オーディオアンプの自作


1:MOSFET DC AMP の計画

売り文句:「高能率スピーカーを鳴らすための小型・低出力・高品位パワー・アンプ」

感性を刺激する表現は物欲を刺激します。 しかしそれは購入動機ではなく自作するための動機付けなのです。

1-2最大出力

家庭でオーディオを楽しむ時の平均聴取レベルは80dB程度が普通でしょうか。 90dBでは普通の会話が困難な程度ですので,100dBはかなりの大音量,ロックコンサートは110dB以上と言われています。

100dB/Wのスピーカーシステムを使うと1W入力で100dB得られてしまいます。 10Wも入力しますと110dB/mとなりかなりの音量となります。

アンプの出力電力を10W(連続SIN波,8ohm)としましたので,V^2*R = Pより,出力電圧は√10*8 = 8.94VRMSとなります。 ピーク電圧は√2倍しますので = 12.65V0-Pとなります。この数字を基本に考えていきます。


SIN波のピークとRMS

見過ごされがちなのですが,アンプが出しうる最大出力電力は音楽信号,正弦波,矩形波などといった信号の波形によって変化します。

サイン波の電力は電圧の実効値で計算します。正弦波のピーク電圧は実効値の√2倍となります。 波形が矩形波の場合,ピーク電圧が同じならばサイン波の2倍の出力電力を取り出すことができます。 つまり,このアンプはサイン波なら10Wですが,矩形波か直流においては20Wの電力を出力できることになります。


ホワイト・ノイズのピークとRMS

一方,音楽信号はサイン波や矩形波とは違い,ノイズに近い波形になっています。 ホワイトノイズでは実効値の3倍がピーク電圧となります。3倍の仮定ではピーク電圧が存在する確率は0.27%となります。 帯域幅との関係もありますが,長い時間観測すれば3倍以上のピークを見つけることができるはずです。

ピーク電圧をクリップさせずに再生できることを考えると,平均電圧はずいぶんと低くなってしまいます。 特にクラシックではピークと平均の音量差が大きく電圧値で20dB(100倍)以上あるとされています。 ポップスやロックでは音圧を高めるために音量差が小さくなるように編集されていて,差が6dB(2倍)しかないこともあるようです。

ピークと平均の差がどの程度なのかは常に議論に登る話題ですし,録音技師,マスタリング技師の腕の見せ所でもあります。

アナログ録音では電圧を突っ込んで歪んでしまっても音的に破綻しにくいだけでなく,むしろ良い具合のサチュレーションとなることもあり,レベル取りはおおらかでした。

一方,デジタル録音ではデジタルデータの最大値をフルスケールと言い,フルスケールが最大ピーク電圧となります。 フルスケール以上の信号を入力すると信号がバッサリと切り取られるため急激な歪を発し,耳障りな音となってしまいます。 デジタルではフルスケール越えは基本的に御法度となりますので,リミッタやマキシマイザなどのソフトウエアで適切にクリップ処理されるのが普通です。 特に録音時にクリップが発生すると後から修正できないので,注意を要します。

以上の理由からデジタル録音ではピークに対してRMS(電圧実効値:平均値とほぼ同義)を-12dB〜-16dBに設定することが基本となります。

オーディオ用のアンプで再生するのは出来合いのパッケージ・ソースなので,大き目の値として仮にRMSを-12dBFSと考えます。 つまり平均電圧はピーク電圧の1/4と仮定することになります。

最大音量で聞く場合の平均電圧は最大出力目標値10Wの出力電圧に対して1/4となるので,12.65/4 = 3.16VRMSとなり,電力は1.25Wとなります。 結果的に平均出力電力はサイン波での最大出力の1/8となります。

ピーク出力電圧を定義したので,出力電流について考えます。 負荷が小さい場合を考慮すると,12.65Vを4Ωに印加した場合3.16Aとなります。 小型の筐体では連続出力は無理で,アンプが熱くならないように時間制限が必要になります。

最後に電流リミッタが制限する最大電流値を考えます。

出力電圧が最大でスピーカーの逆起電力も同じだけ発生した状況を考えます。実際はあり得ませんが,最悪の条件として想定します。 ボイスコイルの抵抗値を4Ωと仮定しますと,電圧が12.65Vの2倍で抵抗値が4Ωなので12.65*2/4 = 6.325Aとなります。 この電流が持続してもよい時間は温度上昇によります。上記の条件(実質2Ω負荷)で片チャンだけならばかなり長時間耐えられます。

結果的に最大出力の目標は以下になります。

項目数値条件
最大出力電力10Wサイン波連続,8Ω
最大出力電圧12.65V0-P8Ω
最大出力電流3.16A0-P4Ω(短時間)
出力電流リミット6.3A以上0Ω(短時間)
平均出力電力1.25W-12dBFS,8Ω
平均出力電圧3.16VRMS8Ω
平均出力電流0.395ARMS8Ω

1-3:ノイズ

アンプのノイズ源は以下が考えられます。
・アンプのノイズ(半導体のノイズ,初段が支配的)
・入力段付近の抵抗が発する熱雑音
・電源から回り込んでくるノイズ(ハム)
・チャンネル間のクロストーク
・周辺機器とのアース電位差によるノイズ
・高周波が入力された際に整流作用によって生じるノイズ

1-3-1:設計目標

目標である「SNR = 120dB」を達成できるノイズ電圧を定義します。

平均出力電圧は先ほど3.16VRMSと定義しましたのでこれに対して-120dBのノイズは1/10^6となり,3.16uVRMSとなります。

このノイズ電圧が実現できたとして,仮にアンプ出力が10Wではなく100W(8ohm)だと仮定して換算するとSNR = 139dB という驚異的な数字になります。

SNRのカタログスペックはハイエンドのトランジスタアンプで110dB程度,真空管アンプでは80dB程度しかないモノもあります。 市販のアンプは案外ノイズが多いことがわかります。

続いて「スピーカーに耳をつけてもノイズが聞こえない」というレベルのノイズを定義します。 音圧は距離に反比例しますので距離ゼロは音圧無限大となり視聴距離との関係からは計算できません。

ここではヘッドフォンアンプとしてのノイズレベルを考えることで 「耳をつけてもノイズが聞こえない」というノイズレベルを定義することにしました。

ヘッドフォンの感度を一般的な100dB/mW(32Ω)とし,人間の知覚限界の音圧をSPLで0dBと仮定します。

1mW = 179mVRMS(32Ω)で100dBなので,0dBでの電圧は1.79uVRMSとなり,これ以下の音圧は聞こえないことになります。 つまり,おおむね2uV以下が目安と覚えておけばよいです。これは先ほどの3.16uVよりは小さい数字になります。

注意:ノイズの聞こえやすさは周波数によって異なります。また,ノイズ電圧は測定器のフィルターの種類で変化します。

ヘッドフォンアンプは案外厳しい条件を課せられていることが分かりました。 本機はあくまでも10Wのパワーアンプなので,今後は3.16uVRMSを目安に計算を進めます。

続いて目標となるノイズ密度(1Hzあたりのノイズ量)を計算します。 アンプのゲインを10倍,帯域幅はIHF-A Weighting Filterをかける前提で13.46kHzと仮定します。 1Hzあたりの入力換算ノイズは3.16uV/10/√13.46kHz = 2.72nV√Hzとなり,このノイズ密度が目標になります。

1-3-2:アンプ・ノイズ

まず増幅器が発するノイズについて考えます。 これは初段の素子が発するノイズが支配的になります。

先ほど計算した2.72nV√Hzは低ノイズのオペアンプやディスクリート・トランジスタを使うと達成できるレベルです。 汎用のオペアンプは10nV√Hz以上であることが多いため要求を満たしません。

参考までに各方面で高評価を得ているパワーアンプICであるLM3886のデータシートを見てみます。

SNR:92.5dBtyp(1W・4ohm),入力ノイズ:2.0uVtyp(ゲイン21倍),どちらもIHF-A Weighting Filterです。

出力ノイズは42uVと計算されます。入力換算ノイズは帯域幅を13.46kHzのホワイトノイズと仮定しますと17.2nV√Hzになります。 これは驚くに値しない数字です。実際,スピーカーからシャーというノイズが聞こえます。

オーディオアンプではIHF-A Weighting Filterを標準的に使用していますが,測定器を持っていないので指標とできません。 仮にアンプの帯域を1MHz(10^6)としますと,ノイズ電圧はノイズ密度の1000倍になるので,ノイズ密度が3nV/√Hzであればノイズ電圧は1000倍の3uVRMSとなります。 ゲイン10倍と仮定しているので出力でのノイズ電圧は30uVRMSとなります。つまり,目標は30uVRMS(DC-1MHz)となります。

通常は入力段のノイズが支配的となり,そのままゲイン倍されて出力されます。したがってアンプのゲインを下げるとSN的には有利になります。 今は10倍(20dB)で計算していますが,実際は4倍(12dB)に設定しましたのでその差(8dB)だけSNが改善します。

別の見方をしますとIHF-A Weighting Filter(13.46kHz)で目標ノイズ電圧3uVとし,ざっくり帯域が100倍として仮定するなら30uVRMSが目標になります。 いずれにせよ,フィルタなしで20uVRMS〜30uVRMS悪くても50uVRMS以下としたいです。

最初の例で100Wのアンプに換算すると139dBという数字が算出できることを示しましたが,アンプのSNRにはタネとシカケがあります。 ノイズ量が同じならば出力が大きければ大きいほどSNRをよく見せかけることができます。 ですから,パワーアンプのSNRに何Wを出力(入力)した時のSNRか記載する必要があります。 もちろんフィルターの帯域幅も同時に示す必要があります。 本来であればノイズの多さはノイズ量で規定するべきと思います。

昨今ハイレゾ化の流れでアンプのノイズは注目されていますが,このタネとシカケは要注意です。

結果的にS/Nおよび出力ノイズの目標は以下になります。

項目数値条件
SNR120dB以上出力電圧3.16V
出力ノイズ3uVRMS以下Aフィルタ
出力ノイズ30uVRMS以下フィルタなし(DC〜1MHz)
入力換算ノイズ密度2.72nV√Hz以下ゲイン10倍

1-3-2:入力段付近の抵抗が発する熱雑音

抵抗が発する熱雑音は1kohm(室温)で約4nV√Hzなのはよく知られた事実です。 入力段のノイズを考える場合,入力段付近に接続されているもっとも低抵抗の抵抗器のノイズを考えます。 通常のオーディオアンプではボリュームやアッテネータがそれに該当します。

10kohmのボリュームを使うと最大で2.5kohmの信号源インピーダンスを発生し,6.3nV√Hzのノイズを発します。 ただし,プリアンプの出力インピーダンスはゼロとしています。 この数字は先ほどの2.72nVを超えています。つまりボリュームの抵抗値が高いと抵抗器の熱雑音が初段のノイズを超えてしまう事を意味します。

わたしは600ohmの定インピーダンスATTを使っているので熱雑音はちょうど3nV√Hzとなります。 ノイズの加算は2乗和なので,3nV+3nVのノイズは1.4倍で4.2nVとなります。 つまりアンプだけで120dBを満たしてもシステムとしては未達となります。 あまり気にしませんが・・・ハイエンドを自称するためには必須と思います。

パワーアンプのゲインを10倍で計算しています。ゲインが低ければその分だけ楽になります。

項目数値条件
入力インピーダンス600Ω以下出力電圧3.16VRMS/ゲイン10倍

1-3-3:電源から回り込んでくるノイズ

電源から回り込んでくるノイズの代表は整流回路のリップルでしょう。 「ブーン」や「ジー」といった音になります。この手のノイズは真空管アンプではよく聞かれます。

半導体アンプにおける電源リップル耐性は100HzのPSRR(Power Supply Reduction Ratio)を評価すればよいです。 例えば1Vの電源リップルに対して,出力端子に1mVのリップルが出ていればPSRRは60dBとなります。

出力ノイズを3.16uVRMS以下にするためには,PSRRが100dBあれば10の5乗倍で316mVのリップルまで許容できることになります。 PSRRが60dBしかないのであれば,電源ノイズを10の3乗倍で3mV以下にしなければなりません。

実際は出力段の素子単体で60dB程度のPSRRを期待でき,負帰還でさらに抑圧されるので問題にならない場合が多いです。 しかし,コレクタ(ドレイン)出力のアンプでは満足しない場合もあるようです。

PSRRはスパイス・シミュレーションで確認することができます。

一方,リップル電圧の大きさは消費電流とフィルターコンデンサーの容量,電源周波数で決まります。 例えば,1A消費する回路に10,000uFのフィルターコンデンサを入れた例で計算してみます。

電源周波数は50Hzとしますと10msecごとにチャージが行われます。 チャージされない期間はフィルターコンデンサーが放電しており,徐々に電圧が下がって行きます。 したがってまず10msecの間に放電される電荷を考えますと・・・
Q=I・tより,10msec*1A=10mCの電荷を放出します。
Q=C・Vより,V=C/Qなので電圧降下は10mC/10mF = 1Vp-pとなりこれがリップル電圧となります。 なお,波形が三角波なので実効値はP-Pの1/4となり,250mVRMSとなります。

項目数値条件
PSRR100dB以上出力電圧3.16V
リップル電圧316mVRMS以下出力電圧3.16V

1-3-4:クロストーク

ステレオアンプのクロストークは主にグランドの共通インピーダンスから発生します。 DCで単純に考えると,誤差を3uV以下に抑えたいのであれば,出力段に1A流れるとして共通インピーダンスを3uΩ以下にすればよいことが分かります。 しかし,3uΩという抵抗値は実質的にゼロΩと考えたほうがよいでしょう。

つまり,共通インピーダンスはゼロになるように配線しなければなりません。

参考:銅の体積抵抗率は1.68E-8Ω/mなので,1sq・1mの銅線の抵抗値は10^6倍になるので16.8mΩになります。 アンプ内の現実的な配線を考えるて,太目の線を使って2sqとし長さを5cmとしますと2mΩとなります。

入力部では流れる電流は小さいので問題は少ないですが,仮に2Vを10kΩに印加すると考えると電流は0.2mAですので,3uV以下にするためには3uV/0.2mAで15mΩとなります。 ただし,入力部での共通インピーダンスはゲイン倍されるのでゲインが10倍なら1.5mΩ以下にしなければなりません。

配線を太くする意味はそれなりにあるのです。

電源経由のクロストークも考えられます。 隣のチャンネルの出力電流によって電源電圧が変動すると自分のチャンネルに漏れこんできます。 しかし,電源電圧変動がリップル電圧以下ならば問題ありません。 今回はフィルターコンデンサを33,000uF搭載しているので8Ω負荷ならば問題ない見込みです。

項目数値条件
出力段共通Zゼロ出力電圧3.16V
入力段共通Z16.8mΩ以下出力電圧3.16V
電源電圧変動316mVRMS以下出力電圧3.16V

1-3-5:周辺機器とのアース電位差によるノイズ

プリアンプなどの周辺機器を接続するとアンプ単体では問題にならないノイズが問題になることがあります。 それは機器間のアース電位差によって発生するノイズです。

アース電位差は電源トランスなどの電源部分で発生します。 機器同士のアースに電位差があると接続ケーブルのGND側に電流が流れます。 この電流が増幅されるとノイズとなります。

ノイズに敏感な入力回路はLとRのGNDを最短で接続します。アースループを最小とする意味もあります。 そしてこの接続点から増幅回路と電源回路へ向けて別々の2本のGND線を配線します。

逆にまずい配線としてはL・R入力のGNDを独立にして入力から増幅回路を経由して電源のGNDへ1点接続しますとアンプ内にノイズを引き込むことになります。

仮にアース電流が10mARMS流れるとして,ノイズを3uVRMS以下にしたいならばGNDの抵抗値を0.3mΩ以下にすればよいです。 この抵抗値がどの部分なのかは配線の引き回しによって変わります。またアンプのゲインが大きいと影響も大きくなります。

項目数値条件
アースノイズ感受性3uVRMS以下出力電圧3.16VRMS
有害抵抗値0.3mΩ以下アース電流10mARMS

1-3-6:高周波が入力された際に整流作用によって生じるノイズ

増幅器の入力に初段の素子が反応できないような想定外の高周波を印加すると初段の素子の整流作用によって変調ノイズが発生します。 アンプ内に高周波が侵入しないように,入力部に高周波をカットするフィルタを入れることで防ぐことができます。

項目数値条件
入力LPF320kHzアンプ帯域以下

1-4:アンプの歪みと帯域設計

自作アンプの性能を測る指針として歪み率が議論されますが,多くの場合,100Hz,1kHz,10kHzの3ポイントで歪み率を測定するようです。

半導体アンプの場合,10kHzの歪み率が100Hz・1kHzと比較して10倍程度悪化する傾向があります。 これは帯域が狭くかつ歪みが多い回路を負帰還で抑え込んで広帯域・低歪みとしているためです。 真空管アンプの場合,無帰還でも10kHz程度までレスポンスが取れているので,負帰還をかけても1kHzと10kHzの歪み率が異なるという現象は出にくいです。

では半導体アンプで10kHzの歪率を下げる方策を考えてみましょう。

負帰還で歪みを1/100に抑えることを考えます。 仕上がりゲインを20dB(10倍)と仮定して10kHzでの帰還量を40dBとします。 オープンループゲインは10kHzで20+40 = 60dB必要になります。 そこから6dB/octで帯域制限していくと1MHzで20dBとなり,0dBになるのは10MHzとなります。 つまり,2番目のポールは10MHz以上に置く必要があります。それ以下の周波数に第2極が来るとアンプが不安定化します。

広帯域化がもっとも難しいのが出力段です。 容量性負荷をぶら下げると途端に帯域が下がるので安定度を確保するのが難しくなります。

初段,2段目も10MHzとなると結構難しくなります。 3段構成のアンプの場合,初段と2段目の帯域は10MHzの10倍の100MHz取れていれば文句はありませんが,100MHzはかなり難しい課題となります。

また歪みに着目しますとバイポーラ・トランジスタを使用したAB級アンプは歪が出やすいと言われています。。 なぜならバイポーラ・トランジスタが指数特性であるため,カットオフする際に急激に電流が減少し,高次の歪が発生するからです。 トランスリニア・バイアスやフィード・フォワード・打消しを試しましたが,なかなか安定動作させるのが難しいようです。 また,これらは基本的に歪み打消し技術なのでクリティカルな調整や石の選別が必要になります。

一方,MOSFETを使用したAB級アンプはFETが2乗特性であるため高次の歪が発生しにくいと言われています。 帰還量が少なくても良好な歪率を得られますし,発生する歪みも3次歪が主体なので耳につきにくいと言われています。 また,MOSFETは高速動作が得意なので帯域も広くとれますし容量性負荷にも強くなります。

参考までに,真空管アンプの場合はA級であれば10kHzの歪み率を低くするのは比較的容易です。 出力トランスの2次側からオーバーオールの負帰還をかけることにより特性改善を図ることも可能です。 また,超3結的な考え方で出力段のプレートから帰還をかけることで,オーバーオール負帰還を減らしつつ低域特性の改善することも可能となります。

項目数値条件
歪み率0.01%以下10W,8Ω,10kHz

1-5:作りやすさ,美しさ

半導体アンプの自作は高校生以来20年ご無沙汰しています。ちゃんとしたものを作りたいと常々考えてきました。 真空管アンプは美しいのですが,置き場所に困ります。子供に手を出されると厄介です。

作りやすさを考えると真空管アンプの方が簡単でしょう。 半導体アンプは部品数が多いので基板が必須となります。

今回はアルミケースに入った小型の半導体アンプを作りたいと考えています。 夏でも気軽に使えるように消費電力もそこそこに抑えたいと思っています。

回路の美しさは色々な考え方があるでしょう。 今回は対称性を持った半導体アンプの美しさを追求したいと思っています。 AB級SEPPは必須なので,そういった意味でも対称性のある回路が熱的に安定だし,性能も出しやすいだろうという算段です。

1-6:広帯域設計

小信号に対しては10MHz出せることを目標とします。 320kHz以上の周波数になると出力段に設けたスナバ(0.1uF+4.7Ω)が効き始める為,負荷電流はスナバに吸われて8Ω//4Ωで3Ωとなり負荷が重くなります。 そのため,大出力は出せません。そこで周波数特性は平均出力である1.25Wを基準にします。

容量性負荷に対しては安定度を保つことは多量のNFBをかける半導体アンプでは非常に重要な条件となります。 しかし,安定度を優先するあまり狭帯域となってしまっても面白くありません。 電流供給能力が限られると容量負荷を充電できなくなるので帯域が狭くなります。これを勘案して容量性負荷時の帯域を決めます。

スルーレートは瞬間的な電流供給能力を示す重要な項目ですのでもっとも厳しい条件で定義します。

項目数値条件
周波数帯域DC〜10MHz1.25W,8Ω
周波数帯域DC〜1MHz1.25W,8Ω//0.047uF
周波数帯域DC〜100kHz10W,8Ω//0.047uF
スルーレート100V/usec12.65V0-P,4Ω//0.047uF

1-7:動特性と大電流駆動そして安定性

「動特性の良いアンプ」とは如何なる負荷に対しても安定して力を発揮できるアンプと考えています。 発振気味になったり不安定な挙動を示すことがあってはなりません。

安定という意味では,出力がクリップしても異常な動作をしてはいけません。 飽和からの復帰時に発振しかかっているアンプはよくあります。

瞬間的に大電流を流してもパワートランジスタが破壊しないように適切に電流を制限できる必要があります。 そして,電源電圧や周囲温度が変動しても安定して出力を出し続けることも重要です。

安定性を重視するなら鈍いアンプを作ればよいです。帯域が狭く鈍いアンプは安定しています。 広帯域のアンプはどうしても不安定になりやすいのです。

帰還アンプの不安定性は位相遅れとスルーレートの不足から生じます。 スルーレートが不足しているアンプは正弦波が三角波になってしまいます。

スルーレートが十分に速く,位相遅れが少なければ広帯域アンプは安定に動作します。 さらに,パワーアンプは重い負荷に対して瞬時に電流を供給できなければなりません。

パワーアンプの安定性を維持しつつ動特性を向上させるためには出力インピーダンスを充分低くして負荷をしかっり駆動できる必要があります。 つまり,周波数に依存せず出力インピーダンスが充分に低いことが条件となります。 どんな負荷がぶら下がっても言うことを聞かせる強力な出力段を用意できればば,負荷容量を高速に充放電でき,位相回転も少なくなり,発振しにくくなります。

どのくらいの電流駆動能力が必要なのか考えてみましょう。

ある周波数:fを歪なく通すために必要なスルーレートは,SR[V/usec]=V*2π*f[MHz]になります。 仮に12.65V0-Pの振幅を持つ1MHzの正弦波を考えると,最低限79.5V/usecのスルーレートが必要になります。

この正弦波を0.1uFの負荷に対して与えてみましょう。どのくらい電流が流れるでしょうか。

Q = C*Vであり,I = dQ/dtですので,I = C*V/tとなります。
スルーレート(SR)はV/tなので,I = C*SRとなりますので,I = 7.95Aとなります。

ただし,実際のケーブルの容量は1000pF程度なので1/100です。 0.1uFはテスト時の条件として与えてみました。

また,電源電圧15Vとしますと1ohmの負荷がぶら下がれば15A流れてしまいます。 もちろん熱の問題や電源の供給能力の問題があるので15Aを連続して流すことはできません。

仮に10Aを供給すると考えた場合,バイポーラ・トランジスタとMOSFETでは素性が全く異なります。

バイポーラ・トランジスタは電流・電流変換素子であり,しかも限界点に近づくとhfeが低下して急に大電流を要求します。 10Aを出力するためには出力段のベース電流として1A程度の電流が流せる駆動段を用意しておく必要があります。

MOSFETは電圧・電流変換素子であり大電流を流すためには駆動電圧を大きくする必要があります。 ゲートに5V程度の駆動電圧が必要になります。電流は流れませんが入力容量が大きいため駆動段の動特性を良くしておく必要があります。 入力段の容量は200pF〜2000PF程度ですので10mA〜100mA程度の電流で充電できる駆動段を用意すると充分高速な立ち上がりが期待できます。

スパイスで色々いじってみましたが速度面ではMOSFETが圧倒的に有利でバイポーラは高速と大電流を両立させるのが難しいです。 MOSFETの方が瞬発力があり,ズドンと負荷に電流が入ります。結果として電流の立ち上がりが早いので位相回転が少なく発振しにくいアンプとなります。 特に容量性負荷の場合は等価的に入力容量が増え,定電流で充電することを考えると安定化に寄与することからMOSFETが有利だという結論が得られました。

さて,通常スピーカーケーブルの容量は100pF/m〜200pF/mなので長さが5m位として1000pF程度の容量を持つでしょう。 アンプの試験としては10nF〜0.1uF程度の負荷容量をぶら下げて安定性を確認しています。 広帯域なアンプほど容量性負荷に弱く大きなリンギングを発します。そして安定度が低いアンプは発振してしまいます。

手作りアンプで気を付けなければならないのが容量性負荷です。アンプのテストは通常抵抗負荷で行います。 ところが実際には少なくとも1000pF程度の容量がぶら下がりますし,接続するスピーカーによっても負荷の状態は異なります。 机上のテストでは良好な応答を示すアンプでも実際にスピーカーを接続しますと発振気味になることもあります。

このように不安定なアンプはスピーカー・ケーブルやスピーカーによって特性が著しく変化し音も変わってしまうでしょう。

真空管アンプは帰還量が少なく,容量性負荷に強いので性能が安定しています。 したがってよく言われることですが真空管アンプは自作しやすいのです。

半導体アンプは容量負荷に弱く発振しやすいため,容量性を負荷を帰還ループから切り離す目的で出力にコイルを入れます。 このコイルはアイソレータと呼ばれ,何百万円もする高級アンプにも使われています。 しかし,このコイルのせいで低域でも高域でもダンピングファクターが悪化してしまいます。

このコイルを取り去ることも一つのテーマになります。 そもそもこのコイルは必要悪であり,安定度の低いアンプを騙して使っていることに他なりません。

コイル無しで容量性負荷を駆動するためには高い周波数まで出力インピーダンスが十分に低いことが必要になります。 出力インピーダンスがコイルと同様なリアクタンス性を示し,負荷容量をぶら下げると共振が発生することが不安定化の根本原因なのです。

また無負荷状態及びインダクティブ負荷に対する安定性を向上させるため340kHz以上で効果を発揮するスナバを取り付けます。 出力インピーダンスが低いのでスナバの効果を発揮させるため抵抗値も低めの4.7Ωとします。

負帰還アンプの特質として低域では出力インピーダンスが十分に低く,100以上のダンピングファクタがあったとしても,高域向かって周波数が高くなれば一律にダンピングファクタが悪化していきます。 これは負帰還アンプの宿命であり,どうすることもできません。 対策は開ループでも出力インピーダンスが低い強力で瞬発力のある出力段を準備することです。 そして開ループゲインをいたずらに大きくせず,第1ポールを高く設定するしかありません。

つまり,高い周波数においても負帰還を充分にかけることが必要です。 安定性を損なわないように工夫するのは言うまでもありません。 そのためにはマイナーループの負帰還を有効に使うとよいと考えています。

項目数値条件
ダンピングファクタ200以上DC〜10kHz/8ohm
ダンピングファクタ10以上100kHz/8ohm
容量性負荷耐性リンギング無し10nF/8ohm
容量性負荷耐性発振無し10nF〜0.1uF/8ohm
出力スナバ(ZOBEL)4.7//0.1uF
出力コイル(アイソレータ)なし

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