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2-1:初めて作る直熱管アンプの最終段設計

211(VT4C)シングル・ステレオ・アンプの自作


最終段は211で決まり

手持ちのGE製211(VT4C)を生かしたアンプを作るので211を中心に考えていきます。

GE VT4C 211

プレート電圧1000V

憧れているわけではないけど,211は1000Vで動かしてあげたいと刷り込まれています。 アンプづくりは500Vまでなら経験がありますが,1000Vは危険な香りがします。 限られた大人しか踏み込めない怪しい領域なのでは・・・

第一には部品の耐圧に注意すること。秋葉原で普通に手に入る抵抗は500Vまでしか使えません。トランスも注意が必要です。 そして端子台や基板の電極同士の絶縁距離をしっかり確保すること。これにつきます。

211 UV JUMBO SOCKET

211の負荷は10kΩ

MJの佐久間氏の記事を引用しますと,,

「別に目新しいことではないが,この211という球,RLをよほど大きくしないと好結果に結びつかないということだ。」
「大きな出力を得るということにおいてもRLの大きさがものをいうが,出力はさておき,良好な音色を得るということに絞っての話だ。」

そして,5kΩのF-2004を2台シリーズ接続するという技を編み出す。その結果,,

「僕の思ったとおり,この211という球は負荷が大きくなければ,その真価が発揮できない球なのだろう。」
「2個シリーズに接続したF-2004の10kΩというインピーダンスがもたらした恩恵は多大なものがある。」

と記しています。

他の記事では,801Aは211と同様に内部抵抗高いとして,タムラのF-475を3直にしたうえで,,
「重厚で,それでいて実にヌケの良い再生音を得ることができた。」
「実験の段階で,5kΩ,10kΩ,15kΩと3段階にわたりRLを変えて実際に音を出してみたが,RLが高くなるほど再生音に肉厚感が出て好ましい音に変化していくのが顕著に分かった。」
「RLが5kΩでは高音域のきつさが目立ち,中低音の厚みがまるで出ない。」

と感想を述べている。

211の推奨動作は7600ohmnなので7kΩでもよいように思えますが,ここは先人の轍を踏んで10kΩにこだわりましょう。

1次インダクタンスは大きく

管球王国の岡田氏の記事(211/845)では,,

「211の音質は,内部抵抗がやや高めだが,直線性がよく,素直な特性のため,中高域の歪みが少ない。」
「低音部は出力トランスの影響が大きいが,軽快となるところが好ましい。」

と記されています。読み替えると845と比較して低域が薄くなるということです。

以上より負荷インピーダンスも大切ですが,1次インダクタンスを確保することが重要であることを暗示しています。

インダクタンスを確保するためにはトランスをコイルとして捉えればわかる通り,巻き線のターン数を多くする必要があります。 一方でターン数が多いと寄生容量が増えるので高域特性が犠牲になります。 また,ターン数が多いとコアが飽和しやすくなりますので,コア断面積を大きくする必要があります。

さらに,シングル用のトランスは直流を流すので飽和防止するためにコアギャップを設けることが多く, その分コアの透磁率が下がるため1次インダクタンスは低下傾向になり,飽和防止とインダクタンス確保のバランスが難しくなります。

以上の傾向から考えて211に使う出力トランスは技術的な難易度が高いことが分かります。

1次10kΩのOPTというと,高級なトランスを見渡してみると30Wクラスではざっくり40H〜50Hのインダクタンスはあるようです。 TANGOのX-10Sは最大80Hというとんでもない数値です。お値段も化け物ですが。。

代表的なトランスの仕様をざっと調査してみました。

製品名X-10SF-2013PMF-40WS-10KPMF-30WS-10KH-40-10S
メーカーTANGOTAMURAゼネラルゼネラルHASHIMOTO
1次インピーダンス10kΩ10kΩ10kΩ10kΩ10kΩ
出力容量40W40W40W(30Hz)30W(40Hz)40W(45Hz)
1次インダクタンス65H-80H50H50H38H35H

この表には含まれませんが,気を付けなければならないのは1次巻き線はそのままに2次巻き線の結線を変更して10kΩとしているトランスです。 5kΩのトランスの4Ωタップに8Ωをつなげば見かけ上は10kになりますが,1次インダクタンスは変化しません。 トランスはの低域カットオフ周波数は駆動インピーダンス(出力管の内部抵抗)と1次インダクタンスの逆数の積に比例します。 内部抵抗の高い211と1次インダクタンスの低いOPTを組み合わせるとカットオフが高くなり低域はスカスカになります。

出力トランスの選定

出力トランスはLIST(調所電器)に巻いてもらいます。 カバー無しなので工作の手間はかかりますが,その分安価に手に入ります。

以下のような希望仕様で打診してみました。

1次インピーダンス10kΩ
2次インピーダンス0-4-6-8Ω(16Ωは不要)
1次インダクタンス40H以上
1次許容DC電流100mA以上
出力容量30W(40Hz)以上

何度かメールでやり取りした回答をまとめると,このような仕様でした。

カットコアCS200(30Wの要求に対して)
巻き線構成[Ω]|0-4|S|0-10k|S|4-6-8|("S"はシールド)
1次側接続ラグ端子(厳重に絶縁すること)
2次側接続巻き線直出し,20cmほどのスリーブ巻き
磁気ギャップ0.18mm
1次インダクタンス4800ターンほどで40Hを目標とする(これから設計)
1次側巻き線0.23mmで120mA程度

形状についての案内はありませんが,「カットコア CS200」でググってみたところ,コアメーカーの資料が出てきまして,出来上がったトランスはその通りの寸法でした。 注意点として「トランスとしては1000Vには対応するが,ベテラン向けであり,絶縁やカバーなどを施すように」と念を押されました。 なお価格は2台でサラリーマンのお小遣い+α程度です。 いつまでこのような形で作り続けてくれるか分かりませんが,非常に助かります。 なお,トランスの実力については測定のページで検証しています。

実際のトランス

OUTPUT TRANSFOMER CUT CORE CS200

2台並べてこんな感じです。シールドはまだ配線していません。

シングルコアに真鍮のバンドが特徴です。

コアサイズ

日本カットコアートランスのカタログから簡単に引用しますと。 CS-200の断面積は19x50,参考値ですがコアの重量は1.89kgとのことです。

取付寸法

CS-200用取付台座 日本カットコアートランス TB-200
CS-200用取付台座 日本カットコアートランス TB-200の寸法[mm](A=100,B=85,a=80,b=70)

1次側の端子処理

OUTPUT TRANSFOMER OUTPUT TRANSFOMER

●ポツが巻き始め(のよう)です。 TAMURA,HASHIMOTO,TANGOの3大メーカーのトランスは●を出力管のPlateに接続すると出力管のグリッド入力から2次側のスピーカー出力への位相が正相になるようです。

1次側はラグ端子です。自分で半田付けして絶縁する必要があります。 参考までに私の方法を書き留めておきます。これが正解というわけではありません。

OUTPUT TRANSFOMER

半田付けしたらシュリンクチューブをかぶせます。チューブには段差を付けてベロを出しておくのがポイントです。 ピンクの配線材は耐圧20kVの高圧用です。

OUTPUT TRANSFOMER

収縮させたら先端を折ります。折ることで端子の先端が絶縁されます。 熱風を当てる際には緑の配線に熱風が当たらに様に工夫します。

OUTPUT TRANSFOMER

熱に強いガラス繊維の絶縁チューブをかぶせます。

OUTPUT TRANSFOMER

半田付けする前にこんな形に加工したシュリンクチューブをあらかじめ通しておくのを忘れずに。 これを収縮させたら出来上がりです。電極が露出しないこと,高熱で溶けないことが重要です。

OUTPUT TRANSFOMER

2次側の端子処理

OUTPUT TRANSFOMER

一方の2次側の端末処理はこんな様子です。複数のレイヤーから引き出された巻き線をパラレルに接続して半田揚げしてあります。 これをスリーブ巻きと呼ぶようです。

OUTPUT TRANSFOMER

一度短く切り,全ての被覆を丁寧に剥がしました。 被覆を剥がすのは400℃くらいの半田ごてが良いようです。 火で炙ると被覆が変質して固着してしまいます。

そして延長用のリード線(MOGAMIの2515)と巻き線を一緒にスリーブで圧着します。念のために半田を流し込みました。 その上に高温にも耐えるガラス繊維の絶縁チューブをかぶせます。 さらに固定のためにシュリンクチューブで固めました。写真は未使用のタップです。 修行時間は3時間程度でした。肩がこりました。。毎日の鍛錬を怠らないことですネ。

211の素の特性を味わう

出力トランス2次側からのオーバーオールの負帰還はかけません。 トランスを負帰還ループ内に入れることはトラブルの元ですし,安定したアンプを実現することが難しくなります。

シングル・ポール補償とすれば楽ですが帯域を狭めます。一方で2次・3次の位相回転を補正していくことは容易ではありません。 何とか発振を抑え込むことができたとしても不安定性を内在したアンプでスピーカーを駆動しているとアンプは安定でも聞いている人間が落ち着きません。

A2級は狙わずCR結合にする

最大出力は10Wで十分なので,A2級を狙わずにA1級とします。 詳細はドライバ段の設計で述べることにします。

安定性重視のカソード・バイアス方式

211のバイアス方法はグリッドに負電圧を与える固定バイアス方式と,カソードに抵抗を挿入するカソード・バイアス(自己バイアス)方式の2種類が考えられます。 一般的にカソード・バイアス方式は安定性に優れ,故障しにくいと言われています。

真空管のバイアス電圧はカソードへ正電圧もしくはグリッドに負電圧を与えます。 バイアスが浅いと過大電流が流れて球にダメージが入ります。

自己バイアス方式はウオーミングアップの過程で自動的にバイアスがかかるので安全です。 しかし固定バイアス方式の場合,負電圧電源が別電源・別回路となりますので「必ず立ち上がる」保証がありません。 部品トラブルなどで負電圧回路が立ち上がらなかった場合,過大電流が流れて球にダメージが入ります。

今回,211は二本しかありませんので安全なカソード・バイアス方式をとります。

交流点火にするか直流点火にするか

様々な議論が長年繰り返されてきたように思います。 フィラメント電圧が2.5Vの2A3ならば交流点火でも問題ないようですが,211のフィラメント電圧は10Vあります。 佐久間式はDC点火です。シロネアンプはAC点火です。 211はそもそもバッテリーの時代の球なのでDC点火でよいとする説。 DC点火ではフィラメントが片減りするという主張。 そしてとうとう7Hzという低周波点火のアンプも出てきました。

低周波点灯は魅力を感じます。あまったDCアンプがあれば実験できます。 うってつけのアンプがあるのでちょっと頭をよぎっています。

いろいろ考えましたが,今回はDC点火にします。

DC点火の場合,どちらをプラスにするのか,たまには切り替えてやった方が良いのか,一瞬悩みました。 とはいえ,球をよく観察しても極性があるようには思えないので,気にしないことにしました。 左右で点火極性を逆にしておけば差し替えることで片べり(が発生するとして)を防止できるというアイディアも浮かびました。 でもなんか気持ち悪いのでやめました。

フィラメント経由のクロストーク,ノイズ混入,ヒータートランスは左右個別!

直熱管はフィラメントの音を聞いているようなものと思いますが,点火回路には様々なノイズが入ってきます。 パワートランスには多くの整流回路が接続されますので,整流ノイズも入ることでしょう。 トランスの巻き線同士は浮遊容量で結合していますので,チャンネル間のクロストークも発生するでしょう。

シリコンダイオードは音が濁る。 という都市伝説はフィラメント点火回路を経由してダイオードが発するスパイク・ノイズが入ってくると考えると納得できます。

そこで,フィラメント点火回路のヒータートランスは独立して左右個別に持たせることにしました。 各球にそれぞれ専用のヒータートランスを用意します。

パワートランスのタップから点火するなどはズル。サボタージュ。 フィラメントは元々バッテリーで点火されてましたので,別電源できれいなDCを作ってやるのが一番良いと考えました。

ヒーター経由のノイズを減らすためにヒーター・チョークという部品を使う手もあるようですが取り付けるスペースがありません。。

ハムバラどうする問題

ハムバラどうする問題

直熱管に必要な部品にハムバランサーがあります。 DC点火でも完全なDCとすることは難しく,ヒーター電源にリップルが含まれます。 この残留リップルを打ち消すためにハムバランサーが必要です。

ハムバランサーは巻き線と接点を持つ厄介な代物です。

ハムバランサーをバイパスできればなんて素敵なんでしょう・・・と妄想。

大容量のCを抱かせてハムバラをバイパスすると・・・リップル成分もバイパスされてしまい,バランスが取れなくなります。 この場合,コンデンサの容量でバランスが決まります。 つまりハムバラをなくすことができますが,バランス調整のために容量調整が必要です・・・容量調整なんてものが現実的か疑問です。

一方で小容量でハムバラをバイパスした場合,周波数特性が乱れます。 高域が上昇するハイ上がりの周波数特性になります。 まあもし,OPTの高域がだら下がりならば補正手段として有効かもしれません。

ということで小細工は無用です。さんざん悩みましたが最もオーソドックスな回路にします。

211はヒーター電圧が10Vもあるので100Ωのハムバラは負荷になり発熱します。 大型のPOTは設置スペースが厳しく悩みました。。

CTSの巻き線100R5Wで24mmのPOTがRSで手に入りますのでこれにします。 シャーシに取り付けていますのでそれほど過熱しません。

グリッド周辺と入力回路

グリッド・バイアス抵抗は100kΩとしておきます。 特に根拠はありません。211は50のように低い抵抗値を求められているわけではないようです。

負帰還をかけるためグリッド・バイアス抵抗の設置ポイントはGNDではなく初段のカソードにしています。

カソード周辺

カソード・バイアス抵抗は1kΩ25Wのメタルクラッド抵抗にしました。 発熱変化による2次歪み防止するために温度係数の小さい巻き線抵抗を使います。 さらに,熱容量が大きい方が歪みの発生を抑える効果があると思いますので25Wを使っています。

カソード・バイパス・コンデンサは100uF100Vを使います。カットオフ周波数は1.6Hzくらいです。 パナソニックの高リップル品を調達しましたが思ったより小型・軽量で頼りなく感じましたので,交換の予定です。

プレート周辺と電源

高域のクロストーク対策のためにプレート電源に10Ωを介して左右個別に10uFのパスコンを挿入し,カソードとプレート電源を最短距離で結びます。 低域のクロストークはリップルフィルタが押さえてくれます。

本当はオイルコンデンサをシャーシ上にズラズラ並べたかったのですがお財布が言うことを聞かず,安価なフィルムコンデンサにしました。 10uF1300Vを使っています。基板取り付けタイプなので実装には工夫が必要です。ベーク板に接着して補助的に結束バンドで固定しました。

電解コンデンサを接着する人がいますが,圧力が逃げずにパンクする可能性があります。 また,電解コンデンサはやがてドライアップしますが接着してしまうと交換困難です。 フィルムコンはパンクの心配も交換の心配も必要なさそうなので接着してしまいました。

使用部品

ソケットは安価な中国製です。確か1800円です。ジャンボソケットは需要があるんですかね。 タイト(磁器)部分はしっかりしています。少し緩い感じがしますがまあ,大丈夫でしょう。 取付穴はφ60mmと巨大です。スペーサーを使いシャーシから10mm沈み込ませてM5のネジで取り付けました。 沈み込ませるのは複数の記事に図示されていますのでお約束のようです。おそらく放熱に効果があるのではと思います。

高耐圧大容量のフィルムコンデンサは「DC LINK」向けのインバーター用に需要が増えてきたようです。 風力発電などが発する周波数が変動する交流を50Hz/60Hzの商用交流電源に接続するために一旦直流に変換する用途があるようです。 太陽光発電や電気自動車でも高電圧の直流が使われますので,高圧直流対応の部品が増えてきました。 今回は10uF1300Vと15uF630Vを使いました。

メタルクラッド抵抗はARCOLブランドです。ARCOLの原産国はGB(イギリスかな?)ですが, 最近の電子部品は大手ブランドでも発展途上国に工場がある場合が多いようです。当たり前か。 昔は原産国は重要で,アメリカ製を珍重していました。シンチのソケットだスプラグのコンデンサだと騒いでしました。 実際にアンプを数台作るうちに日本製も悪くないな思うようになりましたがメキシコ製や中国製は品質が低いと思い込んでいました。 ところが今では中国製でも南米製でも東欧製でも品質的に気になることは減りました。 通販で何でも手に入る便利な世の中です。


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