真空管ギタープリアンプの回路設計


基本回路(カソード接地増幅回路)

12AX7 カソード接地回路基本回路

フェンダーのプリアンプも時期によっていろいろなバリエーションがありますが,BlackFace期のTwin Reverbや,Deluxe Reverbなど代表的アンプに共通する回路を解説したいと思います。

左の図はフェンダーのプリアンプから取り出した典型的な増幅回路です。

真空管は12AX7族(12AX7**,7025,5751,etc.)です。回路は真空管増幅ではもっとも基本的なカソード接地増幅回路という形式です。

ざっくり各部品の名称から説明します。
・R1:グリッド・バイアス抵抗
・R2:カソード・バイアス抵抗
・R3:プレート負荷抵抗
・C1:カソード・バイパスコンデンサ
・C2:段間結合コンデンサ
ちなみにフェンダーの基本的な定数はカソード・バイアス抵抗(R2)= 1.5kΩ,プレート抵抗(R3)= 100kΩという構成です。

信号はグリッド(Grid)から入力されます。 カソード接地回路においてグリッドはグリッドバイアス抵抗(R1)によってGND(グランド)基準で動作しています。

グリッドはカソード(Cathode)から放出される電子の流れをコントロールする働きがあります。電子の流れをコントロールするということは,電流の流れをコントロールするということに他なりません。 プレート(Plate)には負荷抵抗(R3)がつながれていて,プレートに流れる電流の変化を電圧変化に変換します。

プレートにはコンデンサ(C2)がつながれています。このコンデンサ(C2)は高圧の直流を遮断する働きがあります。直流を遮断して交流(音声信号)を次段のグリッドへと伝達するわけです。

つまり,このカソード接地増幅回路においては,グリッドが入力,プレートが出力ということになります。 グリッドに入力された信号が増幅されてプレートに現れるということです。この回路のゲイン(増幅率)は30倍くらいになります。ゲイン30倍というと具体的には,0.1Vの入力電圧に対して3.0Vの出力電圧が得られるということです。



具体例:アンプの入力回路と初段

初段の回路

右の図はフェンダーアンプの入力回路と初段を簡略した回路図です。 入力のインピーダンスはグリッドバイアス抵抗(R1)で決まり1MegΩになっています。ほとんどのギターアンプやエフェクターも1MegΩです。エレキギター,エレキベースにとって標準の入力インピーダンスといってよいと思います。

ギターを直接アンプへ接続した場合,入力インピーダンスによって音色も変化します。 ピックアップの特性にもよりますが, 1MegΩよりも小さくするとハイ落ちします。 つまり,高音域が減衰してこもったぬけの悪い音になります。 逆に1Megより大きくするとハイがギラつき,鋭い音になります。

グリッド入力に入っている68kΩ(R4)は電波などの高周波ノイズがアンプ内に侵入するのを防止します。 値は10kΩ〜100kΩが妥当と思います。あまり大きいとハイ落ちします。

なお,入力ジャックにつながるGNDは微小な信号が通るので引き回しには注意が必要です。


カソードバイアス抵抗について

1.5kΩのカソード・バイアス抵抗(R2)は真空管の動作点の基準であるアイドリング電流を決める働きがあります。12AX7族では通常1k〜10kΩの値をよく使います。 抵抗を小さくするとカソードに電流が沢山流れるようになり,抵抗を大きくすると電流が減少します。 電流を流しすぎると発熱が大きくなりますので注意が必要です。

真空管回路の増幅率(ゲイン)は無信号時に流れているアイドリング電流と,プレート負荷抵抗の値によって決まってきます。 真空管の個体ばらつきも関係しますが,カソード・バイアス抵抗は重要な定数であることに間違いはありません。

1.5kΩのカソード・バイアス抵抗(R2)には,音声信号電流をバイパスするコンデンサ(C1)が付けられています。 コンデンサーは直流や低周波(低音域)は通さず,高周波(高音域)だけ通すという性質があります。

値はいろいろありますが,フェンダーアンプの標準は25uFの電解コンデンサーです。 このコンデンサーの値を1uF程度の小さい値にすると低音がカットされます。ハイゲインアンプでは0.1uF程度まで小さくすることがあります。 なお,このコンデンサーを取り外すとゲインが下がります。逆に考えればコンデンサーを取り付けることによってゲインが上がっているということにもなります。

出力はプレートから取り出す

信号はプレートから出力されます。 プレートには負荷として100kΩの抵抗(R3)が電源(+B)との間に接続されています。 グリッドに信号が入力されるとプレートからカソードに向かって流れる電流に変化が生じます。 その電流変化をプレート抵抗で検出することによって増幅された信号が出力されます。 同じ量の電流を流した場合,オームの法則に従い,抵抗が大きい方が電圧は大きくなります。 つまり,プレートに接続される負荷抵抗を大きくするとゲインが上がります。 ただし,抵抗値を大きくするとプレート電圧が下がりますので,歪みやすくなります。

プレートには200V〜300Vの高電圧がかかっています。次の増幅段に信号を伝えるためにはこの高電圧を阻止しなければなりません。 そのために直流遮断用のコンデンサ(C2)が接続されます。値は大体500pF〜0.1uFの間です。 このコンデンサーも先ほどと同様に小さな値にすると低音がカットされます。ただし,このコンデンサーは400V以上の耐圧が必要なので注意が必要です。 また,古いコンデンサーは絶縁抵抗が低下して高電圧をかけると電流が漏れてくるものがあるので,古いコンデンサーに高圧をかけて使用する場合は漏れ電流の確認が必要です。

プレートに印加する電源電圧(+B)は三百数十Vが標準的ですが,初期のフェンダーのアンプには400V以上かけているものもあります。 しかし,12AX7族のプレート耐圧は400V以下ですので寿命の面から見るとよい設計とはいえないでしょう。 実際は300V程度かそれ以下で十分です。 逆に,電源電圧が低すぎるとダイナミック・レンジが不足してきれいなクリーントーンが出なくなってしまいます。

低域のカットオフ周波数

プレートにつながっている直流遮断用・結合コンデンサ(C2)の容量で決まるFc(カットオフ周波数)はオーディオアンプなどでは10Hz以下に設定します。 しかし,ギターアンプでは,特に歪ませる場合,どこかでHPF(ハイパスフィルタ:低域をカットする)を通してある程度低音をカットしないと低音が暴れてしまいます。 しかも暴れ具合はゲインが高いほど顕著になります。 歪ませる回路では100Hz〜400Hz以下の低音はカットしてしまった方が良い結果が得られる場合が多いです。

例えば,次段の入力インピーダンスが1Megとして,コンデンサ(C2)を500pFにすると,Fcは約320Hzになります。

    Fc[Hz] ≒ 160 / C [uF] / R [kΩ] 

クリーントーンならば低域をカットする必要は無いのでコンデンサーを2000pFにすると,次段の入力インピーダンスが1Megの場合はFcが約80Hzになります。 大体の場合,低域のカットはどこか一箇所で行なえば十分です。他のカップリングコンデンサーは0.01uF〜0.1uF程度にしておけば問題ありません。 また,低域をカットする場合は後段よりも初段に近いところで行なった方が良いです。 ちなみにFcの目安として数字を挙げるとギターの6弦開放(E)が80Hz,4弦ベースの4弦開放が40Hzになります。


プリアンプの基本的な構成

プリアンプの構成は以上のようなカソード接地増幅回路が基本になっています。 この増幅回路を組み合わせてプリアンプを構成していきます。

フェンダーアンプと言ってもプリアンプの構成は何種類もあります。 代表的なアンプの簡単なものでは左上の図のような増幅回路を元に,トーン・コントロール回路やボリュームを付け足すことでプリアンプを構成しています。

ブラックフェース期のフェンダーアンプの回路構成はこんな感じです。

フェンダー・バンドマスター(Fender・Bandmaster)
入力 増幅回路
(初段:First Stage)
トーン・コントロール
(Tone Stack)
ボリューム
(Gain)
増幅回路
(2段目:2nd Stage)
位相反転段
(Phase Inverter)
フェンダー・ベースマン(Fender・Bassman)
入力 増幅回路
(初段:First Stage)
ボリューム
(Gain)
増幅回路
(2段目:2nd Stage)
トーン・コントロール
(Tone Stack)
位相反転段
(Phase Inverter)

このような単純な構成であれば12AX7のような双3極管一本でプリアンプを構成できます。



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