真空管ギターアンプの部品選定


抵抗器の選定

抵抗器(Resistor)は電気回路においてもっとも基本的な要素です。 その働きを説明せよ,といわれても困るくらい色々な働きがあります。 用途に応じて種類や取り扱いをいろいろと考慮する必要があります。


定格電力

もっとも基本的なことですが,抵抗器は使用できる電力(ワッテージ)が規定されています。 電力は電流と電圧の積です。電圧が高い部分と電流を多く流す部分には注意が必要です。 さらに,規定されている許容電力は常温における値ですので,機器内が高温になることを考えるとディレーティング(安全率)を持たせる必要があります。

ギターアンプのプリアンプ部分の消費電力は大したことがないので,それほど神経質にならなくて大丈夫です。 しかし,パワーアンプと電源部分は扱う電力が大きく,使用する部品も十分に考えて(つまり設計して)選ぶ必要があります。

抵抗器の電力容量の選定方法ですが,使用上の電圧と電流を計算(または実測)して電圧×電流で消費電力を求めます。 そして,消費電力の3倍以上の電力容量があるものを選ぶと安心です。 さらに,抵抗器の消費電力が1W以上になる場合は,4倍以上のディレーティングを持たせたほうがよいようです。

例えば,100kΩの抵抗に100Vかかるとすると・・・

抵抗値 R :   100 [kohm]
電圧   V :   100 [V]

電力[W] = V^2/R = 100*100/100E+3 = 0.1[W]

選定する抵抗器は3倍の余裕を考えて,0.3[W]以上を選びます。 0.3[W]という定格電力は一般的ではないので,実際に選定するのは1/2[W](0.5[W])の抵抗器になります。

もちろん使用する電力に対して定格が大きい抵抗器を使用するのは構いません。大は小を兼ねます。 しかし定格電力の大きな抵抗器は,その大きさゆえに場所をとりますし,値段も高くなりますのでいい加減な設計を行うと, 部品が箱に収まらない!とか,別次元の苦労をすると思います。


最大使用電圧

あまり知られていませんが,抵抗には耐電圧があります。 表面の塗装や絶縁体が破壊されてスパークが起きないという条件で決まるようです。 耐電圧を超えて使用した場合,抵抗器がシャーシに接触していたり,部品同士が接触している場合に放電を起こしショート事故につながります。 抵抗器両端のリード線間で放電することもあるようです。 高電圧(200V)以上の回路に使用する部品は選定と扱いに注意が必要です。

使いこなしとして高電圧の配線は部品の間隔に余裕を持たせるように配置します。 真空管アンプではどんなに狭くても2mm以上の間隙が必要で,3mmあれば安心です。


抵抗器の種類

抵抗体の種類

抵抗体の素材としてまず「金属系」と「炭素系」に分類されます。金属系は「金属皮膜(薄膜・厚膜),酸化金属皮膜,巻き線,金属箔」があります。 炭素系は固体系と皮膜系に分けられ,固体系は「ソリッド抵抗」や「カーボン・コンポジション(Carbon Composition),俗にカーボン・コンプ」と呼ぶのが一般的です。 カーボン皮膜抵抗は単に「カーボン抵抗」と呼ばれます。

・金属系:金属皮膜(薄膜・厚膜),酸化金属皮膜,巻き線,金属箔
・炭素系:固体系と皮膜系

形状や外装の種類

「ホウロウ抵抗」,「メタルクラッド抵抗」,「セメント抵抗」,「セラミック抵抗」,「板抵抗」,「モールド抵抗」などの呼称は外装の種類を示しています。 「スケルトン抵抗」なんてのもありますね。

消費電力の小さい信号系に使用する抵抗器は炭素系でも金皮系でもなんでも構いません。 好きなものを使うのが自作の楽しみと心得ます。

用途と種類

消費電力が1W以上になる場合は,3〜5W程度の不燃性の酸化金属抵抗か,セメント抵抗を使えばいざという時に燃えないので安心です。 最近の抵抗器は信頼性の向上により外形が小型化しています。 ちょっと無理させると抵抗器の表面温度が100℃を簡単に超えてしまいますので,定格の数字にこだわらず物理的な大きさで定格を考えたほうがよいようです。

電源周りに使用する抵抗は電源投入時にラッシュカレントが流れます。 ラッシュカレントは数A以上の高電流ですので,過負荷に強い巻き線抵抗を使用すると安心だそうです。 容量もディレーティングを十分に持たせて大きなものを使用すると安心です。

炭素系の抵抗はショートモードで故障するものがあるそうですから,電源周りに使用する場合は事前に故障モードを調べたほうがよいかもです。

抵抗と発熱

抵抗が5W以上の電力を消費する場合は相当の熱が出ますので熱を逃がすために放熱を考慮する必要があります。 このような高電力用途にはメタルクラッド抵抗かホウロウ抵抗がよく使用されます。

メタルクラッド抵抗を使用する場合はシャーシや放熱器に放熱グリスを塗布した上で固定します。 メタルクラッド抵抗は放熱器に取り付けることを前提とした電力設計となっていますのでこのような配慮が必要です。

ホウロウ抵抗を使用する場合は放熱用の穴を空けたり,シャーシの内部ではなく外部に配置することにより熱を拡散させます。 高容量のホウロウ抵抗を定格いっぱいで使用すると表面温度が200℃以上の温度になってしまいます。200℃は有鉛半田も溶ける温度です。 ディレーティングを十分持たせて,風通しは良く,かつ手で直接触れられない安全な場所に設置する必要があります。

設計の問題ですが,使い方によっては定常的に30Wくらいの熱を消費する抵抗が必要な場合もあります。 30Wというと小さな半田ごてと同じ発熱量です。 このような多量の熱を吐き出すような設計はよい設計とは言えません。 このような場合は,まず設計変更を検討すべきと思います。

精度

真空管アンプではまず精度は求められません。±5%でも問題ありません。 ただし,±10%の古い抵抗器を起用する場合は選別した方が良いでしょう。 非常に稀ではありますが,抵抗値が異常の場合もありますし,カラーコードの読み間違えもよくあるのでテスターで実測しながら使った方が急がば回れになります。

一般的に言って金属系は精度が高く,炭素系は精度が低く温度特性もよくありません。

高精度が必要な場合は±1%が普通に手に入ります。±0.1%は入手が難しいですが入手可能です。 ゲインを高精度で決めたい測定器では相対精度に優れた集合抵抗が使われます。 オーディオではアッテネータに高精度抵抗が使われます。


供給

カーボン系

カーボン系の抵抗は「A&B(アーレン・ブラッドレイ,もしくはブラッドリー:Allen Bradley)」がとにかく神格化されています。 とっくに製造中止なので入手が難しいです。 現在ではA&Bは値段が高いので似たような外観の「XICON(読み方不明)」でも十分とする向きもあるようです。 しかし,XICONのカーボンコンプも製造終了のようです。

カーボン・コンポジッション抵抗は他の抵抗器に比べて,湿気に弱く経時変化が大きい,抵抗値の電圧依存性が大きい,温度係数が大きい・・・と良いことは余りありません。 昔は安価に大量に作られていたので,採用するメーカーも多かったのではないのかと推測されます。

またカーボン・コンプは信頼性が低いといわれていますが,A&Bに限ってはそのような話は聞きません。 簡単に言うと粘土を固めて焼くという作り方自体がアバウトですし,メーカーごとの個性が強く出ると考えています。

似たような外観の「理研」の「RMA」や「RMG」はオーディオでもてはやされていましたが生産中止になりました。 ちなみにこれらはカーボン皮膜だったようです。

抵抗が発生するノイズは理想的には熱雑音だけですが,カーボン系,特にカーボン・コンポジション抵抗は抵抗体に電流が流れる際の不均一性から,1/fノイズ(エクセス・ノイズ)が発生するモノがあるらしいです。 DCを流すところに使用する場合は注意したほうがよいかもしれません。 しかし,このノイズが音色の暖かさ・太さにつながっているという説もあるので一概に悪者とは言えません。

色々考えるとカーボン系の抵抗はメーカーによってトーンに差が出やすいといえると思います。 同じメーカーのモノでも抵抗値や定格電力によってもトーンに差が出ても不思議ではありません。

抵抗値は回路設計の定数として決めますが,定格電力については大は小を兼ねますので自由度があります。 使用する抵抗の定格電力を用途に応じて使い分け,音作りの材料としているヒトも実際にいるようです。

なお,カーボン抵抗はばらつきも大きいので精度が欲しいところには向きません。 選別して使うという手はありますが,経時変化や温度変化が大きいので長期信頼性を考えると万事解決とは思えません。

金属系

金属皮膜系の抵抗では「DALE(デール)」が有名ですが,他社でもそれほど悪いものはないと思います。 入手容易なものでもそれほど悪いものがあるとは思いません。

オーディオをやる人は細かいニュアンスや高域を重視する方向性なので金属皮膜を好む傾向があるようですが,ギターアンプは音作りの傾向が違うのでなんともいえません。 ブティック系のアンプでも,カーボンコンプを使うメーカーと金属皮膜を使うメーカーに分かれます。

巻き線抵抗はインダクタンスがあったり,浮遊容量が大きかったりして使いにくいのですが,オーディオには好評のようです。 とにかく値段が高いのが巻き線抵抗の難点です。また,10kΩ以上の大きい抵抗値が入手難です。

国内では「TAKMAN(タクマン)」が音響用の抵抗を発売して騒がれています。 大型品もありリード線が太く頼もしいです。

ヨーロッパ系では「フィリップス」の抵抗が有名ですが,現在は「BCコンポーネンツ」製となっています。 「Beyschlag Centralab Components」の略だそうですから,昔からヨーロッパで使われていたスタンダードな部品ということになります。

なお,日本では炭素皮膜がある程度地位を築いていますが,海外では金皮が頂点という見方は不動のようです。 しかも,スパッタや焼成の金属皮膜ではなく,金属フォイルを用いた箔抵抗が最高という評価のように思います。 1個5000円位しますがね。。。

非磁性体をありがたがる向きもありますが(わたくしも)そんなに気にしなくてよいという意見もあります。どうなんでしょ・・・

あまり色々試したことがないのではっきりしたことは言えませんが,粗悪品でなければ何でもいいような気がします。 試して納得するしかありません。

容易に予想できることですが,大型の抵抗器は温度上昇が小さいことから温度係数が有利になります。 抵抗体の種類やパターン,大きさによって端子間容量やインダクタンス成分も変化するはずです。 リード線が太いほうが抵抗器の振動を抑制することができます。

最近はオーディオ機器でもエフェクターでもチップ抵抗が使われるようになってきました。(やっと?) これだけ時間がかかった理由はよくわかりません。別にチップ抵抗の音が悪いという訳ではないと思うんですけどね。 音響というのは保守的な産業ということなんでしょうか。

前述しましたが,抵抗器は見た目で選定するというのはある意味「自明の理」と考えてよいと思います。


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