真空管ギターアンプの回路設計


大出力時のバイアス変化とブロッキング現象

真空管が飽和するような状態までドライブすると,真空管特有の現象が発生します。 管種によっても挙動に違いがあります。たとえば,6L6系とEL-34系では飽和時の特性が異なりますので音が変わってきます。

プリ管は3極管,パワー管は多極管ですので当然挙動も異なりますが,定性的には似たような動作を示します。


最大出力と動作Duty

真空管が飽和するほどの大出力を出すと様々な非線形な現象が発生します。 この状態では普段は流れない部分に一時的な電流が流れます。この一時的な電流変化に応じてあちこちの電圧が変化します。 この変化は大出力時にのみ発生し,出力が小さくなれば定常状態へ戻ります。

そしてこの一時的な変動の応答特性は音声信号(1kHz程度)の変化と比較するとゆくっりしたもの(10msecオーダー)になります。

パワーアンプの出力測定で普通に行なわれている,正弦波を連続的に与えるような方法ではこのような瞬間的な応答の測定はできません。 数msec程度の瞬間的な大出力を発生させる場合と,継続的に大出力を発生させている時では挙動が異なるからです。

音楽信号,特にギターの出力はダイナミックレンジが大変広く,アタックからエンベロープへの変化量はとても大きいです。 このような音楽信号に対する応答を解析するためにはバーストサイン波のように間欠的な入力に対してどのように応答するのかを調べる必要があります。

一般的にアンプの特性評価に使用されるバーストサイン波は1kHzサイン8波後,24波お休みという信号(Duty 25%)が一般的なようです。

Burst Sine Wave

真空管が飽和した時の挙動

真空管が飽和に近づきプレート電圧が低くなると,カソードから飛び出した電子がグリッドにも飛び込んできます。 つまり,グリッドに電流が流れるわけです。

グリッドはグリッドバイアス抵抗と前段との結合コンデンサによってDC的には数百KΩ程度の高インピーダンスになっています。 電流の逃げ場がないので,結合コンデンサへ電荷を充電します。 グリッド電流(初速度電流とも言う)は一方通行ですので,グリッドにはグリッド電流とグリッドバイアス抵抗の値に比例したDC電圧が発生します。

こうして溜まった電荷は入力が無信号になった時にグリッドバイアス抵抗を介して放電されます。 時定数はグリッドバイアス抵抗と結合コンデンサで決まります。

下の図にグリッド電流の変動をイメージ的に示しました。

220kΩ−0.1uFでは95%戻るのに66msecかかりますのでバーストサイン波に対する応答はこんな感じです。

Burst Sine Wave

220kΩ−0.022uFでは95%戻るのに14.5msecと5倍の速度になりますのでよりレスポンスが向上します。

Burst Sine Wave

このようにして発生するグリッド電圧の変動は出力管のバイアスの変動として影響が現れます。 バイアスの変動はゲイン変動を引き起こしますので,コンプレッサーのようなゲイン変化を生み出します。

コンデンサと抵抗が作る時定数はコンプレッサーで言うところのアタックタイムやリリースタイムになります。

また,この現象が過剰に発生した場合,グリッド電位が低くなりすぎて,オーバー・バイアスになり出力管がカットオフ状態に近づきます。

ブロッキング・ディスト―ション

ご存知のようにオーバー・バイアス状態ではクロスオーバー歪が発生しやすくなります。 これが「ブロッキング・ディストーション(Blocking Distortion)」と呼ばれる現象です。

ブロッキング・ディストーションが起こると音が濁って汚くなります。 ミュートの利いた速いフレーズを弾いたときにアタックが途切れたりします。

過度なブロッキングが起こると異常にゲインが下がってダッキングを起こすこともあります。 ダッキングはコンプやリミッターをかけすぎた時に起こる現象で,大きな入力を抑えすぎてゲインがアヒルの首のようにガックンガックンと変動する現象です。 出てくる音もアヒルの鳴き声のような「グワエ」というな音になります。 ダッキングを起こすとアタックが消えてサスティーンが伸び,逆回転サウンドのようなおかしな音になります。


ブロッキング防止方法

ブロッキング現象を防ぐためには以下の方法があります。

ストッパー抵抗の値を大きくする

グリッド電流が流れるのを直接的に防止します。 大きくしすぎると位相回転が発生してハイ落ちします。 NFBを掛けているアンプの場合は位相余裕が減って発振することも考えられるので注意が必要です。

ドライブ段の出力インピーダンスが低い場合は特に有効です。

結合コンデンサの容量を減らす

ブロッキング状態からの復帰を早くする効果があります。 バイアス変動には敏感になるのでバランスを考慮する必要があります。 また,値を小さくしすぎると低域の量感が減ります。

グリッド・バイアス抵抗を小さくする

抵抗値を低くすると同じ電流に対して発生する電圧は小さくなります。

ただし,ドライブ段から見た入力インピーダンスが小さくなり,負荷が重たく見えますので,強力なドライブ段が必要になります。

バイアス回路のインピーダンスを下げる

バイアス回路(負電圧を作る電源)のインピーダンスがグリッド・バイアス抵抗に対して大きい場合はこちらの影響が支配的になります。

フェンダーのアンプとマーシャルのアンプを比較すると興味深い事実を発見することができます。

フェンダーはトランスの巻き線の途中から低電圧のタップを引き出してバイアスに必要なマイナス電圧を作り出しています。 一方,ある時期のマーシャルアンプは低電圧のタップは出さずに高電圧のタップから数百kΩの抵抗(もしくは小容量のコンデンサー)で電圧ドロップさせることによってマイナス電圧を作り出しています。

所定のバイアス電圧を得るための抵抗値が大きければ大きいほど電源のインピーダンスは高くなり,電流の変動に対する電圧変動が大きくなります。 つまり,マイナス電源のインピーダンスが高いほどグリッド電流の変化に対して大きな電圧変化が発生するわけです。

フェンダーよりもマーシャルの方がバイアスの変動が大きいコンプ感が出やすいということができます。

バイアス回路のインピーダンスを低くするためには,ツエナー・ダイオードや定電圧回路によってバイアス電圧を安定化してやります。

低インピーダンスでドライブする

カソフォロ・ドライブやトランス・ドライブにするとインピーダンスが下がりますので,ブロッキング現象は出ません。

代わりにギターアンプらしさは失われてしまいます。


カソードバイアスの場合

ここまでの説明は固定バイアスの場合が主ですが,カソード・バイアスでも同様の現象が発生します。

カソード・バイアスでは片側の真空管がカットオフしてB級になった時点で,それ以上電流を流そうとすればカソード・バイアス抵抗の電圧降下が大きくなり,バイアスが深くなります。

この電圧変化の応答特性はカソード・バイアス抵抗にパラレルで接続されるコンデンサーの容量によって決まると考えられます。


まとめ

ドライブ段のインピーダンスとグリッドのインピーダンスのバランスによって動特性が変化します。

他にも,電源の応答特性の違いもエンベロープの違いとして現れますので,感触の違いにつながります。

このような動的な特性がギターアンプ特有の柔らかさやコンプ感につながっているといえます。

ただし,出力管のバイアス変動はクロスオーバー歪みとトレードオフの関係にあるので,バランスをとるのは難しいです。

コンプ感や柔らかさ,アタックやレスポンスなどは真空管アンプ特有のものですので取り除く必要はありません。 むしろ積極的にコントロールすることによって様々なアンプをシミュレーションすることも出来ますし, 好みの感触に仕上げることも出来るはずです。バランスは難しいですが。。


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