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真空管アンプの安全設計:対策

8:アース・グランド


アースのつなぎ方・グランドの処理

感電を防止するためのアースのつなぎ方と安全性を高めるグランド処理について考えます。

感電対策はアースが命綱

「アース」をつなぐ意味は感電防止です。

「アース」は「人柱(身代わり)」として人体の代わりに地面などに電流を逃がして人間が感電するのを防止します。

アースと感電

アースと漏電遮断器の働き

アースは人体への感電につながる危険な電流を逃がすための経路です。 漏電遮断器と連携して我々を守ってくれます。

アースをきちんとつなげば,機器の故障で漏電が発生するとアースに漏電電流が流れます。 その漏電電流を感知して漏電遮断器が電力を遮断します。

アースをきちんとつないでいないと絶縁破壊が発生してもすぐには漏電遮断器が働かず危険な状態に陥ります。そして,人間が機械に触れると感電を起こします。

アースがきちんとつながっていれば漏電を検知でき,漏電遮断器が正しく働き,我々使用者が保護されるのです。

オーディオアンプとギターアンプは異なる

日本では法律によって義務付けられておらずアースへ接続できない装置が広く普及しています。 特にオーディオ機器では「音質を重視してアースをつながない」と宣伝しているメーカーすらあります。

まあ,オーディオ機器では人間が装置に触れて操作することはほとんどありませんので大きな問題ではないです。

一方,ギターアンプは演奏者がアースにつながった金属製のに常に触れていますので危険です。

メーカー製のアンプはちゃんと安全対策されていますので感電することはないでしょう。 しかし,自作の場合は事故が起きても自己責任です。


アースの「つなぎ方」

アースはどのように接続すればよいのでしょうか。。

AC電源のコンセントにアースが来ている

アース付の電源コンセントがあればそこから簡単にアースへ接続できます。

アース無し2Pコンセント アースつき3Pコンセント
2Pコンセントと3Pコンセント(引用:Panasonic)

アースつき2Pコンセント 変換プラグ
アースつきの2Pコンセントと変換プラグ(引用:Panasonic)

3Pコンセントの真ん中の端子はアースです。

2Pコンセントでもアース端子が別に用意されているモノもあります。 変換プラグを使用してアースをつなぎます。

日本ではアースが来ていないコンセントもある

日本では洗濯機などや電子レンジではアースの設置が義務化されていますので台所や水周りにはアースつきコンセントになっています。

しかし,リビングルームにまでアースを引いている家屋は稀でしょう。

その場合は自分でアースを引いてくるか,アースなしの状態で使用する状態になります。もちろん自己責任です。

#:我が家はすべて3Pコンセントです。

様々なアースのつなぎ方

アースは設備側(建物)で地面に接地されています。通常は建物を作るときに工事を行います。

工事を行うには資格が必要ですし,壁の中に配線を通すわけですから業者任せとなります。

最近は分電盤に各部屋のアースを集中させて一括でアースに接続する方式が一般的です。

建物側でのアースのつなぎ方にも色々あります。

基本は大地に対してできるだけ接地抵抗が低くなるように地面にアース棒を打ち込みます。

マンションでは専用のアース線が用意されていたり,鉄骨自体がアースの役目を持たせるようです。

水道管が金属製だった時代は水道管をアースの代用にしたそうです。

いずれにせよ有資格者による工事が必要になります。

アースを接続するとノイズが出る場合

エレキギターは原理的にアースに乗ってくるノイズに対して弱いです。 アースにノイズが乗るとギターのピックアップがそのノイズを拾ってしまうからです。

ノイズを発生する機器とアンプが同じ電源に接続されているとアースにノイズが乗ってきます。

大きなノイズを発生するのは,,,
インバーターを搭載したエアコン,冷蔵庫,洗濯機などの機器
ドライヤー,掃除機などのモーター機器
パソコンなどのスイッチング電源を搭載した機器です。

集合住宅では他人の部屋で使っている機器のノイズの影響を受けることもあります。

アースを接続してノイズが増える状況では電源にコモンモード・ノイズが発生しています。 コモンモード・ノイズは除去が非常に困難です。 ノイズを減らすためにはノイズの乗っていないきれいなアースに接続する必要があります。

理想的には音響機器専用アースを用意して,ノイズに弱い機材を集中的に接続してノイズ源から分離します。

とはいえ,専用スタジオでない限り音響用のアースを用意するなど困難です。 一戸建ての家屋ならまだしもマンションではさらに困難です。

ノイズ対策にはノイズ・フィルターがあります。 ノイズ対策の基本はノイズ源からノイズを出さないことです。ノイズ・フィルターはノイズを発する機器の近くに設置するべきです。

また,ノイズ・フィルターは適切にアースに接続しないと漏洩電流によって感電を誘発しますのでギターアンプには使わない方がよいでしょう。

オーディオ用のクリーン電源も目玉が飛び出るほどの高級機が市販されています。 しかし,これらの電源ノーマルモード・ノイズは強力に遮断しますが,コモンモード・ノイズ対してはハッキリした性能が示されていません。 ギターが影響を受けやすいのはコモンモード・ノイズなので効果が得られない可能性もあります。

絶縁トランスで安全にノイズを遮断する

専用アースが用意できない場合はノイジーな機器と違うコンセントにつなぐだけでもノイズが減少する可能性があります。

どうしてもアースを外さないとノイズが消えない場合は感電を防止するために絶縁トランスを使ってAC電源からの絶縁を強化します。 絶縁トランスが入っていればアースを切り離しても安全性が担保されます。

絶縁トランスにはノイズを遮断する効果をもつモノもありますので,ノイズ対策には有効です。

絶縁トランスが入れば,アースの処理は自由にできると考えてよいと思います。 絶縁トランスの2次側アースを専用アースで接地できれば理想的です。

絶縁トランス使用上の注意点ですが,トランスの電力容量は使用機材の合計電力の最低でも2倍以上必要でしょう。


アンプ側のアース配線・グランド処理

ACINLET

アンプのアースは電源コードを通じてコンセントのアースにつなぎます。

ですから,電源コードのアース線は必ずシャーシに接続します。

シャーシとの接続部分は良好な接触確保のため菊座金を使い外れないようにネジでしっかりと接続します。

コンセントから供給される電源線(2本)をアース代わりにシャーシにつないではいけません。

そして最終的にアース配線がエレキギターの弦アースに接続します。

つまり,コンセントのアースとギターの弦を直結状態にします。

電源回路の説明は「安全な電源回路」のページを参照してください。

温故知新

昔のフェンダー製アンプは「GROUND」スイッチがあり,電源線2本のどちらかをコンデンサーを介してシャーシに接続していましたが, これは古い設計です。現代には通用しません。フェンダーのリイッシュのアンプのほとんどにこのコンデンサはありません。アースはシャーシに直結してあります。

TWIN 5E8
「FENDER TWIN 5E8」オリジナルの電源部分(引用:Fender)

57 TWIN
「FENDER 57 TWIN」リプロダクションの電源部分(引用:Fender)


回路グランドの処理方法

アンプ内の回路グランドの接続法は諸説あり,ノイズの出方と密接に関係します。

安全性とは直接関係ないのですが,必要な情報と思いますので雑感を整理しました。

いくつかの例を示してみました。分類するためにかなり単純化しました。 実際の配線にはそのまま応用できないかもしれませんが,考え方の参考になればと思います。

現行フェンダー方式

アンプのグランド処理2
Fig:1

フロントパネルにアース板を取り付ける方法です。 シャーシの導通に頼らずにアース板にグランド配線を半田付けしてしまいます。

アース板とPOT,周辺部品を事前に組み立てておくことができ,工作が楽になります。

しかしネジの導通に頼っているので,ネジが緩むと故障します。

マーシャル方式(旧モデルリイッシュ)

アンプのグランド処理3
Fig:2

入力ジャックや出力ジャックに絶縁タイプを使う接地方法です。

シャーシ内グランドループができませんのでアンプ内部で発生するハムやリップルなどのノイズが出にくいです。 しかし,外来ノイズをアンプ内部に引き込んでしまうので入力付近の配線には気を使います。

可変抵抗の内部の抵抗体と外部を覆う金属部分に電位差が発生して,つまみから外来ノイズが入ってきます。 金属のつまみを使っていると,つまみに触れた時にノイズが出る現象に見舞われることがあります。 つまみに絶縁体を使えばノイズの侵入を防止できます。

マーシャル方式(新モデル)

アンプのグランド処理4
Fig:3

Fig:3を外来ノイズに強くした設計です。外来ノイズの高周波成分はコンデンサを通じてシャーシに流します。

回路は電源部分で接地されるケースが多いですが,「L+R」を使う場合もあります。シャーシ内グランドループ防止の配慮と思われます。

可変抵抗の外部を覆う金属部分と回路グランドはコンデンサ経由で高周波だけを通します。 この方法で外部からの高周波ノイズに強くなります。

合理的かつ高度な方法ですが,各定数を一体いくらにすればよいのか悩みます。 また,実際にどんな状況でどの程度の効果を発揮するのか不明です。

回路グランドとシャーシ・アース間に「L+R」などの部品を介して接地する場合,その部品が故障するとアース接続が外れてしまい感電を起こします。 したがって信頼性の高い部品を使い,異常試験を念入りに行う必要があります。

HRLの最近のハヤリ

アンプのグランド処理1
Fig:4

ACインレット,入力ジャック,出力ジャック,可変抵抗の金属部分を直接シャーシへ接続します。 回路グランドも電源部分でシャーシへ接続します。

可変抵抗に来ている回路グランドの接地は行わない方が良い場合もあるかと思いますが,図上では接地しています。

全てシャーシに直接接続する方法です。高周波を扱うラジオなどでは基本的な方法と言えます。 「ニアバイアース」,「多点アース」などと呼ばれます。

全ての外来ノイズがシャーシを通してアースに流れるので,アンプ内部にノイズが侵入しません。 外来ノイズに強い接地方法です。

しかし,電源付近の接地点は特に注意が必要です。大電流のリップルが流れる配線は適切に隔離します。 電源リップルのない安定した点をシャーシに接地すればハムやリップルノイズが減ります。

この方式ではマイナーなグランドループがあちらこちらにできます。一点アースの観点からは好ましくありません。 しかし,よく問題になるハムノイズの原因はグランドループではなく共通インピーダンスなので,実際にこの配線でハムが出ることはありません。

また,ネジが緩んでもグランド配線自体は直接配線されているので音は途切れません。

ちなみにシールド線を使って配線する場合,シールドの両側をグランドに落とします。 多点アース方式で配線しておくとグランドループができてもループを貫通する磁束が小さくなりますので影響が出ません。 グランドの電位差も小さくなりますので相互干渉やリップルの漏れ込みも小さくなります。

グランド方式のまとめ

優劣を表にまとめてみました。

*注意:考え方に即した判定なので,実際にやってみてこの通りになるとは限りません。やったこともありません。

図番 外来ノイズ 内部ノイズ 安全性 組立性
Fig:1
Fig:2 ×
Fig:3
Fig:4

◎:良い
○:普通
△:注意が必要(対策はある)
×:よろしくない

安全性を全て「◎」としたのは,ACインレットのアース端子を直接シャーシに接続しているからです。 昔のアンプはいざ知らず,最近のメーカー製のアンプは必ずこのような構造になっています。

昔のアンプがおおらかだったのは現在のように高周波ノイズを発する機器が少なかったからと思います。 現在は携帯電話の普及だけでなく,ステージ上においても照明装置や無線機器などノイズを発する機器が蔓延しています。 スタジオにおいても事情は同様です。


アースの効用・その他効果

アースを正しく接続すれば様々な効果があります。

故障ではない感電もアースで解決

アースが正しく接続されていない場合,特に大きなトランスを搭載した装置は,故障でなくても軽い感電を引き起こします。

電源トランスを搭載した機器では電源トランスの浮遊容量を通じて漏電が発生します。 DC的には絶縁されていても,100V・50Hz(60Hz)の交流が浮遊容量を通して漏れてきます。

大きなトランスは大きな浮遊容量を持っていますから,このような漏れ電流が大きくなります。

このような微弱な電流では漏電遮断器は落ちませんし,軽い感電なので触れたとしても気づきにくいです。

マイクのピリピリもアースで直る

マイクに唇が触れた途端にピリピリした経験がギタリストならば少なからずあると思います。 指先よりも唇の方が敏感だから軽い感電でも感じるのです。

余談ですが,舌はもっと敏感です。9V電池をなめると苦い・酸っぱい感じがします。

このような現象が起きる設備(建物)はアースのつなぎ方に問題があります。 ギターアンプとPA用のアンプを共通のアースにつなぐと改善されます。

簡単に対策するにはギターのシールド線とマイクのシールド線の金属部分を電気的に接続する方法です。 大型のクリップを線材の両端に取り付けたものを使うとよいと思います。奥田民生氏のセットアップで見たことがあります。

詳細は「実例」のページを参照してください。

カミナリ様もアースに逃がす

極端な例ですがギターに雷が落ちたとします。

雷は地面めがけて落ちてきます。 アースをつないでいない場合は,人体を経由して地面へ放電します。 人体には大電流が流れて黒焦げ必至です。

アースをつないでいれば,人体よりもアース線の方が電気を通しやすいのでほとんどの電流がアース線を通して地面に流れます。 運が良ければ助かります。

こんな時にはアースには強い電流が流れますのでできるだけ太い線でしっかりと配線しておくわけです。

直撃雷は極端な例ですが,雷による電気機器の破壊が近年注目されています。 雷に弱いスイッチング電源の増加が原因と思います。 ギターアンプのような古典的な機器は壊れにくいと思われます。

しかし,熱帯化が進む日本では関東地方でもスコール的な雷雨が増えています。 もちろん雷が直撃した場合は破壊力抜群ですが,直撃以外に「誘導雷」にも注意すべきです。

滅多に起こることではないので,本当にどのような現象が起きて,アンプが故障するのかどうかはよくわからず,,,ここでは説明できません。 ただ,家庭用の避雷器も普及してきました。我が家は取り付けています。

避雷器は電源から入ってくるコモンモードの異常電圧をアースに流すものです。

余談:落雷対策

アース・ノイズ

アースを接続することによってノイズが増える場合があります。 図1は古い文献に記載されていた図です。脳波計の例ではありますが,ギターアンプでも同じ現象が起きていると思います。 屋内配線からの「電磁誘導」,「静電誘導」,「リーク電流」の3つが示されています。 ギターに飛び込んでくるノイズとしては電子機器からの「電磁誘導」,例えばパソコンやスマホ,そしてそれらの充電器からノイズを受けやすいです。 ギターの向きを変えたり,位置を変えるとノイズの量が変わります。それは「電磁誘導」によるノイズです。シングル・ピックアップはノイズを拾いやすく,ハムバッカーはノイズを拾いにくいです。 弦アースを落とすとノイズが減ることがありますが,それは「静電誘導」のノイズが減るからです。「電磁誘導」のノイズは弦アースでは減りません。 「リーク電流」はなかなか考えにくいのですが古い屋内配線が原因となることがあります。以下,勉強中。

アース・ノイズ

リンク集の文献も参照ください。ノイズ低減接地とか。


リンク集

参考文献


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