真空管ギターアンプの回路設計
動作方式による分類
電力増幅用の真空管(出力管・パワー管)を1本だけ使用した「シングル・エンド方式(Single End)」および,2,4,6と複数本使用した「プッシュ・プル方式(Push-Pull)」を説明します。 基本的な回路構成が変わると歪みの出具合や最大出力パワーなどダイナミックな特性が大きく変わります。 回路構成の違いは「真空管」か「トランジスタ」かというデバイスの違いよりも大きかったりします。
シングル・エンド方式
シングル・エンド方式は出力管1本で電力増幅する方式です。 代表的なアンプはフェンダーの「チャンプ」です。 最近は出力5ワット程度のミニアンプが各社から発売されていますが,ほとんどのアンプがシングル・エンド方式です。 使われている出力管が1本ならばシングル・エンド方式と判断できます。
シングル・エンド方式の特徴として音声信号のプラス側とマイナス側に対して非対称の回路なので歪ませたときに上下非対称の歪になります。 倍音が豊かな歪だと言い人もいますが,個人的にはあまり好きな歪みではありません。
●利点:
回路が簡単で部品が少ない
●欠点:
出力が小さい(5〜10W)
ハムノイズが出やすい
シングル・エンド方式のブロック図
真ん中のごちゃごちゃした○印が真空管,その上のかまぼこが並んだものがトランス,横倒しのUFOがスピーカーです。。。
プッシュ・プル方式
プッシュ・プル方式は出力管を偶数本使って電力増幅する方式です。 少ない消費電力で大出力を出せるのでほとんどのギターアンプが採用しています。 使用する出力管が偶数ならばプッシュ・プル方式と判断してよいです。
●利点:
大出力が得られる(15W〜300W)
●欠点:
回路が複雑になる
位相反転回路(フェーズインバータ:Phase Inverter)が必要
プッシュ・プル方式のブロック図
シングル・エンドと比較すると真空管が1本増えて2本になります。またフェーズ・インバータ(位相反転)が必要になります。
動作方式の違いは大きい
単純に真空管アンプといっても動作方式によって大きな違いがあります。 シングル方式とプッシュプル方式の違いは非常に大きいです。
出力の小さな小型アンプは作りやすいので,初めて作るならチャンプのコピーをお勧めします。
しかし,出力段がシングルでよいのか,プッシュプルにすべきかは自分の好みをよく考えて判断する必要があります。
シングル方式は音量が小さいので練習用には便利ですがプッシュプルの音は出ません。 つまり,プッシュプル方式であるデラリバの音をチャンプで出そうと思っても無理です。 逆に,フェンダーのチャンプが愛好されるように,シングルアンプでしか出ない音もあります。
シングルはあまり作ったことがないので参考までですが,クランチ程度の軽い歪みならばシングルは得意としますが,マーシャルのような深いオーバードライブ・トーンはプッシュプルの方が得意です。
A級,B級,AB級は誤解されやすいので「バイアスとは?」のページで改めて説明しています。
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