真空管ギターアンプの部品選定


電解コンデンサの選定

コンデンサ(Capacitor)は電気を溜める働きがあります。 この働きを生かして高い周波数の信号を落とすフィルターとして使われます。 逆に応用すると直流を阻止して交流(音声信号)だけを通すこともできます。


種類

ギターアンプでは,電解コンデンサー,フィルム・コンデンサー,マイカ・コンデンサー,セラミック・コンデンサー等を使用します。

電解コンデンサーは特に厄介者で電子機器の信頼性を大きく損なう原因になっています。正しく理解して使用することが重要です。


電解コンデンサーは厄介者

厄介者の電解コンデンサーは故障もしやすく,電源に使用するということもあり,トラブルの元になっています。 大前提として電解コンデンサーには寿命があるということを忘れないでください。

電解コンデンサーは内部に液体(電解液)が封入されています。 極性を間違えたり,大きな電流が流れて内部が加熱すると最終的には破裂します。 取り扱いには注意が必要です。

電解コンデンサーは内部の電解液が徐々に蒸発していくので徐々に容量が減っていきます。 使用温度が高いほど寿命が短くなります。多くのコンデンサが黒色なのは熱の放熱を良くするためです。

寿命とメンテナンスを考えると発熱する部品から離れた,交換しやすい位置に配置するべきです。 かといって,フェンダー・アンプのように長く配線を引き回すとハムノイズが出る場合がありますが。。。

例えば「ハイワット」は真空管とコンデンサの間に熱を遮蔽するための金属板を立てています。 工夫次第で寿命が延ばせるのならば寿命が長くなるように使ってやるのが人の道と心得ます。

使用温度

電解コンデンサの表面には105℃,85℃などと記載されている場合があります。 この数字の意味は,この表示温度で使用した場合,静電容量がある規定値(例えば-20%)になるまでに,ある規定寿命(例えば2000時間)を満たしますという表示です。 寿命の定義はモノによって異なります。

どうしても熱くなってしまう場合は105℃品を使うなどすれば少しは安心できますが根本的な解決にはなりませんので,熱対策は必要です。

電解コンデンサは消耗品であり,生モノです。 例えば寿命が2000時間だとすると,2〜3年でライフ・エンドとなります。 30年モノのデッド・ストックなど,得も云えぬ魅力があるのですが,ちょっと気持ち悪いです。 容量と漏れ電流を測定できる環境が無い場合はこのような古い電解コンデンサは使わない方が無難です。

長期間使用されていない古い電解コンデンサは絶縁のための酸化皮膜が破壊されていることがあるので,いきなり電圧をかけると漏れ電流が発生して発熱することがあります。 漏れ電流を監視しながら徐々に印可電圧を高めて酸化膜を再化成してやると漏れ電流が徐々に減って行きます。

古い真空管も同様ですが,長期間通電されていない電気部品は,いきなり全開ではなく徐々に現役復帰させてやる必要があります。


電源回路での使用上の注意

電源に使用するコンデンサについては,高電圧を扱うため耐圧が十分に大きな品種を選ぶ必要があります。 特に,スタンバイ時,無負荷の場合,もしくは真空管を抜いて電源を入れた場合には電源電圧が数十ボルト上昇するので,その分を見込んで耐圧を決める必要があります。

あまり認識されていないのですが,プリアンプ段の電源は正常動作時の印加電圧が300V程度でも,真空管を抜いた状態では450Vを超えることありますので考慮が必要です。

電源に使用する電解コンデンサーの耐圧は目安として,パワー・トランスのタップに表示されている電圧×1.5倍以上必要です。 例えば,トランスのタップに320Vと表示されていたら1.5倍で450V以上の耐圧があるコンデンサが必要になります。 パワーアンプ部だけでなく,プリアンプ部でも同様です。前述のように真空管をすべて抜くとプリアンプ部でも450Vに達します。

昔の電解コンデンサーは無理がききませんでしたから古い文献では20%の余裕,つまりタップ電圧の1.8倍以上必要という記述もあります。 最近のコンデンサーは信頼性が向上していますので定格をちょっとオーバーした程度ではパンクしませんが,漏れ電流が急増して加熱したり寿命低下する可能性はあります。

電源回路の最も整流器に近いコンデンサーは整流のためのリップル電流が多く流れます。 電源ON/OFF時にも大きなストレスがかかりますので,もっとも故障しやすいコンデンサーと言えます。 耐圧と許容リップル電流が大きな品種を選んでおけば無用なトラブルを避けることができます。

500V以上の場合は直列にする:バランス抵抗に注意!

500V以上の耐圧を持つ電解コンデンサーはまれです。 電源電圧が450Vを超える場合,耐圧を稼ぐために電解コンデンサーをシリーズ(直列)に接続する場合があります。

しかし,電解コンデンサーは漏れ電流が多く,複数のコンデンサーをを直列にした場合,個々のコンデンサーの印加電圧がアンバランスになりやすいので,100kΩ〜470kΩ程度の抵抗器で分圧回路を作り個々のコンデンサーに並列接続します。 これをバランス抵抗と言います。 抵抗器には高電圧がかかりますので定格電力が大きく耐電圧が高い大型の抵抗を使います。 そして,抵抗器は発熱しますので電解コンデンサーに密着させてはいけません。

漏れ電流があまりに多い粗悪なコンデンサーを使うと印加電圧のアンバランスが大きくなり,耐圧を超えて一気に破裂することもあるようです。 電解コンデンサをシリーズにする場合はバランスをとるために同じ品種の同じロットの製品を使うことをお勧めします。


耐圧選定の例

電源フィルターの耐圧計算は前述しましたので省略します。 メーカー製のアンプでも耐圧が足りていないことがありますので,鵜呑みにしないことです。

出力管がカソード・バイアス方式の場合,カソードにバイパス・コンデンサを入れる必要があります。 この場合,耐圧が50Vでは若干心もとなく100Vあれば十分と思います。

プリ管のカソード・バイパス・コンデンサーは電解コンデンサを使用することも多いですが,ここは音質にかなり効きますので慎重に選ぶべきです。耐圧は最低で10Vもあれば十分です。

電解コンデンサーはフィルム・コンデンサーに比べて音質変化が大きい部品です。 電解コンデンサーを交換して音質変化を知るのは楽しみでもありますし,悩みでもあります。


精度

電解コンデンサーは精度が悪く静電容量の変化も大きいので音声信号を直接通すフィルター回路には使えません。 電源のデカップリングやカソード・バイパスなど容量精度が求められない部分に使います。 必要な容量の倍くらいの容量を選定しておいてもよいと思いますが,電源の場合はラッシュ・カレントが大きくなりますので闇雲に大容量にすることはお勧めできません。


種類と供給

電解コンデンサはスプラグの「ATOM」シリーズが有名でメサ・ブギー御用達です。 「イリノイキャパシター」は格は落ちますが,フェンダーやマッチレスで使われています。

ヨーロッパ系では「フィリップス」や「ROE」,「RIFA」があります。

フィリップスの部品は現在BCコンポーネンツが供給しています。BCもVishayグループになりましたが。。

最近は「F&T」というメーカが小型で性能の良い電解を多く作っています。 かつては「コーネル・ダブラー(デュブラー)」,「マロリー」,「サンガモ」なんてメーカーもありました。

国産で大容量高耐圧のモノとなると「ニチコン」,「日ケミ」でしょうか。

形状:アキシャルとラジアル

国内外に限らず高耐圧の「チューブラー(筒形):Tubular」は絶滅危惧種です。 「中ブラ」ではないです。空中ブラブラなので語感とイメージは合いますけど(笑)。 「アキシャル:Axial」とも言います。最近多い普通の形のやつは「ラジアル:Radial」です。

最近はインバーター用などに使われる300V〜450V耐圧の基板用コンデンサーが手に入ります。 インバータ用ならば信頼性も高いと思いますので活用を検討すべきと考えています。形状はラジアルタイプです。

タンタル・コンデンサ

電解コンデンサーの親戚でタンタル・コンデンサーというものもあります。 高周波でのインピーダンスが低い,漏れ電流が少ないなど,通常の電解コンデンサーより特性がよいです。 しかし,逆電圧に弱い,故障モードがショートという致命的な欠点があり,使用するには十分な注意が必要です。

最近は有機半導体などの固体電解と称するものが出てきていますので,タンタル・コンデンサーの存在感は薄くなっています。 しかし,新しいコンデンサーは耐圧が低いものが多く真空管アンプの電源回路では使えません。

使用上の注意

最後にどのコンデンサーにも言えることですが,リード線にストレスをかけると内部で接触不良をおこしたり,液漏れなどの故障につながります。 フォーミングの際にはリード線の根元にストレスが加わらないように気をつけることです。 また,落下させたり過度な衝撃を加えると特性が劣化することがありますので注意してください。


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