真空管ギターアンプの回路設計


バイアス電圧の印加方法による分類

真空管を正しく動作させるために各電極に適正な電圧をかける必要があります。これを「バイアス電圧」といいます。 バイアス電圧が適切でないとデバイスは実力を発揮できません。

回路方式として「固定バイアス方式(Fixed Bias)」と「カソード・バイアス方式(Cathode Bias)」の2種類があります。 バイアス電圧の印加方法によってトーンや特性に変化が出ます。

バイアス方式と動作方式は自由に組み合わせることができます。 つまり,バイアス方式は「固定バイアス」,「カソード・バイアス」,動作方式は「シングル・エンド」,「プッシュ・プル」,といったようにそれぞれ2種類ずつあるので組み合わせは4通りあるわけです。

固定バイアス(Fixed Bias)

固定バイアス方式

固定バイアスはマイナスの電圧を持つ負電源を用意して,グリッドに負電圧を与え,バイアス電圧を得る方式です。 グリッドの電位を変化させることでアイドリング電流の調整を小まめ行なうことができます。

ほとんどのギターアンプ,ブラックフェイス期以降のフェンダー,マーシャルなどは固定バイアスです。

●利点:
出力が大きい
電源の利用効率が高い
音はエッジの効いた固めの音になるらしい

●欠点:
回路が複雑になる
負電源(バイアス電源回路:図中「-C」)が必要
正しく動作させるためにはいわゆる「バイアス調整」が必要

カソード・バイアス(Cathode Bias,自己バイアスとも言う)

カソードバイアス方式

カソード・バイアスはカソードに抵抗を挿入してその電圧降下でバイアス電圧を得る方式です。 グリッドはグランド電位になります。 アイドリング電流はカソード抵抗の大きさと真空管の特性に応じて適当な値に落ち着きます。 バイアス調整はできません。

VOX AC-30系のギターアンプ,マッチレス,バッドキャット,Dr.Zなどがカソード・バイアスです。 ギブソンのなどの古典的なアンプ,ツイード期のフェンダーはカソード・バイアスを採用したアンプがあります。

●利点:
回路が簡単
柔らかめの特有の感触が得られるらしい
バイアス調整が不要(できない)

●欠点:
固定バイアスより出力が低下する
カソード抵抗からの発熱が大きい
大出力時にノッチング歪(クロスオーバー・ディストーション)が発生しやすい



歴史的背景

カソードバイアスの方が歴史が古く,固定バイアスは新しい回路です。

初期のフェンダーはカソードバイアスでしたが,ツイードのナローパネルの時期になると固定バイアスに変わります。

固定バイアスの方が出力が大きく取れますので,より大音量を出せるように改良されていったと考えらえれます。

一方,カソードバイアスはパワーは落ちますが,その音色がギターにマッチしているという意見があります。 VOX AC-30を教祖として,MATCHLESSやBAD CATがカソードバイアスを積極的に使っています。

現在ではPAが発達していますので,ステージでも小型のアンプで済ますことができます。 小型でも音色のよいアンプが求められているわけです。

熱暴走のリスク

固定バイアス方式ではアイドリング電流を増やしすぎると熱暴走のリスクがあります。

そういった意味ではカソード・バイアスは安全で安定した方式といえます。 しかし,クロスオーバー歪みが出やすく,アイドリング電流を多めに流す必要があるため,発熱が多くなるという欠点があります。

カソードバイアスでも熱暴走のリスクはあります。 プッシュプル方式のカソードバイアスのアンプではマッチド・チューブを使用しないと,2本の真空管の電流バランスが熱暴走的に悪化する可能性があります。

古典的なカソードバイアス回路ではプッシュプルの2本真空管に対してバイアス用抵抗を1つで済ませますが, 別々にバイアス抵抗を設けることによって熱暴走を防ぐことができます。まあしかし,マッチドチューブを使えばよいのであまり神経質になることはありません。

バイアス調整

固定バイアスは「バイアス調整」ができますが,カソードバイアスは「バイアス調整」ができません。

カソードバイアスでは真空管のバラツキが動作点,ひいてはトーンにも影響するので安定した音色を得るのが難しくなります。 真空管を交換した際の音色変化が,真空管自体の個性なのか,バイアスが変動したからなのかを判断するのが難しいからです。

カソードバイアス・アンプで安定した音色を維持したいのであればギターアンプ専用に選別されたマッチドペアのチューブを使う必要があります。 グルーブ・チューブに代表されるブランドではバイアス値をランク別に管理しています。 そういった真空管を使えば交換しても音色が大きく変わることがありません。

逆に固定バイアスではバイアスの調整が可能ですので,真空管自身のバラツキをある程度許容できます。 したがって,オーディオ用の安価な真空管や,古い真空管を生かすことができます。

また,バイアス調整を行うことによって自分の欲しいトーンを得たり,電流値を少なめに設定することによって,発熱を抑える,真空管の寿命を延ばすといった効果が期待できます。

飽和時の挙動

出力管が飽和するほどドライブすると,クリーントーン時とは違った挙動を示すようになります。 その挙動が固定バイアスとカソードバイアスでは異なってきます。もちろん音の違いにもつながります。 「ブロッキング・ディストーション」の項で詳しく説明します。

カソードバイアスのアンプはパワーアンプを積極的に飽和させることでカソードバイアスらしい音色を発揮します。 ですから,ある程度音量を上げないとよさが出てきません。

カソードバイアスのアンプは音量を変えれば音色が変わりますので扱いが難しいとも言えます。

一方,固定バイアスはプリアンプで音作りを行い,それをそのまま出力するような考え方にマッチします。 ラックシステムで音色を作りこんで,臨機応変に音量を変えたい人にはとっては便利です。


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