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2-4:初めて作る直熱管アンプの電源設計

211(VT4C)シングル・ステレオ・アンプの自作


電源は戯れしろ満載

「A級アンプは電源を作るようなものだ」と聞いたのはいつ誰からだったでしょうか。 まさに今回のアンプは電源の化け物。といっても大幅にセーブしたのですが・・・

A級ステレオアンプの電源は物量投入すればするほど数値上の性能は上がっていきます。 そしてどんどん重くなり・・・

もうひとつ気づいたこと,三極管A級アンプは電源の音を聞いているようなものなんです。 設計始めた当初は気づきませんでした。設計を進めていくほどそんな予感がよぎります。 そしてMJのバックナンバーを漁り,WEBを流していくと知れば知るほどその通り。

簡単な机上計算からもわかります。プレート電源のリップルがどれだけ出力に現れるのか。 直熱管のフィラメント電源のリップルがどれだけ出力に現れるのか。計算してみてください。結構大きな値です。 AC電源からのハムが出力に現れるということはその他の電源ノイズにも感度があるということです。 電源から混入してくるノイズだけでなく自らが発するノイズ,例えば他チャンネルのクロストークやシリコンダイオードのリカバリノイズも拾ってしまうわけです。

商用のAC電源は交流ですから,きれいなDCを得て呪縛から解き放たれるためには電源のリップルが消えるようにツルツルに磨き込む必要があります。 少なくともそれがスタート地点です。整流回路で磨けば磨くほど純米酒でいうところの雑味が減るわけです。

ハイレゾ時代の真空管アンプにはクロストーク,熱雑音,マイクロフォニックなど課題が山積みです。 ハムに負けるようではハイレゾの土俵には立てません。

整流リップル対策はエジソンの呪い

オーディオが家庭的であり箱庭的であるひとつの理由として電源の問題があると思います。 (大分潤滑剤:アルコールが回ってきました)。 バッテリー電源最高!!という雑誌の記事を読んだりしますが。その通りです。 商用のAC電源を使う限りありとあらゆる呪縛によって雁字搦めに縛られるのです(漢字難しいな)。

「整流」これはどうしたことでしょうか。エジソンは当初直流での給電を試みたと聞いています。 それが交流に変わった理由は何でしょうか。変圧器によって電圧を自由に制御できること。これが大きいのでしょう。 なぜって,だって,あなたの身近な電柱の上に変圧器があるでしょ?これが直流インバーターに変わる日があと50年で来ると思いますか? わたしは来ないと思います。確かにソーラーパネルによる自家発電装置を持つ家庭は直流給電という夢も見られることでしょう。 ところがですよ,まだ普及していません。一方,アフリカでは電気は来なくても携帯の電波は来ます。テレビは無くてもスマフォはあります。 交流電源は無くても12Vのバッテリーはあるのです。

大分いい具合に潤滑剤が回ってきました。オイルではなくアルコールですがね。

商用のAC電源を使ってオーディオをやろうというのはある意味エジソンの呪いです。 エジソンは蓄音機を発明しました。オーディオ再生には直流送電が適しているのです。エジソンが敗北し交流送電が勝利した結果,オーディオも交流給電に甘んじることになったのです。

つまり,整流リップルというのはエジソンの呪いであり,これを攻略しなければ現代のオーディオ装置はエジソンの蓄音機を超えられません。なんて。

チョーク・コイル

整流リップルをフィルタリングして取り除くためには一般的にチョーク・コイルとコンデンサによるLCフィルタ回路が使われます。

チョーク・コイルはコアにエナメル線を巻いただけの単純な構造の割には難しい問題も多く,コアの選択と励磁の程度,直流をどの程度流すかといったパラメータがあります。

そしてリップルを効果的に除去するために案外大きなコイルが必要になります。 そんな大型のチョーク・コイルを何段にも重ねることでエジソンの呪縛から逃れるしかないのです。

電解コンデンサとオイルコン

ケミコン(電解コンデンサ)の大容量化という進化の道も残されました。真空管アンプでも1000uF程度を使う自作例があったと思います。 とにかく容量で抑え込むという考えは間違えではありませんが,ラッシュカレントの対策,懐古主義に対する反論が難しく主流にはなっていません。 最後は音で勝負とか言って空中戦でやりあっても収拾がつきません。

そして音質を考えるならばオイルコンの登場となります。これまた大きくて重いです。もちろん高価です。

A級アンプの電源って大きくて重たいものをコレクションしているみたいですね。

ステレオアンプにおける電源経由のクロストーク

左右チャンネルで共通の電源を持つステレオアンプは電源経由のチャンネル間クロストークが発生します。

クロストークを抑え込むにはチョークコイルを使った分離が有効なようです。 しかしただでさえ大きなチョークコイルを2個用意する必要がありシャーシ面積・コスト共に上昇します。

今回はチョークコイルの替わりに半導体を使ったアクティブ回路を導入しました。 お陰でチョークコイルは不要となりコンパクトに収まりました。

クロストーク対策には電源を分離することが一番です。 分離するためにはチョーク・コイルでインピーダンスを上げてコンデンサで下げてと上げ下げを繰り返せばよいのです。 ところがコンデンサのインピーダンスは周波数特性がありますので,低域ではあまり下がりません。下げるためには大容量が必要になります。 今回は大容量のコンデンサを使わずにオペアンプによるフィードバック制御で電源インピーダンスを0.1Ω以下まで下げることによって電源分離を実現しています。

定電圧回路

傍熱管が普及し,回路技術が発達すると真空管による定電圧電源も作られました。 ただし原理的にロスが多いことは否めず,スクリーングリッドの安定化など限られた用途に使われたにすぎません。

トランジスタが普及してくると定電圧電源も使われるようになりますが,複雑・難解・自作困難・再現性無しとなると芸術の域ですね。 作れる人がいないから普及しないわけです。 そもそも真空管アンプのロマンは自分で作れるかもしれないという妄想によって支えられていますので,素人を寄せ付けないような複雑な回路は普及しません。

リップル・フィルター

Ripple Filter

リップル・フィルターの基本回路はこんな感じです。 実際に作って動かしていないので動くかどうかわかりませんが・・・

基本回路はシンプルです。RCによるフィルターをバイポーラトランジスタのベースに接続します。 RCフィルタに流れる電流は1/hfeになります。

5V程度の低電圧ならトランジスタが壊れることはありませんが, 高電圧で使用する場合はトランジスタの耐圧を超えないように保護用のダイオード(D1とD2)を追加しました。 D1/D2は主に電源遮断時の逆電圧を制限してトランジスタの破壊を防止しますが,D1をツエナーダイオードとしておけば電源投入時のVCEを制限することもできます。

真空管アンプにリップル・フィルターを使う例はボチボチ見られます。 まあでも500Vがせいぜいです。1000Vのリップルフィルターは見当たりませんでした。

1000Vリップル・フィルターに使えそうな高電圧デバイス

1000Vに対応するメインの制御デバイスを探します。

HIGH VOLTAGE DEVICE

MOSFETは600V程度までは品種が多いですが,1000Vクラス以上は選択肢が少なく,SiCの出番となります。 Gmがあまり大きくないのでリップル除去効果は低いです。


HIGH VOLTAGE DEVICE

バイポーラトランジスタ(BJT)は1000Vクラスは選択肢が少なく,しかもhfeが100以下,ひどいと10しかありません。 このためダーリントン接続がマストになりますが,そうなると小信号・高耐圧・高hfeのトランジスタが無いのでアウト。


HIGH VOLTAGE DEVICE

IGBTは高電圧・高電流に対応したバカでかいモジュールもあります。 等価回路としてはバイポーラ・トランジスタとMOSFETをインパテッド・ダーリントン接続にしたカタチになるらしい。らしい。。。 ちょっとなじみが薄く,扱いが難しそうなイメージ。非飽和のリニア動作でどんな動作になるのかよくわからず。 などなど,自分のスキル不足により採用を断念。。です。おそまつ。

SiC MOSFET

MfrROHMTO-268-2L
NameSCT2H12NY
VDSS1700V
ID4A
PD44W
VGSS-6Vto22V
Tj175℃

ゲルマニウムからシリコンへの進化は急激でしたが,シリコンの次のステップへは課題が多いようです。 SiC,GaNなど次世代の素材が研究開発されていますが,やっと一般的になってきました。 登場した時はパワーエレクトロニクスの可能性を広げる新しい素材として注目されましたが,歩留まりの悪さなどの課題があったと記憶しています。 特徴としては高速化が容易で高温に強いと言われています。ここ数年で電車などに応用が広がり実用化のフェーズに入っています。

金田式アンプにも採用されて知名度が広まっていますが,真空管アンプに応用した例は聞いたことがありませんでした。

SiC MOSFETを使った高電圧リップル・フィルター

MOSFET RIPPLE FILTER MOSFET RIPPLE FILTER

制御素子にSiCを使用した1000V対応のリップル・フィルターを設計してみました。 チョークトランスを使わずにリップルを抑制することはできますが,高耐圧のコンデンサが追加で必要になってしまうので規模が大きくなってしまいます。

左の図は電解コンデンサを使用した場合,右はオイルコンやフィルムコンを使った場合です。 これらのコンデンサーは場所もコストも食いますので,減らすことができるとありがたいのですが・・・

リップル・フィルタとしての性能をスパイスでシミュレーションしてみました。 リップル除去比は50dB程度,出力インピーダンスは10Ω程度になりそうです。

D1とD2は素子を壊さないための保護と電源ON/OFF時の充放電時間短縮の役目を兼ねています。

超絶光絶縁!1000V対応の高電圧リップル・フィルター

高耐圧のコンデンサを使わないこと,Gmの低さをカバーするためにフィードバックをかけるという二点を目標に回路を考えてみました。

MOSFET ACTIVE RIPPLE FILTER

基本回路を示しましたが,この回路でリップル除去比は90dB以上,出力インピーダンスは最低で0.1Ω程度が期待できそうです。

でもこの回路,ほぼ定電圧電源回路なんです。それでもリップルフィルターにこだわった理由があります。

AC100Vは95V〜105V程度は簡単に変動します。 90〜110%の変動は実際にあるとして,回路設計としては85〜115%の範囲で考慮すべきと言われています。 そうなると,85%でもヘッドルームに余裕があり,115%でも発熱を許容できる定電圧回路を設計する必要があります。 これは結構難しいというか,無駄の大きい課題になります。

具体的には例えばAC85Vで1000Vを狙うとAC100Vでは1180Vに設定する必要があります。 そこから115%増しだと1360Vになってしまいます。 この増加分360Vの損失(発熱)に耐えなければなりません。 100mA流すならば36Wの増加になりますので,A級トランジスタアンプ並みの巨大なヒートシンクを用意することになります。

一方リップルフィルタの場合は自動的にヘッドルーム電圧が調整されますので制御回路の損失(発熱)は常に一定になります。 無駄に大きなヒートシンクが不要になります。これが大きな理由です。 実際の回路では20〜25Vの電圧降下に100mA〜120mA流し,2W〜3Wの発熱で済んでいます。


2020/04/20:回路変更メモ

R30・220kΩに220kΩを並列して110kΩとしています。

1000V系のFETが2回にわたりショート・モードで故障しました。 連続通電後,一度電源をOFFし再度電源をONすると死んでいるという不可解な現象です。

500V系は壊れないことから回路の問題ではなさそうです。 おそらく,電源ON/OFF時に過剰な熱負荷がかかっているようです。 熱い状態で電源OFF/ONを繰り返すと電源ON時の熱負荷に耐えられないのかもしれません。

稼働時の発熱がひどくヒートシンクは指で触れられない程度(おそらく80℃以上)なので,まず発熱を抑えることにしました。

出力にリップルが現れないように電圧降下を大き目(20V〜25V)に設定していましたが,よくよく確認して10V〜12Vに変更しました。

リップル電圧は実測では3.32Vrms,正弦波換算で4.7V0-pなので,ドロップ電圧10Vでもおつりが来ます。 スパイス・シミュレーションでは40Hz70mAの正弦波食わせた状態で8V0-pでしたので余裕があります。

真空管は熱容量が大きいので短時間のショートでも壊れませんが,半導体はあっという間に壊れます。 パワー素子はできるだけ大きなパッケージを選び,ヒートシンクをぜいたくに使うのがパワー半導体を使うコツかもしれません。

また,1000Vという電圧は,たった100mAでも100Wの発熱です。 過電流保護回路は保護時のドロップ電圧が大きくなるので逆に破壊を助長してしまいます。 SOA保護回路が最適ですが,フの字型の保護回路になるので現在のようにゆっくり電源を立ち上げていると起動しません。 また,保護時はできるだけ素早くゲート電圧をOFFしないと瞬間的に発生する熱で破壊してしまう可能性があります。 このような保護回路を実現するのは難題です。 保護状態を検出したら素早くOFFしてラッチ&ディレイしないとFETが昇天します。加熱保護も欲しいです。

電流検出,電圧検出,温度検出,これを1000Vの耐圧で実現するとなると・・・
電流検出と温度検出は高圧側に持っていきフォトカプラで絶縁するのがよさそうですね。 電圧検出は高圧抵抗を使うしかないでしょう。 ADを内蔵したマイコンを使えば閾値設定の自由度も高くラッチ&ディレイも簡単です。 と・・・そこまではしません。

ドロップ電圧を減らす改造を実施後,白いセラミック・ヒートシンクの温度は54℃(室温20℃)でした。


さて,動作についての解説ですが,R30/R39/R34とR47で分圧してC33でリップルを除去します。 R35/R40とR48で出力側の電圧を検出してオペアンプで誤差をフィードバックします。

ゲートの駆動はフォトボル(TLP591B)を使用して駆動しています。

TLP591B TLP591B

TLP591BはSOPパッケージで絶縁耐圧は2500Vありますので1000V回路でも安心して使えます。 写真は秋月電子から借用しました。

R34/R35/R39/R40は500V近い電圧がかかるのでVishayのVR68という高圧用の大型抵抗を使っています。 端子間の耐圧はパルスで10,000Vと記載されていますが絶縁耐圧は700Vです。電力容量は1Wです。 抵抗としては大型ですが,高耐圧コンデンサよりは断然省スペース・低コストです。

OVER CURRENT PROTECIOTN

過電流制限回路は設けていません。おかげで調整中のショートにより4つほどFETを飛ばしました。 過電流制限回路を入れるとしたらこんな回路ですが,中途半端に電流制限するとVDSが大きくなりFETが熱破壊します。 200mAで電流制限したとして,もし1000Vかかってしまったら200Wの損失になります。。

過電流を検出したらラッチしてFETを完全にOFFして数秒間はOFF状態を維持する回路が望ましいですが,複雑になるのでそこまで考えてません。

オペアンプの選定

オペアンプはFET入力でオフセット電圧が低いことが第一条件です。 検出抵抗の分圧比が高いので誤差が大きく拡大されてしまうからです。

LEDを直接駆動していますので10mA以上流せることも条件です。

広い電圧範囲に対して安定的に動作して欲しいのでRRI(レールtoレール・インプット)も条件としました。 起動時に確実に動いてほしいのでマイナス側の入力電圧範囲が特に重要です。

最近のオペアンプではめったに発生しませんが,ノーフェーズリバーサル(位相跳躍が発生しない)も重要です。

以上よりかなりオーバースペックですがナショセミ(TI)のLMP7702を選定しました。 RRIOの高精度CMOSオペアンプです。

2個入りオペアンプLMP7702
電源電圧範囲2.7V〜12V
入力オフセット電圧±220uV
入力バイアス電流±200fA
出力ショート電流66mA(電源5V,瞬時)
消費電流1.5mA(電源5V)
GBW2.5MHz
入力ノイズ9nV/√Hz

1000V耐圧をどう実現するか・・・基板への実装

RIPPLE FILTER MODULE

基板はベーク板で作りました。 1000Vの高圧がかかる部分は半径10mmの円を描いて絶縁距離を確保しながら設計しました。 蓋側に放電してしまっては困るので内側に絶縁板(ファイバー紙)を接着してあります。

SiC MOSFETとフォトボルは裏向きにして耐熱性の接着剤で基板に固定してしまいました。 足が空中に向きますので絶縁を確保するために役立ちます。

CERAMIC HEAT SINK

FETは2W以上の熱を発し熱くなるのでセラミック製のヒートシンクを乗せました。

+B電圧遅延制御付きの実用回路

1000V系リップル・フィルタの実用回路図を示します。500V系は少し回路が異なります。

オペアンプを保護するダイオードも入れました。抵抗を介しているとはいえ1000Vもの電圧が接続されていますので 想定外のことが起こるとオペアンプは一瞬で破壊されてしまいます。SBDによる保護なのでこれで安心です。 なお,SBDは漏れ電流が小さい品種を選ぶ必要があります。

Q2:2N7000が遅延を発生させる回路です。一旦電源をOFFすると遅延時間はリセットされます。 電源をONすると約10秒間は2N7000がON状態となりSiC MOSFETをOFFする方向に制御が働きます。 2N7000がOFF状態となると通常動作となり,リップルフィルタの出力電圧がゆっくりと立ち上がります。 1000V系の回路も原理は同じです。遅延時間は500V系は約10秒,1000V系は約20秒に設定してあります。 D15の働きによって一旦電源OFFとなると遅延時間はリセットされます。

電源投入後はまず,ヒーターで各球を温めます。 球が温まってから電源を立ち上げるので直ちにカソード電流が流れます。お陰で電源フィルタのケミコンに過電圧がかかりません。 そして,電圧増幅段の電圧が安定してから211を立ち上げますので,過渡的な低バイアス状態で過電流が発生することはなく,211を痛めることがありません。

リップルフィルタ実用回路

入力1000Vの場合,電源電圧がゆっくり上昇してくると出力電圧が500Vになったとき電力損失が最大となり発熱が最も大きくなります。 ただし過渡的で数秒程度なのでPKGとヒートシンクの熱容量から計算すると耐えられる見込みです。

5V POWER SUPPLY PWB

リップルフィルタ用の5V電源はこんな感じでコンパクトにまとめておきました。

整流回路

1000Vを得るための整流回路はどうするか。整流管か半導体か。どんな回路方式か。悩みどころは多いです。

両波整流回路

整流管を使うならば両波整流です。 真空管アンプ用の電源トランスは両波整流用が多いです。 320V-0V-320Vのようにセンタータップがついています。 脈流はセンタータップを基準として片側ずつ交互に流れるので片側がお休みする分,少し無駄があります。 この無駄は逆に言うと余裕があるとも言えます。

ブリッジ整流回路(全波整流)

整流に半導体素子を使うならブリッジ整流が有利です。 整流素子にかかる逆電圧が両波整流の半分になります。 脈流が同じ巻き線を行ったり来たりするので両波整流よりは効率が良いです。

倍電圧整流回路

ブリッジ整流の2倍の電圧が取り出せます。 取り出せる電流は半分かそれ以下に減少します。 1/2の電圧も取り出せるので電圧増幅段の電源も同時に確保できる利点があります。

中点付きブリッジ整流回路

500V程度の+B電圧を想定した両波整流用のトランスで1000Vを生成することができます。 ついでにセンタータップから1/2の電圧を取り出せば電圧増幅段の電源も確保できます。 400V-0V-400Vのタップを800Vとして使い,1.4倍の1132Vを生成することにしました。 同時に約500Vの電圧増幅段用電源を生成して一挙両得と考えました。

整流管か,シリコン・ダイオードか

三極管は電源電圧変動に敏感ですのでレギュレーションが良く低インピーダンスの電源が必要です。 A級アンプは消費電流の変動は少ないといわれますが,ノイズ,クロストークなどの不要成分の影響を小さくするためには電源インピーダンスは低い方が好ましいです。 ただしこういった要因が音質上どのように作用するのか,良い方向か悪い方向か定性的な傾向も含めて私は知りません。

半導体で整流した方が内部抵抗が低くレギュレーションは良く,高い電圧が取り出せます。 一方で脈流が大きくなるので取り出せるDC電流は減ることがあります。 おなじ電源トランスを使っても整流管の方が取り出せる電流が大きくなることがあります。 しかしながら,半導体でも直列に抵抗を入れることで整流管に近い動作とすることもできます。

真空管アンプに整流管が好まれる理由のひとつとしてウオームアップタイムをそろえることが言われます。 いわゆるA級増幅回路は電源立ち上がり時に過渡的な動作が発生し,過大な電圧が印加されたり過剰な電流が流れることがあります。 球が十分に温まってから電源投入すれば過大な電圧は防ぐことができます。 特にCR結合ではなく各段を直結としたアンプは電源投入時の過渡的な動作に注意が必要です。

そして大電流を流すことができる出力管は壊れるとダメージ(物理的にも精神的にもお財布的にも)が大きいので,最後に慎重に電源投入したいところです。

まとめますと,最良の立ち上げ手順は・・・
1:電圧増幅段のヒーター,出力管のフィラメント
2:電圧増幅段+B電源
3:出力管+B電源
となります。急激に電圧を立ち上げると真空管アンプとはいえスピーカーが揺さぶられることがありますので電圧の立ち上がりも数秒かけて立ち上がってくるのが理想です。

もう一点補足しておくとカソフォロなどの負電圧を使った電源があるなら電圧増幅段の+B電源と同時に負電圧電源を立ち上げるのが良いです。

今回のアンプはリップルフィルタに+B電源遅延回路を入れ込みましたのでウオームアップタイムに関する懸念はクリアできました。

以下のような手順で立ち上がります。
1:電源ONと同時にヒーター,フィラメント,主整流回路,リップルフィルタへ通電
2:電源ONから約10秒後に500V系が上昇し始め,数秒かけて立ち上がる,電圧増幅段動作開始
3:電源ONから約20秒後に1000V系が上昇し始め,数秒かけて立ち上がる,出力管動作開始
一旦電源を切ると遅延時間はリセットします。

SiC SBD

HIGH VOLTAGE RECTIFIER

整流素子には1200V耐圧のSiC SBD(C4D02120A)を使いました。1000V電源なので1本で行けそうですが危険です。

整流素子に印加されるピーク電圧はタップ電圧の1.4倍ですが, 電源ON時は10%以上の電圧上昇があるのでタップ電圧の1.5倍以上の耐圧が必要です。 さらにショート事故やオープン事故のような急激な電流変化が発生すると,電源トランスのインダクタンスによりキックバックが誘起されます。 2倍は余裕を見ておきたいところですので合計でタップ電圧の3倍の耐圧が欲しいです。両波整流ならばタップ電圧の6倍必要になります。

今回は400V-0-400Vであり,タップ電圧は800Vなので2400Vの耐圧があれば安心です。 以上より1200V耐圧のダイオードを2個直列で使うことにしました。

整流用ダイオードの故障は比較的よく発生しますので耐圧には余裕を持っておいた方が良いです。 すぐに故障するのではなく,最初は好調ですが,熱と過電圧でじわじわと劣化して最後は一気に破壊します。 故障モードはショートモードの時もあるので他の回路を巻き添えにして被害を拡大することもありますので油断なりません。

MAIN FILTER

主フィルタ用の電解コンデンサたちです。インバーター用の450V耐圧のコンデンサが安価に入手できます。 105℃品をチョイスしています。

1000V用が450V3直,500V用が450V2直です。 ブリーダー抵抗220kΩを入れています。 ブリーダー抵抗は直列に接続されたコンデンサの電圧バランスと取る役割もあるので省けません。 ブリーダー抵抗をを省くとバランスが悪化して過電圧がかかります。

電源トランスの選定

2本の211に合計120mAの電流が必要です。電圧増幅段は60mAの電流が必要です。 特注はしたくなかったので物色したところ,ノグチトランス(ゼネラルトランス)に丁度良いトランスがありました。

PMC-264Mです。昔のカタログにはないので比較的新しいトランスのようです。 6kgもあるデカいトランスです。

400V-0-400Vのタップがあり,DCで260mA取り出せることになっています。 260mAは両波整流で脈流が交互に流れる場合ですので,ブリッジ整流した場合は半分以下(130mA以下)になります。

トランスの電流容量は全体の発熱で決まること,ヒーター系は殆ど使用しないことから120mA取り出しても問題ないと判断しました。 実際のところ1時間以上使い続けるとまあまあ温かくなりますが熱いというほどではありません。

1次側はありがたいことに95V-100V-105Vのタップがあります。 ウチは普段の電圧が105V程度と高めなのとトランスとしては負荷が軽いので105Vタップにに接続しています。 これで6.3Vのヒーター電圧は6.5V位になります。

E端子(静電シールド)もありますのでシャーシに落としておきます。

ヒータートランスは左右独立

長期間書き忘れてましたが,211用の10Vを供給するヒータートランスは左右別々に用意しましたので電源トランスは合計3個使っています。

AC1次回路

AC1次回路は音質よりも安全性優先です。

配線材はUL1015/600V/105℃対応のBELDEN 8918を使いハンダ付けではなく圧着端子を使うようにしています。 事故防止のため全ての電極にシュリンク・チューブやカバーを取り付けました。 AC1次側はショート事故が起きるとブレーカーが落ちるほどの大電流が流れる可能性がありますので慎重に配線します。

AC WIRING AC WIRING

電源スイッチ

電源スイッチはいわゆる両切り(SPDT)にしています。電源OFFにするとAC電源から完全に切り離されます。 ギターアンプではないのでそこまでするギリはないのですが手持ち部品の都合です。 カーリングのAC用のスイッチは感触が好きなのでまとめ買いしてしまいました。操作部が短いショート・ハンドルです。

電源インジケータはありません。211のフィラメントが灯っていれば電源ONと判ります。。

ヒューズ

真空管アンプの自作記事や指南本を読んでもヒューズの使い方はあまり解説がありません。 厳密に決めようとすると非常に厄介なのですが,基本は電源トランスの大きさに合わせて容量値を決めそれを守ることです。

ヒューズはアンプと自分と大切な財産を守るための最後の砦です。 ヒューズを省いたり,大容量のヒューズを入れたりすると最悪の場合は火災を招きます。 自作アンプは自分で容量を決めなければならないので責任重大です。

ヒューズの基本は「正常時には切れず,異常時には必ず切れる」です。

ヒューズ挿入箇所

ニコオンのACインレットNC-174からまずメインヒューズに入ります。

ヒューズはライブ(L:活線)側に入れます。ニュートラル(N:中性線)側ではありません。 配線色は白(W)がニュートラル,ライブが黒です。

続いて電源スイッチがあります。その後メイン電源トランスとヒータートランスへ分岐します。

ヒューズはトランス1台に1本

ヒューズは電源トランス1台に1本が基本です。

複数台の電源トランスを使った自作記事を見るとヒューズを1本ですませている場合があります。 このようにヒューズ1本では小さい方のトランスは保護されず,炎上する可能性があります。

なぜヒューズ1本では炎上するのでしょうか?危険な使い方を説明します。

FUSE CONNETCION DIAGRAM
正しい配線例・・・・・・
FUSE CONNETCION DIAGRAM
絶対にやってはいけない例

左の図では3本のヒューズがあります。この合計値(4A+2A+2A)である8Aのヒューズ1本で済ませた例です。 このような回路ではひとつのトランスがショートしてもヒューズが切れないためトランスは保護されません。燃えてしまいます。 8Aではなく4Aのヒューズにすれば安全性は高まりますが,100VAのトランスにとってはまだ大きすぎます。

今回のアンプは3台の電源トランスがありますので,本来は3本のヒューズが必要です。 しかし3本ヒューズを置く場所が無いことと,配線が複雑になるので,よくよく計算して2本で済ませました。

FUSE CONNETCION DIAGRAM
妥協案

ヒーター用ヒューズをメインヒューズの後ろ(2次側)に接続しているのは電源スイッチの都合です。 手持ちのSPDTの電源スイッチを使いたかったからです。 DPDTの電源スイッチがあれば配線は大変ですが,メインヒューズの手前(1次側)に接続することができます。

ヒューズ容量

通常動作時の動作電流の2倍〜3倍が目安です。 まずは2倍を使ってみて頻繁に切れるなら3倍に増やせばよいと思います。

通常動作の電流が分からない場合はトランスの容量(VA)の2倍〜3倍を目安にします。 もし3倍以上のヒューズ容量ではないと頻繁に切れてしまうような場合は何かがおかしいです。 トランス選定をやり直した方が良いです。

パワーアンプに速断タイプを使うとラッシュカレントで切れやすいのでタイムラグ(遅延とかスローブローとか)ヒューズを使います。

メイン電源トランス(PMC-264M)は大きさから考えると300VAはありますが,正確な容量は不明です。 そこでメインヒューズは実使用電流から逆算してみます。1000V×120mA+500V×60mA=150Wとなりますので150VAと考えます。 この2倍とすると3Aが目安です。予想の300VAに対して余裕があるのでメインヒューズは4Aとしました。

ヒーター電源用のヒューズですが,ヒーター電源の容量は10V×3.5A=35Wが2台で70VAになります。 DC点火なのでロスがあるので80VAくらいは消費しているかもしれません。 2倍として1.5Aのヒューズを使いたいところですが,中途半端な数値なので手持ちの2Aを使うことにしました。

さて,これで保護になるのでしょうか。 元々ヒーター用トランスは100VAを2台使っています。 本来は1台につき2A〜3Aのヒューズが欲しいところです。 それを2台共通にして1本で済ませているわけですからどちらかがショートしても保護可能ですので特に問題ありません。

あとは普段使いで切れないかどうかですが,4Aはまだ切れません。 生まれたてなのでまだわかりませんが,頻繁にヒューズが切れるようなら5Aのヒューズにします。 ストックしていないので入手しないといけません。 ヒューズはジャンク屋で買うのが一番いいのですが,鈴商がなくなってしまい困っています。

気が向いたのでヒューズ容量を計算してみる

我流の計算方法ですが,ヒューズ容量の計算方法を考え方とともに具体的に示します。 これが正しいというわけではありません。我流なので参考程度にしてください。

まず第一にラッシュカレントのピーク電流を計算します。 電源投入の瞬間を想定するので2次側のタップが全てショート状態(つまりコンデンサの電荷がゼロ)とします。 つまり単純に2次側のトランスタップ巻き線の抵抗値を実測します。同時に1次側の巻き線抵抗値も測っておきます。 この2次側の抵抗値を1次側の抵抗値へ換算します。タップ電圧の比の2乗で1次側の抵抗値へ換算できます。

2次側の抵抗値は全て並列に計算します。最後に1次側の抵抗値は直列と考えて2次側の抵抗値に加算します。 場合によってはさらにAC電源の屋内配線の抵抗値(0.5〜1Ω)も加算してもよいかもしれません。

抵抗値の合計からAC100Vのピーク電圧を141Vとしてオームの法則でピーク電流を計算します。 安全率として1割〜2割増しにしてもよいかもしれません。

計算したピーク電流を10msecの矩形波パルスと仮定してヒューズの溶断特性と突き合わせます。 10msecは50Hzサイン波の半波分になります。 50Hzサイン波の1発目のピークが最も厳しい条件になりますので,見積はこれだけで十分です。 2発目以降のピーク電流はぐっと下がりますので,ヒューズ選定にはほとんど影響しません。

簡便化のため厳しい側へ条件を振って計算しています。 実測しての検証はしたことがありませんが,実測値はもっと少なくなるはずです。 ただしコアの飽和が発生すると励磁突入電流が発生する可能性があります。 コアの飽和を考慮するためには実測が必要ですが,実測する場合は20回は試行しないと本当のピークは見つからないと思います。

◆Vpeak:141V

◆1次側巻き線抵抗,タップ電圧(巻き線抵抗は実測値,室温15℃)

Rp:0.7Ω,TapVp:100V

◆2次側巻き線抵抗,タップ電圧(巻き線抵抗は実測値,室温15℃)

Rs1:74Ω,TapVs1:800V
Rs2:37Ω,TapVs2:400V

◆2次側の抵抗値を1次側へ換算(n = 1,2)

Rsn * (TapVp/TapVsn)^2 =  RpsnΩ
 74 * (100/800)^2      = 1.156Ω
 37 * (100/400)^2      = 2.313Ω

◆2次側の抵抗値を並列化(タップは2つと仮定,ヒーター回路は無視)

 Rps1   //  Rps2   = Rpssum
1.156Ω // 2.313Ω = 0.771Ω

◆1次側の抵抗値と2次側の抵抗値を直列化

Rpssum + Rp  =  Rsum 
0.771  + 0.7 = 1.471Ω

◆電源投入1発目のピーク電流を計算

Vpeak / Rsum    = Ipeak[A]
141V  / 1.471Ω =    96[A]

これにヒータートランスの分も加算されます。14Aくらいでしょうか。

部品ストックからLittelfuseの0239004(4A SLO-BLO)を使っています。 メーカーカタログの溶断特性カーブから10msecを参照すると約200Aなのですぐには溶断しないでしょう。

フィラメント・パワーサプライ(ヒーター電源)

DC点火に決めましたのでDCを作ります。

DC HEATING MODULE

内蔵できなかったのでモジュール化してシャーシ外に立てます。 こんな塩梅にできました。しかし,これが熱いんですね。誰かに教えて欲しかったです。DC点火は熱いですよ〜って。

DC HEATING MODULE

電圧調整のために抵抗を追加しました。内蔵できなかったので外へ追いやりました。 そしてまた,これらが熱いのです。0.2Ωに3.5Aだと2.45W,4本で9.8Wですか,,,火傷するほどの熱さです。 アルミ製のヒートシンクも取り付けましたが,まだ熱い。ファンも取り付けました。 211からの輻射熱を反射するために表面を磨いたリン青銅板を取り付けました。まだ熱いです。

DC HEATING MODULE

セラミックのヒートシンクが手に入ったのでセメント抵抗に直接耐火パテ(セメント)で固定してみました。 これで70℃程度でしょうか。

巷で言うところの「冬用アンプ」ですね。これは。

DC HEATING MODULE, HEAT SHINK

ヒートシンクを交換しました。幅40mm,長さ100mm,高さ20mmのヒートシンクを二つ取り付けました。 スペックの無い格安品なので性能が分からないのですが,2個で5℃/W以下を期待しています。

セメント抵抗の下に断熱効果を期待してベーク板を挟み込んでいます。

DC HEATING MODULE, HEAT SHINK

M3のタップを立てて,ブリッジダイオードを共締めしています。 ブリッジダイオードの発熱を正確に求めるのは難しいのですが,10Wくらいの熱が出ているようです。

DC HEATING MODULE, HEAT SHINK

50mm角の静音仕様のFANを取り付けました。すごく静かです。

白いセラミック・ヒートシンクの温度は91℃(室温20℃)でした。
ファンを付けたアルミ・ヒートシンクの温度は43℃(室温20℃)でした。

1時間ほど運転を続けるともう少し上がりました。(室温21℃)
セラミック・ヒートシンク:104℃
アルミ・ヒートシンク:50℃

ヒーター・トランスの選定

当初シャーシに内蔵するつもりはありませんでしたが入りそうです。入れてしまいました。

1次側が115Vのトロイダルトランスが各種通販で入手できます。2次側は2巻き線あり直列・並列できます。

1次側が115Vならば2次側12Vを選ぶとAC10Vとなり良い具合です。

トロイダル・トランスの特徴

トロイダルトランスの特徴は漏洩磁束が少ないことです。

効率が良いと言われていますがそうでもないと思います。

トロイダルコアトランスは唸り(うなり)が発生するという悪評があります。 原因は励磁バランスが崩れることによってコアが飽和し,過大な励磁電流が流れることです。 ACに直流が発生しているとうなりが出ると言われています。 幸いウチには半波整流のヒーターやトライアック制御の機器が無いのでトランスが唸って困ったことがありません。

コアの飽和を防ぐためにはコアを大きくするか励磁電流を小さくすればよいです。 ありもののトランスのコアを大きくすることはできないので1次側電圧を低く使うこと現実的な対策になります。

115V用トランスを100Vで使うことは良い方向なのですが,1次側を230V結線にして使ってみました。 もちろんフツーに使えます。励磁電流が半分になりますのでコアは飽和しにくくなるはずです。

しかし1次側230V結線の場合,2次側の電流容量には要注意です。 トランスの容量は最終的には巻き線やコアの発熱で決まります。(と勝手に解釈しています) 発熱は巻き線抵抗のRに対して流す電流IからI^2*Rで決まりますので抵抗値が同じなら流せる電流は増えません。 したがって2次側の電圧が半分になる分トランスの容量が半分になってしまいます。

230V:12V4A×2(100VA)のトランスを使いましたがこれが100V:10V4A(40VA)のトランスになってしまいます。

トロイダルトランスの結線・直列

ところがですよ・・・この接続ではトランスがすげー熱くなるうえに,DC10Vのはずが9Vしか出ないんです。

巻き線のDCRが大きいんですね。効率85%とカタログにあるので100VAのトランスは15Wの損失が出るんです。それが2台・・・

ということで,没です。115V:12V8Aの結線にしたところ今度はDC11.5V出てしまいましたので0.2Ωの抵抗で電圧調整しました。 1次側も2次側もDCRが1/4になりますので発熱はぐっと抑えられます。

トロイダルトランスの結線・並列

まとめますと,230V結線のアイディアは良かったが,トランス容量は3倍でも足りない。 さらに倍以上,つまり211のヒーターを点火するには1本あたり200VA以上のトロイダル・トランスがあれば何とかなるか?かもしれません。

とはいえ,115V結線でもうなりは発生していないので現状不満はありません。

トロイダル・トランスの1次側結線

前作のアンプ,電流帰還DCアンプを作った際にトロイダル・トランスの調査を行いました。 1次側巻き線から2次側巻き線への静電容量を調べると,1次側の巻き終わりと2次側の巻き始めの静電容量が大きいです。

1次側の結線は,巻き終わり(GRY+BRN)を中性線(WHT)に,巻き始め(BLU+VIO)を活線(BLK)に接続しました。

この結線では中性線が2次側巻き線に近接するのでAC配線のノイズに対してシールド作用が期待できます。 実際に効果があるかどうかは未調査ですが・・・

2次側はブリッジ整流ですので接続方法による差異はありません。

出力トランスとヒータートランスの相対位置

出力トランス(OPT)とパワートランス(PT)を近接して配置するとハムを引くことがあります。 パワートランスのコアが発する漏洩磁束を出力トランスのコアが拾ってしまい,わずかに結合してしまうのです。 こうなるとスピーカーから50Hzのハムが発生します。これを防ぐためには距離を離すこと,漏洩磁束を減らすこと,磁気シールドを施すことが対策になります。 最も有効なのが距離を離すことです。

シングルコアのカットコア出力トランスとトロイダルコアのパワートランスの相対位置についてはググっても何も反応ありませんでした。当たり前です。自分で調べましょう。

OPTの2次側を高感度なスピーカーに接続します。1次側には何もつなぎません。 抵抗負荷でAC100Vを通電したトロイダルコアトランスを近づけるとブーンとうなり音が出ます。 これがいわゆる電磁誘導によるハムノイズです。 コア同士を接近させると大きなハムが出ます。コアの相対位置にと距離によって音量が変化します。 カットコアの真下にトロイダルコアを持ってくると比較的小さいです。耳を近づけてやっと聞こえるくらいですのでこの位置でOKと判断しました。

重要なのでもう一度。カットコアとトロイダルコアの中心位置を一致させます。真下です。5mmのズレでもハムが増加します。 距離は離れたほうが小さくなりますのでできるだけ離します。

12mmのMDFでスペーサーを作りました。M6のナットを埋め込んであり,ここにトロイダルコタトランスを固定します。

シャーシの厚みと合わせてOPTとは15mm弱の距離が確保できました。

電源回路の使用部品

ACインレットはニコオンのNC-174です。ファストン端子で接続しています。千石電商で購入したファストン端子は相性が悪く緩いです。 GarretteAudioで購入したファストン端子は肉厚できついです。きつすぎるくらいですが,ニコオンのインレットにはジャストフィットです。 ヒューズホルダーはサトーパーツのF-400を使いました。ファストン端子で接続できるタイプです。

AC1次側をファストン端子にしている理由ですが,半田付けよりも信頼性が高いと考えているからです。 また,抜き差しできるので(固いとこもあります)一時的に配線を外しておけるのも利点です。

スパークキラーは岡谷製です。しっかりとモールドされた専用品です。

スイッチはカーリングを使っています。

すべてAC専用の部品なので安心して使えます。

配線材については別途記載しています。

電界コンデンサは105℃品を使っています。ヒーター用の10000uFはかなり暑い場所にいるので心配です。

整流用のダイオードはすべてSBDになってしまいました。本当はSBDはあまり好きではないのです。 SBDは接合容量が大きいという欠点があります。これが気になります。 接合容量が小さくて,リカバリノイズが少なく,低損失なダイオードが欲しいです。

抵抗の発熱

このアンプを使って気づいたことですが,1W以上の熱が出る抵抗は熱い。2Wはもっと熱い。3Wはもっともっと熱い。 当たり前です。

抵抗はディレーティングを3倍とるようにしていますが,それでも熱いです。 5Wのセメント抵抗に1W食わせると触れません。熱電対を当ててみたところ100℃を超えていました。

最近の抵抗は小型化が進んでおり,ひと回り小さくなっています。 しかし,発熱 vs 放熱という関係は単純な物理法則で成り立っていますからそうそう状況は変わりません。 単に温度上昇に強くなっただけなんですね。 ですから定格通りの電力を食わせれば150℃に達してしまいます。

放熱性は表面積に比例するという物理法則は不変であり,都合の良いブレイクスルーはありません。

だから抵抗は熱いのです。熱いんだってば。でも熱いのは迷惑です。 何が危険かというと,配線材の被覆が溶けたり,電解コンデンサが炙られて干上がってしまいます。 なので,高発熱な抵抗の周囲は大きくスペースを空けて配線材と触れないようにするとともに,電解コンデンサは離れた位置に取り付ける必要があります。

5Wのセメント抵抗を多用しましたが,1Wを食わせただけでもかなり熱くなります。 10Wを使っておけばよかったです。

以上から学んだこととして,2W以上の損失が出る抵抗にはメタルクラッド抵抗を使ってシャーシやヒートシンクへの放熱するということです。 大型のホーロー抵抗を使うのもよいですが,場所を食ってしまうことと結局空冷に頼らざるを得ないため表面が熱いという点に注意です。

べき論なので実用上の意味はありませんが,抵抗に5W以上を食わせるのは得策ではなく,回路設計の工夫で発熱を減らすべきです。


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