真空管ギターアンプの部品選定


配線材の選定

配線材は地味な存在ですが,アンプには多くの配線が存在します。

「究極の配線材」・「最高の配線材」・「最強の配線材」なんていうものは存在しません。「適材適所」が要です。


導体構成

大きく分けて,単線,撚り線があります。

単線は1本の線で構成された配線材です。 取り回しが容易で据わりがよいのが特徴です。 1mm以上の太い線は曲げるのが大変です。 細い単線は何度も折り曲げると折れてしまうので半田付け後に配線を動かすときは注意が必要です。

撚り線(よりせん)は細い銅線をまとめて撚ったものです。 しなやかで屈曲に強いのが特徴です。被覆の素材によってはフォーミングが難しく据わりが悪い場合があります。

撚り線は撚りピッチや撚りの固さによって性状が大きく変わります。 また,何本撚るのか,多様な線径の導体を撚り合わせるなど,様々なバリエーションを生み出します。

銅線の表面処理にも種類があります。メッキ無しの裸銅,錫メッキ,銀メッキなどです。 メッキではなく,エナメル塗料を被せたエナメル線もあります。


許容電流と耐電圧

アンプ内の信号線には電流がほとんど流れません。太さはAWG24〜AWG20程度が丁度よいと思います。 太いと取り回しが大変です。細いと半田付け部分が折れやすくなります。

電源やヒーター配線はアンペアオーダーの電流が流れます。AWG20〜18を使用しておけばよいと思います。

耐電圧が明記されている電線は安心して使えます。 真空管アンプでは600Vか1000Vあればよいと思います。

詳しくは「真空管アンプの安全設計」を参照してください。


被覆の種類

PVC,ゴム,テフロン,布,その他樹脂があります。一言でPVC(塩化ビニル)といっても沢山の種類があります。 メーカーによって考え方も異なります。

被覆の種類は線材の固さ,熱や湿度,薬品,光線に対する耐性を決めます。 厚さや誘電率が異なることによって配線容量も変化します。

絶縁体の誘電正接や誘電体吸収はもちろん,導電体との密着状態や摩擦による帯電効果も音に影響があると思われます。


適材適所

・高電流が流れる配線
スピーカー出力,ヒーター配線,電源配線は太い配線材を使う

・高電圧がかかる配線(500V以上)
耐圧が保証された専用の配線材を使う

・ハイインピーダンスの配線
ポリエチレンやテフロンなどの低容量の配線材を使う
被覆の固さや密着度もポイントになるかも

・高熱に曝される可能性がある配線
テフロン,布,シリコン被覆の配線材を使う

・トランス1次側配線
600V以上の耐圧があり,被覆が厚く耐久性がある撚り線を使う


配線色

アンプ内の配線色はJISなどに示されていますが,余り気にしなくてもよいです。

色(略称) 配線用途(代替色)
赤(RED) プレート,スクリーングリッド(橙),+B電源(茶)
黄(YEL) コントロールグリッド
緑(GRN) カソード,ヒーター(青)
青(BLU) ヒーター(緑)
黒(BLK) グランド,−電源(紫)
白(WHT) その他配線(灰)

AC電源の配線色は指定されています。こちらは気にした方がよいです。

色(略称) 配線名(IEC指定色)
黒(BLK) AC電源活線:Live(茶)
白(WHT) AC電源中性線:Neutral(青)
緑/黄色 アース

神経質になる必要はないのですが,知ってしまうとフムフムということです。なんのこっちゃ。


ULとは?MILとは?

配線材や電線を見ていると「UL認定」や「MIL準拠」のような能書きに出くわすことがあります。これはなんでしょうか。

ULはアメリカの保険会社が始めた規格だそうです。 火災や感電など電気機器の安全性を担保するための規格です。

MILはアメリカの軍事物資の調達のために使われる規格です。 軍事にかかわる物資の品質を保証する規格です。

どちらもいわゆる「デファクト・スタンダード」です。 電気火災は配線上で発生する場合が多いので,配線材の安全性は重要な要素です。 ユーザーの視点から見れば規格を満たしている製品は安心して使えることが担保されているということになります。 売り手側の視点からはあれこれ細かい説明をつけなくても「UL認定」「MIL準拠」という肩書きだけで信用が得られます。

つまりULやMILは「耐熱性・耐久性が十分にありますよ」という広告と思えばいいわけです。

「エコ電線」なんてのもあります。これは塩ビなどハロゲン系の素材や有害な物質を含まない電線です。 燃やしたときに有害なガスがでない,リサイクル・廃棄しやすいなど環境に優しいという特徴があるそうです。 ただし被覆が固いイメージがあります。


シールド線

1芯シールドつまり同軸ケーブル,2芯シールド,3芯シールド,2重シールドなどがあります。

よく使われるのは1芯シールド(同軸ケーブル)ですが,音声帯域では静電誘導によって誘起されるノイズに対するシールド効果しか期待できません。 つまり,電源トランスからのハムの誘導には効きません。電磁誘導によって誘起されるノイズに対してはペア配線で対処します。

1芯シールドの片端を接地した場合は音声帯域の静電誘導にのみシールド効果があります。受け側での接地が基本です。

1芯シールドの両端を接地すれば,高周波での電磁誘導と全帯域における静電誘導に対してシールド効果を発揮します。

2芯シールドや3芯シールドを駆使してバランス受けするなどの対策を行うと音声帯域の電磁誘導もキャンセルすることができるようです。

アンプ内の配線でもっとも仲が悪いのは高電圧の配線とハイインピーダンスの配線です。 つまりプレート配線とグリッド配線はが該当します。 直角交差が基本ですが,並行して走る場合は距離を離します。ここにシールド線を使えば静電誘導から逃れられます。

なお,ギター用のシールドケーブルはハイインピーダンス用の特殊な構造になっています。 ハイインピーダンス配線は難しいのです。

シールド線による配線はケーブルが持つ静電容量が問題になることがあります。 配線材によって何pFの容量が加わるのか把握しておくことをお勧めします。 まずは手持ちのシールド線の容量(pF/m)を調べるところから始めましょう。


ペア配線

2本を組み合わせるツイストペア,4本を組み合わせるスター・クアッドがあります。

撚りピッチで音が違うなんて人がいますが,余り気にしないことです。


種類と供給

海外ではBELDEN,ALPHAが有名です。

国内にも電線メーカは多くあります。音響用途で有名なのはFURUKAWA,MOGAMIでしょうか。 藤倉や住友,日立,三菱などは産業用電線で有名ですが,よい線材を作っています。

OFCが流行りだして,LC-OFCから始まり,PCOCCなど様々な素材が世に現れました。 銅の純度を競っているわけですが,純度競争はやや影を潜めた感があります。 それよりも複雑な構造のラインケーブルやぶっとい電源ケーブルが流行っているようです。

ただし,アンプ内の配線材には余り関係ないわけで・・・ 配線材としては高純度の素材で表面を鏡面仕上げにしたり,被覆をテフロンやポリイミドにしてみたりとかその程度です。 さらには逆を行って,綿被覆や絹被覆,エナメル被覆へ回帰する動きもあります。

いろんなメーカーがありますが,基本は産業向けの電線を作っています。 オーディオやギターアンプ用の配線材を作っているわけではありません。 音響用の配線材は怪しげなブランド名がついた配線材を入手可能ですが,どれもOEMです。 怪しげなブランドの怪しげなおっさんが特注でどこかのメーカーに作らせているだけです。

産業用の電線を適材適所でアンプに使うのはよい考えです。なんといっても安いです。

応用テクニックとしてBELDENの8412をばらして中身の線材をエフェクターに使うのは有名ですが,LANケーブルをばらして中身を使うのも案外よいです。 BELDENのとあるLANケーブルはボンデッド・ペアと呼ばれる構造になっていて2本のツイストペアケーブルの被覆が一体化していて重宝しています。


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