真空管ギターアンプの回路設計


電力増幅用真空管の動作について

6L6やEL-34などのビーム管(5極管)の各電極の働きと周辺に接続される抵抗器やコンデンサについて説明します。

各電極の働きをおさらい(6L6などの傍熱ビーム管の場合)

ビーム管の電極名 ビーム管の動作
電極名 説明
ヒーター
Heater
動作中に中心部でオレンジ色に光っているのがヒーターです
カソードを加熱します
カソード
Cathode
ヒーターの周囲を覆う白い電極です
ヒーターによって暖められることで電子を放出(エミッション)します
放出される電子の量はグリッド電圧に比例して変化します
3極管はプレート電圧の変化によってもカソード電流が変化します
5極管やビーム管ではプレートの電圧の変化によるカソードの電流変化は少なくなるように設計されています
カソード電極が消耗するとエミ減となり真空管の寿命と判断されます
プレート
Plate
一番外側の一番大きな電極です
カソードから放出された電子を受けとります
負荷が接続され,信号を出力する役目があるため大きな電圧変化が生じます
プレート電流を流しすぎると加熱され赤みを帯びてきます
スクリーン・グリッド
Screen Grid
放熱用の羽根がついたやや大きめの電極です
コントロールグリッドと同じピッチになるように針金状の電極が巻かれています
プレート電圧が低下した際にカソードから放出される電子が減るのを防ぎ増幅率を一定に保ちます
SGと略されることが多いです
3極管には存在しません
コントロール・グリッド
Control Grid
カソードの周りに巻かれた細い針金状の電極です
単にグリッドと呼ぶことが多いです
グリッド - カソード間のに加わる電圧に応じてカソードから放出される電子の量が制御されます

真空管の動作原理については先人たちに語りつくされていますのでここでは省略します。


周辺部品との関係

まずはどどんと図を出します。そんでもって各部品の説明をします。
便宜上回路図はシングル方式ですが,プッシュプルでも同じことです。

真空管パワーアンプ回路基本

周辺に接続される抵抗の役割

グリッド・バイアス抵抗:R1

コントロール・グリッドの電位を決めます。 固定バイアスの場合はバイアス電圧を与えるため負電源に接続されます。

この抵抗は電力増幅器の入力インピーダンスとなります。 値が小さいと電力増幅器をドライブするドライブ段の負荷となりゲインが落ちます。 ドライブ段のドライブ能力に応じて値を調整する必要があります。

ギターアンプの場合,通常は220kΩですが,パラレルプッシュ・プルにする場合は100kΩ以下にすることもあります。 値が大きいと電力増幅管の熱暴走を助長するので注意が必要です。 熱暴走を防止するという意味合いで,抵抗の最大値は各真空管ごとの規格によって決められています。 自己バイアス方式は熱暴走を起こしませんが,固定バイアス方式の場合は特に注意が必要です。

真空管の熱暴走の発生過程について簡単に説明しておきます。

何らかの原因により電極全体が異常に高温になると,カソードからだけでなくグリッドからもプレートに向かって電子が飛び出すようになります。 グリッドに電流が流れバイアス抵抗に電圧降下が発生します。この時,電流の流れる向きはバイアスが浅くなる方向です。 バイアスが浅くなるとアイドリング電流が増えます。 アイドリング電流が増えるとプレート損失が増えてさらに発熱します。 結果的に正の帰還がかかって熱暴走にいたります。

グリッド・ストッパー抵抗:R2

入力容量とLPFを形成して特定の状態でランダムに発生する寄生発振(parasitic oscillation )を防止します。 値が大きいと高周波特性が悪くなります。

また,不必要なグリッド電流が流れることを抑制する役目もあります。 プレートの電位がグリッドの電位に近づくと,カソードから放出された電子がプレートだけでなくグリッドにも飛び込んできます。 この状態では本来電流の流れないグリッドにも電流が流れるようになります。

この電流はバイアスを深くする方向に流れるので,ノッチング歪(クロスオーバー歪)の増加につながります。 グリッドへ抵抗を挿入することによって過剰な入力信号をクリップ(制限:ストップ)してグリッド電流を流れにくくします。

フェンダーのアンプは1.5kΩが標準です。10kΩくらいでも大丈夫です。

カソード抵抗:R3

固定バイアスの場合は存在しない場合が多く,もしあったとしてもアイドリング電流の測定にしか使われません。

カソード・バイアス方式の場合はバイアス電圧を与えます。 カソード・バイアスはこの抵抗で発生する電圧降下を利用してバイアスをかける方式です。

カソード・バイアス方式かつ2本の真空管を使用するプッシュ・プル方式の場合,個別に抵抗を設けるのではなく共通の1本の抵抗で済ますことが多いようです。 この場合,2本の真空管のマッチングが不十分だと流れる電流もアンバランスとなります。 また,異常発熱するとバイアスが浅くなるという真空管の特性上,共通の抵抗1本で済ますと熱暴走を助長する可能性があります。

プッシュ・プル方式の場合は各真空管に個別のカソード抵抗を設けるべきです。 VOXは抵抗が共通ですが,BADCATは別々になっていました。

スクリーン・グリッド抵抗:R4

スクリーン・グリッドの定格オーバーを防止する働きがあります。寄生発振やスクリーン・グリッドの異常放電を抑える効果もあるようです。

大出力時にはスクリーン・グリッドへ流れる電流が急激に増加します。 スクリーン・グリッドの損失定格はプレートの1/10程度なので電流を制限しないと許容損失を簡単にオーバーしてしまいます。 最大出力で継続的に使用するギターアンプならではの抵抗ということもできます。

この抵抗を大きくするとゲインと最大出力が下がってしまいます。

通常,フェンダー系(6L6系)では470Ω,マーシャル系(EL-34系)では1kΩであることが多いです。

6L6系に1kΩを使用してもトラブルの原因となることはありません。 しかし,逆にEL-34はSG電流が流れやすいので,SG抵抗を470Ωにするなど,抵抗値を小さくすることには賛成できません。

汎用性を考えると歴史に裏打ちされたこの値を信じるしかないと思います。

この抵抗には想定以上に大きな電流が流れるので5W程度の大型の抵抗を使用したほうがよいです。 むちゃな使い方をされたアンプではこの抵抗が焦げていることが多いと言われています。

ちなみにフェンダーのツィード・デラックスでは+Bから10kの抵抗とコンデンサーで構成したリプルフィルターの出力をスクリーン・グリッドに直接つないでいます。 そのためブラックフェース・デラックスよりアンプの最大出力が低くなっています。


周辺に接続されるコンデンサの役割

ドライブ段との結合コンデンサ:C1

パワーアンプに入力された信号をグリッドに与える重要な経路です。

値が大きいとグリッド電流が流れる条件下ではブロッキング・ディストーションを助長する原因になります。 0.1uFでは大きすぎると某米国人(Aiken氏)は主張しています。 値を小さくすることによって気絶状態(ブロッキング状態:バイアスが深くなりクロスオーバー歪が発生する)からの回復を早める効果があります。

0.022uF〜0.1uFが標準的です。小さくすると低域が出なくなります。

カソード・バイアス抵抗のバイパスコンデンサ:C4

固定バイアスの回路には存在しません。

カソード・バイアス方式の場合は,カソード抵抗に電流帰還がかかるのでゲインが低下してしまいます。 ですから抵抗をバイパスして電流帰還を防ぎゲイン上げるためにコンデンサを入れます。

カソード・バイアス抵抗と出力管の内部抵抗に対してパラレルに接続されるので,20u〜100uF程度の比較的大容量が必要になります。 容量が小さいと低域のゲインが下がり低域の量感が減ります。

B級動作領域ではコンデンサの容量がバイアス電圧変化の応答特性に影響します。 容量が大きすぎると支障があるものと考えられます。

電源のデカップリングコンデンサ:C2,C3

AB級・B級のプッシュ・プル方式では消費電力が出力に応じてダイナミックに変化します。 コンデンサの容量が小さく電源回路のインピーダンスが高い場合は電荷を放出した分だけ電圧降下が大きくなります。 電圧降下が大きくなりるとエンベロープが制限されダイナミクス特性に影響が出ます。 電源の応答特性も少なからず音色に影響があるはずです。

整流器はリップルノイズを発生しますので,リップルノイズを取り除きハムノイズの発生を抑える働きもあります。 もちろんコンデンサの容量を大きくすればするほどリップルは減りますが,整流管によってはコンデンサ容量の最大値が規定されている場合があるので注意が必要です。

容量は10uF〜100uFが一般的です。古いアンプはコンデンサーの容量が抜けていて,それが独特の音色につながっている場合があります。 1uF程度の小容量で実験してみるのも面白いと思います。


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