空洞にWEのシールド線を通しました。 手間がかかるのでお勧めはできません・・・

あとはスイス製のRF同軸ケーブルも試しました。芯線は太い銀メッキ単線,シールドも銀メッキで二重の編組シールドです。銅資源使い過ぎ,とても重くて固いケーブルです。 これも写真ないですね。

一般的な市販品だとSOMMERのSPIRIT XXL,BELDEN 9778も試しました。けど。

けど,音,トーンという面ではMOGAMIの3368とスイス製のRF同軸ケーブルは違いが実感できるんですが,その他ケーブルはどんぐりの背比べでした。 結局はケーブルのメーカーや構造ではなく静電容量による違いの方が大きいです。

布巻き線は嫌なところは全くないんですが,WEも含めていいところもないと思ってます。麻薬的な音とかはしません。要はバランスなんだーと言われても。 出るとこが全部出てくれた方が潰しが効くと思うんですけどね。取り留めなくてすみません。線材はみんな大好きなのです!!

以上:2020/12/14


その他,音色に影響がありそうな要素を列挙(20120507改変)

■銅の純度
→体積低効率(DCR)が違ってくる(それだけ?)
→素材の製造方法の違い
→PCOCC(結晶状態も違う?)
→OFC
→6N,7N
→タフピッチ銅

■表皮効果
→高周波のロスの原因
→リッツ線
→ロープ撚り
→リボン導体

■線間容量
→高周波の減衰(LPF効果)
→アンプにとっての容量性負荷
→誘電率の周波数特性(低域の質感)
→低容量線
→高発泡絶縁体
→架橋ポリエチレン
→空気絶縁
→導体構成(2線間の距離が離れれば容量が減る)

■絶縁体
→誘電率(線間容量)
→テフロン
→ポリエチレン
→塩化ビニル(PVC)
→ゴム
→シリコン
→絹
→綿

■振動によるトライボ(Tribo)効果
→「トリボ」とは読まない
→ケーブルを曲げたり踏んだりすることによるノイズの発生(色づけ)
→摩擦起電力
→帯電系列
→半導体層,導電ビニール

■振動による容量変化
→静電容量の変化によるノイズの発生(色づけ)
→コンデンサーマイクの原理
→ピエゾ(圧電)効果もあるかもしれない

■撚りかた
→単線
→同心撚り,7芯,19芯
→集合撚り
→異径集合

■導体
→銅(広く普及)
→銀(体積抵抗が低い)
→金(腐食に強い)
→アルミ(軽い)
→鉄(丈夫)

■メッキ
→錫メッキ(広く普及)
→銀メッキ(半田付け性がよい)
→金メッキ(腐食に強い)
→亜鉛メッキ(腐食に強いとか?)
→ニッケルメッキ(丈夫,金メッキの下地)
→鉄メッキ(丈夫とか?)

■銅合金
→銅+錫:青銅
→銅+ニッケル:白銅
→銅+亜鉛:黄銅
→銅+ベリリウム:バネ
→銅+カドミウム:硬くなるらしいが有毒
→不純物,鉛,ビスマス,鉄,アルミ,ケイ素など
→Rohs規制
→みんなが大好きなビンテージ銅線の組成は?

■特性インピーダンス
→50Ω,75Ω,100Ω(ツイステッド・ペアの差動配線)
→同軸ケーブル
→ツイスト・ペア
→オーディオ帯域では高く(1kHzで600Ω程度)周波数が上がると徐々に下がり,100kHzを超えるあたりで一定になってくる

■導体構成
→平行
→ツイスト・ペア
→スター・クアッド(Star Quad,またの名をスターカッド,カッド撚り,スタッカード)
→撚りピッチ
→同軸

たかが配線材でも考えさせられることは多いのだ。


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