真空管ギターアンプの部品選定
ボリューム(ポテンション・メータ)の選定
VR(可変抵抗:Variable Resistor,ボリューム:Volume),もしくはPOT(ポテンショメーター:Potentiometer)はギターアンプにとって重要な部品です。 少なくともひとつ,多ければ10個でも20個でもボリュームは必要になります。 音質変化も激しい部品なので品質と使いこなしには気を遣いたいものです。
通常,3つの端子があります。端から1番,2番,3番と呼びます。左右どちらから数えるかはメーカーによって異なると思います。 とにかく,中央の端子が2番端子で,またの名前を「摺動子」と覚えておけばよいです。
3つ以上の端子が出ている場合,その端子はGNDに接続するシールド端子か,抵抗体の途中から引き出したタップ端子と思われます。
抵抗変化カーブ
基本的なことですが,Aカーブ,Bカーブなどツマミ位置とボリューム変化のカーブが異なるモノがあります。 Aカーブは「AUDIO カーブ」と覚えるとよいです。 これは秋葉原のパーツ屋のおばさんに教えてもらいました。 Aカーブ,Bカーブは英語圏では定義が異なることがあるので注意です。
Aカーブは英語では「ログ(LOG)カーブ」です。 一方,Bカーブはツマミの位置と抵抗値の変化が直線的で,「リニア(LINER)カーブ」とも呼ばれます。 回転角度と抵抗値が比例するので「ポテンション・メーター」と云われる所以です。
Aカーブは聴間上の音量変化とツマミの位置が概ね一致します。 Bカーブは聴感上,小音量から急激に音が大きくなるように感じます。 通常,音量調整を目的とするボリュームにはAカーブを使います。
トーン回路にAカーブを使うか,Bカーブを使うか,自由です。 当然ですが,カーブの選択によってツマミをまわした時のトーン変化の感触が異なってきます。
ヒューマン・インターフェースであるため,アンプの評価を大きく左右する部分です。 こんな細かい部分を作りこめるのも自作の醍醐味です。
なお国産のAカーブはつまみが中央で抵抗値が15%程度になるようです。 これを「15A」と称する場合があるようです。
最近のフェンダーのアンプはトレブルポットに30Aという特殊なカーブを使用しているようです。 つまり,つまみが中央で30%の抵抗値になるということだと思います。
ちなみに,抵抗変化カーブは2番端子と1番もしくは3番端子間に固定抵抗を付加することである程度コントロールできます。
ここでは割愛しますが,A・B以外にもC・D・S・MNなどなど・・・特殊なカーブがあり,エフェクターでは使われたりします。
定格電力・耐電圧
VRには定格電力があります。 プリアンプ回路内であれば,電力については気にする必要はありません。 ハムバランサーなど,1kΩ以下の低抵抗のVRを使用する場合は電力計算を行うべきでしょう。 電力計算の方法は通常の固定抵抗器と同じです。 注意点は1番−2番間の電力と2番−3番間の電力がアンバランスになり,電力消費が片側に集中する条件を考慮することかと思います。
間違っても普通のVRをスピーカー出力に接続してはいけません。
スピーカー出力に使用するような高電力用途にはアッテネーターと呼ばれるものとレオスタットと呼ばれるがあります。 このような用途では電力定格に十分に余裕を持って選定します。
電力定格だけでなく,シャフトと抵抗体間の耐電圧もあります。 高圧の信号を印加するような使い方をする場合は考慮が必要です。
むしろ特別な用途で無い限り,VRにDC電圧が印加されるような使い方は避けるべきと思います。
使いこなし
2番端子(中央の端子,摺動子)にDC電流を流すといわゆる"ガリオーム"になる危険があります。 ガリの出方や寿命はVRメーカーによって異なりますので絶対に禁止ではないのですが,基本的に2番端子にはDC電流が流れないように設計するべきです。
モノによっては2番端子をプラス側に接続することを推奨しています。 つまり電流を流す際は2番端子から1番・3番端子へ流れるようにするという設計方法です。 これは抵抗皮膜の酸化(電蝕による陽極酸化)を避ける重要なテクニックです。案外知られていないのですが・・・ 逆に電流を流すと抵抗体の炭素が二酸化炭素になって減っていくという(未確認)・・・
また,DCを流さないように使用していても2番端子はいつ接触不良になるかわかりません。 2番端子が接触不良になった場合に出力管に大電流が流れるような設計は避けるべきです。
多くのギターアンプで行われいるように出力管へのバイアス供給を2番端子から直接行うと, 2番端子が接触不良に陥った際にグリッド電位がフラフラになり過電流を誘発する恐れがあります。
2番端子の接触不良に対してフェールセーフをとっているギターアンプは大変少ないのが実情です。
フェンダー・アンプの回路をコピーして満足しているとこういった呪縛からは開放されません。 2番端子が開放になったときのフェールセーフについて常に意識して設計することを勧めます。
種類と供給
抵抗値とカーブを決めたらメーカーを選びますが,シャフト直径・長さ・形状,回転トルク,端子の形状などを考慮して決めます。
インチ・サイズ(6.35mm)のシャフトにミリ・サイズ(6.0mm)のツマミは入りませんので注意が必要です。
密閉型のほうが長期信頼性は良いように思いますが,メンテナンス性は悪いです。
半田付けする端子は厚みがあってしっかりした端子のほうが後々の改造に耐えられます。 例えば,「CTS」は非常に肉厚な端子ですが,「COSMOS」は薄っぺらなので半田付けを繰り返すと「モゲー」たりします。
サイズは直径16mmと24mmのモノが多く流通しています。 大きいほうが誤差が少ないのは容易に想像できますが,他の性能は良くわかりません。 私は16mmの質感が好きになれないので,少々値は張りますが24mmを使っています。
海外製では「CTS」がギターにも採用されていて実績があるように思います。 他には「ALPHA」もよく使われて定評があるようです。最近「Bourns」も楽器系のラインナップが充実しています。 高品質なものは「Clarostat」,「PEC」,「A&B」ですが高価です。
国産では「COSMOS」がよいですが,値段がどんどん上がってしまい,今やCTSのほうが安く手に入ります。 「ALPS」などは安くて小型でよいのですが信頼性に疑問が残ります。 オーディオ用では東京光音なども良いモノを作っていますが,ギターアンプで使う500kΩや1MegΩのAカーブが手に入りにくいのが残念です。
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