真空管ギターアンプの部品選定


チャンネル切り替え素子の選定

単純な1ch構成ならばよいのですが,フットスイッチを使って2chを切り替えたりすることを考えると,何らかの切り替え素子が必要になります。 メカトロを駆使したリレーやリードリレー,MOS-FETを使用した半導体スイッチ,Photo-CDSなど色々あります。 特徴をまとめました。


リレー(Relay)

四角い箱に入っていて,電磁石でスイッチを動かして機械的に接点を切り替えます。 接点容量が大きいものをよく見かけますが,微小信号用のリレーもあります。

動作電圧は5V〜24Vくらいで,直流で動作するものと交流でも動作するものがあります。 ラッチング式といって数十msecだけ電圧を印加すれば機械的に接点の位置が決まるものもあります。

電磁石を使う性質上,動作に要する電力が比較的多いので,電池駆動のエフェクターには内蔵できません。 ラッチング式は消費電力が下がりますが,制御回路が複雑化になり,確実に動作させることが難しくなります。

リレーはスイッチと同様に接点の定格容量を守って使用しないと正常に切り替えできない不具合につながります。

音声信号の切り替えには気密パッケージに入っていて金接点のモノを使うと良いと考えています。

寿命は100万回程度が多く,接触抵抗は100mΩ程度のものが多いです。

切り替え時間は10msec程度と遅いので考慮が必要な場合があります。

切り替え時はチャタリングが発生するので注意が必要です。 DCオフセットがある信号を切り替えるとチャタリングのため方形波が発生して「ブチ」という音がでます。 リレーで切り替える回路はC結してDCを取り除いておきます。

トランジスタで駆動する場合はトランジスタが破壊しないようにコイルの逆起電力対策が必要です。

メーカーは「オムロン」や「パナソニック電工」などが有名です。


リードリレー(Lead Relay)

測定器や通信機器に使用されます。 スイッチ部分のバネを弱くしてあり,接点間の距離も近いのでmsecオーダーの高速な切り替えが可能です。 磁気回路の構成も普通のリレーと異なります。

切り替え速度が数msec程度と速く,寿命が1億回程度になるため信頼性が高いと考えられます。検査装置や測定器などで使われるそうです。

スイッチ部分が敏感に作られているので外部からの磁界に影響されやすく,磁気シールドされたものもあります。

接点も金よりも信頼性の高いロジウムを使用しているものがあります。

接触抵抗は500mΩ程度ですが,微小信号の切り替えには有利です。

私としては「磁界内を通過するバネ性をもつ金属」に信号を通すので,振動による起電力で悪影響がでないかどうか危惧しています。 あとは値段が高い。。。


Photo-CDS (Photo Coupler, Opt Coupler, LDR)

「フォト・カプラー」や「オプト・カプラー」,「フォトレジスター」,「LDR(Light Dependent Resistor)」とも呼ばれます。 ギターアンプでは多用されていますので実績はあります。 チャタリングが発生しないので,DCが発生している信号を切り替えても「ボフ」という音がしません。「プ」位の音はでます。

「VACTEC」のコメントではノイズ特性と歪み特性は固定抵抗並みとなっていますが,真偽のほどはわかりません。

LEDとCDSを使ってON/OFFを行います。CDSは明るさによって抵抗値が変化する古典的なデバイスです。 作っているメーカーが少なく,選択肢が少ないのと価格が高く,安定供給が難しいのが欠点といえば欠点です。

構造が単純なのでLEDとCDSを購入して自作することも可能ですが,CDSの選択に悩みます。

CDSはスイッチではないのでON状態でも数十Ω〜数百Ωの抵抗を持ちます。 チャンネル切り替え制御に使用するとチャンネル間のクロストークにつながるので設計時は注意が必要です。

切り替え速度は10msec程度で比較的早いですが,OFF時の応答が遅い品種もあるので設計と選定の際は注意が必要です。 VACTECでは切り替えが速く,抵抗比の大きい「VTL5C1」が適しています。

真偽のほどはわかりませんが,カドミウム化合物を使用しているので,RoHs規制の対象になるようです。

「VACTEC」というメーカーがギターアンプではよく使われます。 日本では「浜フォト」や「モリリカ」というメーカーがありましたが,どちらも生産中止で入手難です。


Photo-MOSリレー(Solid State Relay)

Photo-MOSリレーはパナソニック電工の登録商標です。多分。。 ギターアンプや音声信号の切り替えにはあまり使われていません。 電源の制御やモーターの制御などに使われています。 LEDと半導体スイッチ(MOS FET)をつかって切り替えます。

音声信号用にはACで使用できる品種を選ぶ必要があります。

切り替え速度はCDSより早く1msec程度が期待できます。チャタリングは発生しません。

ON状態でも抵抗値を持ちます。1Ω以下から数百Ωのものがあります。 低抵抗のMOS FETはOFFでも静電容量による漏洩が発生しますので,ハイインピーダンス回路に低抵抗のスイッチを使う時は注意です。 内蔵するFETの特性によってON抵抗に違いあり,この抵抗値も温度によって変化します。 信号電圧によって抵抗値に非直線性がありますので,ちょっと気持ち悪いです。

あと,真空管アンプなのに半導体に信号を通すというのがなんとも不気味です(笑)


MOSアナログ・スイッチ(MOS Analog Switch)

ロジック信号で直接C-MOS FETをON/OFFします。

電源電圧によってダイナミックレンジが制限されてしまいますので,ダイナミックレンジの大きいギターアンプには不向きです。

オーディオではMOSスイッチを使ってATTなどを構成していますので,メーカーを選べば実績としては十分と思います。 ちなみにマーク・レビンソンのATTにはビシェイのアナログ・スイッチとチップ抵抗が使われているようです。

消費電力が低いのも魅力です。


J-FET

J-FETを使用したスイッチ回路もあります。 BOSSのコンパクト・エフェクターで良く使われる方法です。 ダイナミックレンジの大きいギターアンプには向きません。


余談:クロストーク

リレーによる切り替え回路を使ったプリアンプでどうしても消えないノイズに遭遇しました。

真空管を交換しても,シールドを強化しても,ヒーターバイアスを与えてもブーン+ジーというノイズが出ます。 ボリューム最大では小さくなり,中間位置に持ってくると一番大きくなります。

原因はリレー回路の接地忘れでした。 リレー回路が接地されていなかったので,電位が不定になり,整流ノイズがコイルに印加されて信号経路に紛れ込んでいたのです。 つまり,リレーのコイルと接点にはクロストークがあるということです。

他のスイッチ素子でも同じことが言えると思います。 切り替え用の回路と接点とはクロストークがあるはずです。

たとえば,LDRやJ-FETは抵抗値がゼロになりません。 切り替え回路の電流にリップルがあれば,信号経路にも乗ってくると思います。

ということで,ノイズのことだけを考えると,クロストーク特性が管理されている高周波用のリレーなんかは案外いいかもしれませんね〜


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