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5:初めて作る直熱管アンプの測定・調整

211(VT4C)シングル・ステレオ・アンプの自作


周波数特性

ミリボル(交流電子電圧計)は持っていないので,オシロスコープで電圧を測定しました。 最も安価なデジタルオシロでもMEAN(平均値),PP,RMSは測定できます。 測定精度は3桁なので精度は荒いです。しかも3桁目はバラつきが多いので目で平均化してします。

測定条件は8Ωダミーロードの1Vrms出力です。

211SE周波数特性
アンプ全体の周波数特性(1Vrms)

211SE周波数特性
電圧増幅段の周波数特性(1Vrms)

測定結果を示します。アンプ全体の周波数特性と合わせて211のグリッドでも周波数特性をとりました。

211グリッドの周波数測定とはつまり初段からドライバ段まで,電圧増幅段の周波数特性です。 200kHzで3dB落ちと広帯域ですので,アンプ全体の特性はOPTが支配的と考えています。 位相回転まで考えると20Hz〜20kHzの10倍,2Hz〜200kHzは確保しておきたいところです。 0.22uFではちょっと低域が苦しいですね。

アンプ全体としては20kHzで-1.8dBと十分な高域特性が得られています。 先ほど述べた通りOPTの特性が支配的です。

なお,50kHz以上は暴れが見られており最初のピークが-12dBです。 したがって,もしオーバーオールのNFBを施すなら6dB以上のNFBは難易度が上がります。

真空管パワーアンプで50kHz以上の周波数特性を測るのは初めてです。 振幅を見ながらピークとディップの周波数を見つけては周波数と電圧を読み取りましたので,非常に意地悪な測定方法と言えます。 また,OPT1台の測定なので参考にしかなりません。

低域は10Hzで-2.7dBと十分伸ばすことができています。 OPTの1次インダクタンスは40H以上と指定してオーダーしましたが上手くできているようです。

矩形波応答

矩形波応答です。MJの出力トランス比較記事に合わせて100Hz,1kHz,10kHzとしています。

出力を2.8Vp-pに合わせて測定しました。(上が入力,下が出力) 正弦波出力1W(2.8Vrms@8Ω)としたかったのですが,8Vp-pに設定すべきでした。

1W 100Hz
100Hz矩形波,2.8Vp-p(8Ω)
1W 1kHz
1kHz矩形波,2.8Vp-p(8Ω)
1W 10kHz
10kHz矩形波,2.8Vp-p(8Ω)

左端,100Hzの応答は立派です。ローエンドの応答が良好であることが分かります。 コアが小さいと飽和してきて上下の対称性が崩れてくるはずですが,上下対象のきれいな波形が得られています。

低域は出力トランスの大きさで勝負が決まります。 出力は10Wですが30Wに対応するコアを使いかつ十分なインダクタンスが確保できていることが分かります。

中央の1kHzは全く問題ありません。

右端,10kHzの応答は1次インピーダンスが10kΩなので浮遊容量が大きくなり,3.5kΩのトランスより不利になるはずです。 しかし,期待以上にきれいです。明確なオーバーシュートが無いことが良い点です。 リンギングも小さく非常に素直な応答を示しており,安心して使えます。

入出力特性

矩形波応答から読み取れるゲインは約4.5倍です。 2Vrmsの入力に対して9Vrmsの出力となり,8Ω負荷で丁度10Wになりますのでその点は想定通りです。

片チャンのゲインが小さいエミ減か・・・

左右のチャンネルで2dBほどゲインが異なることがあります。カソード電圧(電流)も2割ほど減ってしました。ノイズも歪みも多いです。 211を入れ替えるとこの特性がついて回ることから球そのものに問題があるようです。

カソードの劣化によるエミッションの減少,いわゆるエミ減というやつでしょう。

きっかけは測定中にカソードをグランドへショートさせてしまったのが原因と思いますが,元々弱っていたのかもしれません。 印刷された文字から製造時期を調べてみると「How to Determine the Age or Manufacture Date of a GE Appliance」というWEBが見つかります。 これを信じると手元の211は1946年9月製となります。

GEのVT4Cのデータシートにはグリッドとプレートには電圧を印加せずフィラメントだけ点火させると復活すると書いてあります。 電圧を2割増しにすると効果が加速するそうです。

まず120%で30分間の再エージングを実施してみました。 カソード電圧は復活しましたが,1時間ほどでノイズと歪みが増えた状態に戻ってしまいました。 さらに120%で1時間の再エージングを行いましたが,やはりパッとしません。

もう少しググってみると・・・

カソード活性化兼グリッド焼:ヒータ電圧を規定の150%〜170%に上げて,30秒程加熱
ヒータ電圧を上げると,陰極温度は900゜Kから1200゜K位に上がります。 これにより,陰極酸化物の組成がエミッションの出やすい構造になるそうです。 また,グリッドに付着した物質を再蒸発させる効果もあります。 しかし,エミ源球により陰極の状態はマチマチですし,また私たちが化学反応を制御するパラメータはヒータ電圧と印加時間のみですので,その結果は行き当たりバッタリといったところでしょう。 やりすぎると,陰極物質の蒸発が加速して,エミ源の加速やグリッドへの再蒸着が起ります。
https://radiomann.sakura.ne.jp/HomePageTV7U/TV7UAx.html
陰極の活性化
今は少いがトリエーテット・タングステンを使用しているものにあっては,次の如くフラッシシグを使用電圧の倍の電圧で約1分間, エージングを使用電圧より20%位高い電圧で約20分間位行うと,トリエーテット・タングステン中のトリウムが表面に出てきて再び電子放射が活発になる。
http://fomalhautpsa.sakura.ne.jp/Radio/MJ/1946-8/tube-test.pdf
ヒータだけの点灯は危険
これはどなたでもご存じのことでしょうが、ヒータ(フィラメント)点灯だけで長時間放置するようなことを称して「エージング」とすることだけは絶対に避けるべきです。 カソード(フィラメント)から放出された電子の行き場がなく、ヒータ外周に付着して、酸化層が変化してしまうようです。真空管にとって良いことは何もありません。
http://www.grandpas-shack.com/workshop/Aging/index.htm

以上のような情報が得られたので,以下の設定で再エージングを実施しました。
・グリッド:-18.5V,プレート50V
・145%で30秒(電源の都合で14.5Vまでしか印加できなかった)
・100%で1時間
200%は怖いし,そんなに強力な電源がありません。
30秒でもドキドキするので1分も実施したらエミッションよりも冷や汗が出て・・・球の寿命より自分の寿命が縮みそうです。
以上妄想でした。

2020/05/26:追記
極性逆じゃない?電子は負電荷,金属イオンは正電荷ならば・・・
金属イオンをプレートに引き寄せるならプレートはマイナスにしておかないと・・・

以上,無責任な自己責任です・・・

歪み率測定

再エージングの直後に測定しましたので,Lチャンネルも調子が良いです。 使用して行くうちにまたエミ減してしまうかもしれません・・・直熱管ってそんなもんなんですね・・・初めてなので・・・

WAVE SPECTRAで測定しました。Focsrite のScarlett2i2 Gen2を使っています。 アンプの特性を測るにあたりアレコレ改造していますが,それは別の話ということで,別のところで。。

192kHzサンプリングの設定に一苦労しました。 ノートPCとの組み合わせのせいかもしれませんが,ASIOでは音切れが発生しているようでノイズレベルが安定しませんでした。 WASAPIは使えず,DirectSoundは96kHzは問題ないですが,192kHzはダメ。MMEでEXETENSIBLEのチェックボックスを入れたら安定しました。

THD Left channel THD Right channel

正しく測定できているかは全く自信ありません。 特に10kHzは高次高調波の測定が難しいことか小さめの値が表示されると思います。 各周波数できれいな右肩上がりとなっています。 10Wを超えるとクリップしているようです。穏やかなクリップなので最大出力は明確ではありません。

THD Left channel 1kHz
THD Righe channel 1kHz

測定時のスペクトルの例です。周波数は1kHzです。2次歪み,3次歪みが主体となっています。 40kHz以上のノイズの盛り上がりはオーディオインターフェースが持つ特性です。192kHzではよくある現象です。

クロストーク

片チャンネルに信号を入れた反対側のチャンネルの出力を測定します。 レベル設定が難しく,測定に時間がかかるので,画面からざっと読み取った代表的な特性を乗せておきます。

チャンネル間クロストーク(Channel Cross Talk)

真空管ステレオアンプで80dBは立派な値と思います。

最低域は18dB/octの傾きに見えます。リップル・フィルタは2次で12dB/octのはずなのでもうひとつ時定数が効いているようです。 高域は特に制限要素は設けていないのですが,6dB/octということはどこかに1カ所ボトルネックがあるようです。 50kHz以上では急激に悪化してきます。

いずれにせよ,妙ちくりんな暴れが見られないためリップル・フィルタはうまく働いているようです。 リップル・フィルタを左右個別回路にすればさらに良い性能が得られるはずです。

残留ノイズ

NOISE FLOOR

50Hzと100Hzを主体としたハムが残っています。

縦軸を換算すると,0dBFS(ほぼクリップ電圧)は-15dBですので,ハムを除くホワイトノイズのノイズフロアは120dB以下と非常に低いです。

ハムバランサでの追い込みは必要ですが,能率100dBの15インチ・ウーハーに耳を付けてハムがやっと聞こえる程度です。 画面上の-100dBはサイン波で0.6mVに相当しますので,残留ノイズは0.5mVは切っているのではないかと思います。(測定器が無いので測定できません)

50Hzのハムはヒータートランスと出力トランスの磁気結合と思います。

100Hzのハムはハムバランサを回すと強度が変化するのでDC点火回路から発生しているのではと考えています。 +B電源のハムはリップル・フィルタがmV以下のオーダーに抑え込んでくれているはずです。

発熱が多いという問題はありますが,リップル・フィルタもDC点火も非常にうまくハムを押さえてくれました。

ダンピングファクタ

真空管アンプのダンピングファクタ測定はON/OFF法が多用されます。

OFF時の測定は負荷オープンとなりますが,この時の動作は考慮されているのでしょうか? 例えば五極管を使ったギターアンプは負荷オープンでの演奏は故障につながると言われ禁止されています。

そういった意味では電流注入法の方が信頼できます。

MOSFET電流帰還DCアンプではステレオアンプの左右のチャンネルをダミーロードで接続してお互いに電流注入することでうまく測れました。 しかし,真空管アンプは出力インピーダンスが高いのでこの使い方は問題がありそうです。

以上より,8Ω負荷と4Ω負荷,それぞれの出力電圧の差からダンピングファクタを算出してみようと思います。

ZH : 8ohm
ZL : 4ohm
VH : Output Voltage @ ZH(8ohm)
VL : OutPut Voltage @ ZL(4ohm)
Zo : OutPut Impedance [ohm]
Zo=(VH - VL)/(VL/ZL - VH/ZH)
Dumping Factor Zo Calculation
100Hz2.82V@8Ω2.09V@4Ω
1kHz2.82V@8Ω2.09V@4Ω
10kHz2.66V@8Ω1.93V@4Ω

以上から1kHzではZo=4.294Ωでした。8Ωに対するダンピングファクタは1.86となります。事前のシミュレーション通りの値です。

雑誌記事を見ていると211を10kΩ負荷で使うとダンピングファクタ2以上が得られるっぽいのですが・・・ ON/OFF法だともう少し高くなるのかもしれませんが検証していません。

瞬間最大出力

連続出力での明確なクリッピング・ポイントは28Vp-pですが,サイン波1発ならば32.5Vp-p出力しました。

連続サイン波28Vp-p12.3W@8Ω
バーストサイン波32.5Vp-p16.5W@8Ω

クリッピングは下側からクリップしていますので,負側のカットオフ動作で制限されています。 正側のグリッド電流増加には余裕があるようです。ということはもっとアイドリング電流を流せば出力は増えるはずです。 そもそもカソード抵抗を1kΩとして少し控えめの動作にしているので,仕方ない面もあります。


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