真空管ギタープリアンプの回路設計
トーン・コントロール回路(TONE STACK)
左の図がフェンダー標準のトーン・コントロール回路(TONE STACKと呼ばれます)です。 ほとんど全てのギターアンプで同様な回路が使われています。 一番上の250kΩのVR(VR:バリアブルレジスタ,別名POT:ポテンションメータ)が「トレブル(高音域)」つまみ,その下の250kΩのVRが「ベース(低音域)」つまみです。 ここで示した回路は「ミドル・コントロール」がありません。 ミドルコントロールを設ける時はR2:6.8kΩの抵抗を10kΩのVRにしてやればOKです。
C1:250pFとトレブルのVR1:250kΩがHPF(ハイパスフィルタ:低域をカットする)の働きをしています。 C3:47nF(0.047uF)とR1:100kΩ(Slope抵抗と呼ばれる)がLPF(ローパスフィルタ:高域をカットする)の働きをしています。 C2:0.1uFはDCをカットするためのものです。
HPFはFc(カットオフ周波数)が高めになっており,LPFのFcは低めになっています。 その結果,周波数特性としては谷間を持つことになります。その谷間に当たる300〜600Hzのミドル成分がカットされるようになっています。
ミドルコントロールの働き
R2:6.8kΩの抵抗はミドルの谷の深さを調整しています。 この6.8kΩの値を大きくすると,ミドルの谷が浅くなりミドルがアップしたように感じます。 つまり実際はミドルをブーストしているのではなく,カットする量を減らしているということです。 この回路では周波数特性をフラットにすることはできません。常にミドルがカットされた状態になります。
上の図はトレブルとベースを12時(15%)にセットして,ミドルの抵抗を500Ω,1kΩ,2.5kΩ,5kΩ,10kΩとした場合の周波数特性です。
ギターアンプのつまみを真ん中に設定しても周波数特性はフラットにはなりません。
トーン回路とヴォリュームの位置関係
トーン回路の後にはヴォリュームがあります。 フェンダーではトーン回路の直後に1MegΩのVR(VR3)を挿入している例が多いようです。 例外はベースマンです。ベースマンの回路を継承したマーシャルのJTM-45も同様ですが,1段目と2段目の間にボリュームだけが入っていて,トーン回路は2段目の後ろに入っています。 この場合のボリュームは500kΩのVRが使われています。
左の図はマーシャルのJTM-45に採用された,フェンダーベースマンのトーン・コントロールです。 回路的にはまったく同一ですが,定数が若干違ってきます。特性はよく似ています。
トーン・コントロール回路の周波数特性
上の図はフェンダー型のトーン・コントロールの周波数特性です。 ミドルの抵抗(R2)は6.8kΩです。トレブルとベースのVRをそれぞれ100%,50%,25%,10%,5%と変化させています。
上の図はマーシャルのJTM-45型のトーン・コントロールの周波数特性です。 ミドルの可変抵抗(VR3)は25kΩでツマミは12時(15%)です。トレブルとベースのVRをそれぞれ100%,50%,25%,10%,5%と変化させています。
低域の出方と,ミドルの谷間の位置が異なります。JTM-45型のほうは中低域がモワっとして高域がシャリっとした感じになります。 一方,フェンダー型はカラっとしてパリっとしたフェンダートーンになります。
トーン・コントロール周辺の定数を変更することによって音色を自由に操ることができるようになります。 例えば,フェンダーとマーシャルでは同じ場所(R1 : Slope Resistor)に100kΩと56kΩという異なった値の抵抗を採用しています。 ここの定数はミドルの谷の低音側の傾斜(Slope)を決める抵抗です。 この抵抗の値を変えるとミドルの谷の中心周波数が変化します。 マーシャルの一部のアンプではスイープ・コントロールの付いたアンプがありますが,それらはこの抵抗値をVRで変化させています。
トーンスタックとも呼ばれるこの形式のトーン・コントロールはギターの音色を変化させる用途にはとてもよく出来ています。 各部の定数を変更するとどのような特性になるかシミュレーションするソフトウエアも公開されています。(確かduncanampsとかいいます) このソフトで色々といじくってみると面白いかも知れません。
Aカーブ・Bカーブ
可変抵抗はAカーブとBカーブがありますが,どちらを使うかによってツマミ位置によるトーンの変化具合が変わります。 操作性に関わる部分なのでいろいろ試してみると面白いです。 スイートスポットができるだけ広くなるようなカーブを使うのが基本です。 そういう意味ではAカーブが一般的ですが,ミドルの可変抵抗はBカーブでもよいと思います。
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