!全面工事中!

6:初めて作る直熱管アンプの感想・戯言

211(VT4C)シングル・ステレオ・アンプの自作


雑感

このサイズのシャーシに収めるのに苦労。 シャーシ加工は収まりを確認しながらの作業なので時間がかかった。 手間は電源が90%くらい。増幅回路はほぼ手間なし。

ただし,ECC99の寄生発振に数日悩まされた。

そして,熱い。あちこち熱い。とにかく熱い。

完成すると空しい。何故か虚しい。そしてまた作りたくなる。

ギターアンプとは違って作るのは非常に簡単。 ギターアンプでは完成後に延々と音色の追い込みを続けるがそれも不要。 出音を聞いてフーン。そうか〜そうだよね。雑誌に書いてあることが実感できた。でもそれで終了。

簡単な回路で特性は雑誌に掲載されているレベルにできる。 というか,誰が作っても同じ性能が出せるのが真空管アンプ。 あっという間にできて,音が出てそれでおしまい。空しい。また作りたい・・・

家族の感想

長男:「真空管アンプは特別な気がする。(10才)」
父:「いま鳴らしているアンプ(半導体)はあっさりした音だよね?」
長男:「そうだね,ラーメンで例えると真空管はこってり,こっち(半導体)はあっさりだね!」

妻:「音良くなったんじゃい?わたしってすごくない?(年齢非公開)」
夫:「大きな音でも嫌な音がしないよね」

対する自己満足の声

「ダンピングファクタの違いでしょう」

50Hz〜100Hzの低音はよく出る。(ダンピングファクタが低いので)
ウーハーは喜んでいるかもしれない。表現しづらいが部屋+スピーカーで決まる低域特性を無理なくまとめてくれている気がする。
ダンピングファクタが高いと制動が良くてすっきりするが,定在波によるブーミングや箱鳴りなどのピーク・ディップもそのまま聞こえる(気がする)。
ダンピングファクタが低いと,このようなアラ(ピーク・ディップ)をうまい具合に丸めて目立たなくする効果があるのかもしれない。
どっしりとした低音に支えられて音楽が楽しく聞ける(気がする)。

高音の伸びも申し分ない。多分。

ボーカルのサシスセソが気になる。これは前から気になっているスピーカー側の問題。ネットワークに抵抗かコンデンサを入れよう。

ピアノやクラシックにはよい。ロック・ポップスもよいけど,聞き直したくなるのは何故かクラシック。

2台目作る?

熱いのはいや。重いのもいや。じゃあ真空管は無理かな。
ヒーターをDC点火するのも熱くなる要因。とはいえスイッチング電源は使いたくない。

あと直熱管はバラつきが大きい。個性が強い。
それが面白さとはいえ泥沼感がはんぱない。

出力トランスがでかい。小さくするにはプッシュプルにするしかない。
でもシンプルにしたいというジレンマ。

電源のロスが大きい。ドロッパーから熱が出る。

チョーク・コイルをせっかくなくしたのにリップル・フィルタはFETがすぐに飛ぶ・・・
シャント・レギュレータを進歩できないか・・・

ギターアンプ用の多極管を沢山持っているのでそれを3結PP,位相反転をどうするか,バランス受けにしてしまう?
結局時代の流れに沿っている・・・だからこそ古典回路への回帰なのか・・・

部品交換による音質向上メモ:2020/09/04

カソード・バイパス・コンデンサをタンタル・コンデンサに交換しました。 良い方向に変化して満足です。

頼みの綱のタンタル・コンデンサですが,何がすごいって,漏れ電流が少ないんです。非常に。 定格電圧まで電荷チャージしておくと2〜3日放置しても電荷が抜けません。 漏れ電流が少なく自己放電が非常に少ないんです。1uA以下なので計測不能です。 だから音が良いのかどうかは分かりませんが,漏れ電流はノイズと言えます。 DCに見えますがおそらく不安定な交流成分(1/fノイズ)と思われます。 漏れ電流が小さくノイズが小さいからと言って音が良いのかどうかは分かりませんけどね。

カソード・バイパスがなぜ影響が大きいのか考えてみましょう。 カソード抵抗はパワー管でもプリ管でも数百Ωから1kΩとか2.2kΩとかです。 これに対してESRを仮に1Ω以下と考えると大体ざっくり1/1000になります。 SNRとして60dBとなり,ESR成分の音としては-60dBの音を聞いていることになります。 人間の聴覚的な検知限界はもう少し低いです。SNRの例ではCDは96dB,ハイレゾは120dB以上です。 120dBはさすがに検知減以下ですが,60dBはLPレコードにも劣ります。 つまり,カソード・バイパス・コンデンサーの特性差は聞こえて当然と言えます。

低インピーダンス品はESRがmΩ単位ですが,普通の電解コンデンサー,特に古いモノは1Ω程度ありますから,差が聞こえてきて当然です。

冬用のアンプなので最近はあまり使ってませんでした。 せっかくよい部品を入手したので試してみました。

いままで出力段のカソード・バイパスには100uF/100Vの電界コンを入れています。 105℃対応で低漏れ電流をうたっている日本製の部品です。これはこれで期待していたのですが,ギターアンプに使ってみたところ,他のコンデンサと比べるとまだましなのですが,パリッと抜けきらずにガサガサした感じがまとわりつきます。

オーディオアンプの難しいところはギターアンプと違って演奏できないところです。じっと耳を傾ける以外にありません。 感覚とか感触とかはないんです。目を閉じて耳を澄ませるだけ。

ギターアンプとオーディオアンプでは定石がまったく逆なのが通例ですが,今回のここに限っては方向性が共通しています。

さて,タンタル・コンデンサに交換後一聴して予感が的中したことが分かりました。 ハイハットの空き具合,ブラシの先端,ボーカルの唇の動きや喉の開き方,リバーブ成分などの余韻,スペースの広さ,奥行き,そういった要素が全てクリアに見えてきます。

ギターのピッキング,フィンガリング,管楽器の息遣いもよく見えるようになりました。 実際は聞いてるんですけどね,目に浮かぶようです。

オーディオ用コンデンサ:2020/09/04

まだあった。オーディオ用部品と汎用部品のことを考えていた。

音響用・オーディオ用の電解コンデンサーというものは確かに存在します。 ニチコンや日ケミはもちろんケミコンメーカー各社が専用の電解コンデンサーをラインナップに用意しています。 ところが音響用の抵抗器は少ないですよね。精密用抵抗からの転用は多いのですが。つまり抵抗は違いがわかりにくい。

真空管やトランスはそもそも,ラジオやテレビの音声用なので音響用と言ってもよいかもしれないですね。

トランジスタやFETにも音響用というくくりはあります。しかし,半導体アンプは実現したい性能ために必要な回路があり,その回路にために必要な性能を持つトランジスタ,FETを選定します。 こう解釈すると「音響用トランジスタ」は実は「音響回路用トランジスタ」という意味になります。

オペアンプでは結合コンデンサーを省くために入力電流を最小限にしたかったり。 とにかくノイズと歪み率が低ければよかったり。とか。カタログデータで勝負している気がします。 無酸素銅を使ったオペアンプもありますけどね。

まあ,とにかく「オーディオ用・音響用」として確固たる地位があり,明確なラインナップを取り揃えている部品は電解コンデンサーくらいです。 秋葉原でも沢山のオーディオ用コンデンサーが売られています。

つまり,電解コンデンサの音質差は誰でも判別可能ということです。電解コンデンサを使う時は注意しましょう。戯れ代満載です。

常識ですが特にカソード・バイパス用の電解コンデンサーは要注意です。部品交換のツボのひとつです。

常識と言えばお仕事系のアンプ屋さんのつぶやきでこんなのがありました。サマルと。

「ネット上の情報は断片的であり,憶測を伴うのが当たり前」
「ノウハウはネットにアップしない,企業秘密というよりまとめる時間ないから」

まさにその通りです。自分が見つけた部品,感じたこと,得た確証,これを整理して完全な形にまとめてWEBに掲載するのは膨大な時間がかかります。しかも内容は誰にとっても正解というわけではなく,症例のひとつだったりします。

さらにこういったことを考え始めると二つの要素が絡んできます。
1:WEBと時代の流れ(html → Blog → SNS)
2:欧米人と日本人の違い(市場規模と記録を残す習慣の違い)

ひとつめの時代の流れというのは,WEBの使われ方です。 2000年を区切りにそれまでは雑誌が唯一のメディアであったアマチュア文化にWEBが浸透してきます。 WEB上にはアマチュアの自己研究結果をまとめたhtmlが百花繚乱のごとく花開きBBSで活発な議論が交わされました。 やがてBlogに流れますが,手軽さが増した分,コンテンツの質は低下します。 そして2019年にヤフーのジオシティーが閉鎖されたことからわかるように個人がhtmlコンテンツを作成する時代は終わりました。 現在はSNSの時代です。個人が発信する情報は希薄化してしまい,限られたコミュニティ内で流通するローカルな情報へと逆戻りしました。 WEB上のメディアはまとめ系サイトか営業系サイトに集約されてしまいました。 WEB上の表面を流れている情報が断片的で深みが無く,売り手視点なのはこうしたわけです。

ふたつめについて,日本は市場が小さいです。アメリカはでかいです。 アメリカにはアンプ・メーカーが沢山あります。ギターアンプはもちろんですが,オーディオアンプのガレージメーカーも沢山あります。 技術情報を丁寧にまとめたサイトが沢山あります。ビンテージアンプの情報もしっかりと集約されています。

そして日本語圏は記録を残すのが苦手なんですね。 現世で自分の人生が豊かならばよいと。来世とか後世とかは知らんという。記録を残すことが重要という認識が薄いのかもしれません。

なんでも記録を残したがるのは欧米系の文化と思っています。1600年関ケ原ですね。その年にイギリスの東インド会社が設立されたそうです。 その時代の記録がどの程度残っているのか考えればわかると思います(わたしはよく知らないのでイメージで語りますが)。 活版印刷の発明ではアルファベットは種類が少ないというアドバンテージもありますが,文書による契約であるとか,非常に長く深い歴史があるわけです。

アジアは高温多湿で紙ベースの古文書が残りづらかったという風土的な環境も影響しているかもしれません。漢字は種類が多く複雑なので活版印刷にも向かないでしょう。 漢字からひらがなカタカナという文字を創り出した日本では毛筆が一般的。日本語が表音文字であることから考えてもやはり,口語中心の文化伝承が主流だったと考えるべきです。 wiki文化にしても日本にはなかなか定着しません。

身近な例としては,欧米の半導体メーカーは多くのテクニカルノートを発行してノウハウを提供してくれますが,日本の半導体メーカーはそういった資料はほとんど出しません。 最近になって徐々に改善されてきましたかね・・・

日本では技術は工芸であり属人的に働くものと思われています。 日本の職人気質は「学ぶより盗め」といった言葉に集約されます。 丁寧に教えてくれることを期待してはいけません。だから製品の品質を作り込む技術も継承されないのです。

日本酒でいうと「獺祭」の例が有名ですよね。杜氏がいなくても日本酒が作れるとか。 安定した品質を実現する技術を継承するためには誰が見ても理解できる形で記録を残すことです。 技術は可視化して継承していかなければ失われます。品質は再現できません。戦国時代の日本刀が現在の技術では作れないという事実が端的に現実を示しています。

海外ではストラディバリウスのトーンを復刻するプロジェクトというのもあります。そういうことです。

最近では中国の真空管オーディオ市場も肥大化してきていて目が離せませんね。 最大の真空管アンプ市場は欧米でも日本でもなく中国になってると思うんですけどね。多分。知らないけど。そのうちに。

さて,真空管アンプとそのトーンは放っておけば失われる技術です。 誰からも必要とされないのであれば仕方のないことではあります。 とはいえ,ビンテージアンプのコピーしかできないのでは悲しいです。 まあ,回路をコピーしてもトーンは再現されませんけど。

謎を解き明かして可視化すること。共有すること。 その情報をどう応用するかは人それぞれです。結果として市場全体が活性化して底上げされていけばいいです。 そうすると新たに良い部品がでてきたり,良い音が気軽に楽しめるようになるわけです。これはうれしい。

だから,たどりつくまでに迷って無駄に寄り道したこととか,見過ごされている大切なことは共有しておきたいと思うのです。

あ,オーディオアンプの話題じゃなくなっちゃいました。ギターアンプとごっちゃになってますね。


211シングルステレオアンプの自作:目次へ
Contact Info
Copyright(C) Since 1999 Y.Hosoya. All rights reserved.
inserted by FC2 system