余談:落雷対策(誘導雷による雷サージと家庭での落雷対策)


被害のメカニズムから守り方まで ネットワークの落雷対策 Part1,Part2,Part3

日経NETWORK:2006年8月22日

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/special/159/
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/special/160/
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/special/161/

この記事はオフィスのネットワーク機器に対する落雷対策についてキレイにまとまっていて参考になった。 当時は無料公開されていたのだが,現在は参照できない。

引用しながら概要をまとめ,自分なりに解釈して感想を述べたい。「」内は記事の引用です。 記事は有料でDLできるようなので気になる人は検索すべし。

雑誌の記事だけあってキレイな挿絵が付いているが,さすがにそのまま載せるわけにはいかず。残念。
フリー素材「いらすとや」から頂いたイラストをてきとーに編集して載せた。

やや意訳したので曲解している部分もあるかもしれない。ご容赦pls。


Part1:メカニズムを知る

「家庭や企業のネットワークは,通信ケーブルや電源,アンテナなど,数多くのポイントで屋外とつながっている。つまり,入りやすくしかも出やすいという,雷にとって格好の標的なのだ。」

ウチはADSLで外とつながっている。 ウチにはテレビのアンテナはないが,多くの一般家庭の屋根にはアンテナが設置されているし集合住宅であってもテレビのアンテナは外からやってくる。

落雷の「被害として深刻なのは」機器の破壊と停電である。

社屋の近くの送電線に落雷が発生し「ADSLモデムとルーターが壊れた」という実例が挙げられている。 なぜ直撃でもないのに機器が壊れたのだろうか。

雷のメカニズムは「空にある積乱雲と地面の間の放電現象だ」であり, 「100マイクロ秒以下の間に1000〜30万アンペア程度の電流が一気に流れ込む」のだ。 これは一般的にも言われていることなのでイメージがつかみやすい。

ところがなんと「落雷を受けると,その地点の電圧は瞬間的に上昇する。大きな落雷では100万ボルト以上に達することもある」そうだ。 「地上を流れる雷の電流は落雷点から2kmの範囲に及ぶという研究もある」ので不安が増す。

つまり,地面を抵抗値持った導体と考えた時,ある一点に電圧を加えると,その一点をピークに電圧の勾配が発生するということだろう。

結果的に「電流として直接届く」,「磁力を引き起こし内部の配線に誘導電流を引き起こす」現象が発生する。 そして「落雷が電力会社の配電設備に悪影響を与えて,停電を引き起こす」ことがある。

直撃雷サージ
(A)直撃雷サージ
誘導雷サージ
(B)誘導雷サージ
逆流雷サージ
(C)逆流雷サージ

雷サージ電流は(A)「直撃雷サージ」,(B)「誘導雷サージ」,(C)「逆流雷サージ」の3つに分けられる。

(A)直撃雷サージについては「家庭やオフィスにそのまま届く直撃雷サージはほとんどない」必要以上に不安になることはない。 しかし「直撃雷サージの電圧は数十万ボルト,電流は10万アンペアに達することもある」のでもし直撃を受けてしまったら「家庭やオフィスでとれる現実的な対策はない」そうだ。

(B)誘導雷サージとは落雷地点に巨大な電流が流れ込むことによって発生する強力な磁界や電界によって誘起される電流や電圧をいう。 電気理論では電流は必ず閉じたループを流れるが,雷は「グローバル・サーキット」という地球規模のループになっており, 局所的には一方向に大きな電流が流れるので打ち消す磁界が存在せず,周囲に大きな誘導電流を発生させてしまう。 また,電流は最も流れやすい経路を流れる。

先の例では送電線に落雷した際に「十数メートル下の電話ケーブル」に誘導が発生したと推定している。 「1万ボルト程度の電圧が生じることもある」ので甘く見てはいけない。

(C)逆流雷サージは電力線と通信線の接地点が異なる場合に発生することがある。 通常は「電力線は変圧器のある電柱」,「通信ケーブルは,建物の外壁に取り付けられた保安器」と異なる接地点を持つ。 もしこの二点間に電位差が発生したならばその二点間に電流が流れ,屋内に流入してくる。

雷サージ電流は電線を伝って侵入する。 電気はもっとも通りやすい経路を通る性質があり,空中や地面よりも電線を通りやすいのは当たり前だ。 したがって「電力線,電話ケーブルやCATVケーブルなどの通信ケーブル,アンテナ線など」を通って屋内に進入してくる。

複数の侵入経路を持った機器が弱いのは逆流雷サージで説明した通り,異なる接地点間で発生する電位差の影響を受けるからだ。 具体的には,ADSLモデム(電源と電話線),テレビ(電源とアンテナ)は影響を受けやすい。

電話機ではFAXや留守番電話のように電源供給が必要な電話機は影響を受けやすく,電話線だけつながっているシンプルな電話機は電流が抜ける出口が無いので影響を受けにくい。

ネットワーク機器は電源線と通信線の両方が接続されているのでやはり影響を受けやすい。

先の例ではADSLの電話線から侵入した誘導雷サージは電源線とLANケーブルに抜けていき,LANケーブルに抜けた電流はルーターを破壊しつつ電源線に抜けていったという推定だ。

誘導雷サージや逆流雷サージは「電圧が2万ボルトを超えることはまずなく,ほぼ9割は1万ボルト以下」なので対策可能だ。 つまり「1万〜2万ボルト程度のコモン・モードの雷サージ電流を想定」して対策を考える。 直撃雷は滅多に起きないので遭遇した時はあきらめる。

以上Part1。


Part2:手早く対策するには

「一般のユーザーが取れる対策は,(1)「雷ガード」と呼ばれる製品の導入,(2)アース対策,(3)UPSによる電源バックアップ──の三つ」だが,(3)は関係ないので(1)と(2)のみを見ていこう。

(1)の雷ガードは誘導電流が機器内を流れないようにバイパスしたり,折り返させたりする。

ネットワーク対応タイプのコンセントに挿すタイプの雷ガード(日辰電図機製作所の「NP-16Z・11A」)が紹介されている。 これには避雷素子が内蔵されており通信線と電源線の電位差を解消する働きがある。 また,コモン・モード,ノーマル・モードの両方に対応している。

コモン・モード,ノーマル・モードは電気初心者には直感的に分かりにくい。

コモン・モード電流は2本の電線があった時,2本の電線に同じ向きに流れる電流であり,2本の電線の電圧変化は同じになる。 コモン・モードはノイズの伝播を話題にするときに必ず登場する。 雷による電流はグローバルサーキットを流れるためコモンモードになる。

ノーマル・モード電流は2本の電線を逆向きに流れる電流であり,2本の電線の電圧差がノーマル・モードの電圧だ。 通常の信号伝送や電力伝送はノーマル・モードで行われる。

AC100Vの電源線で例えると,ノーマル・モードはAC100Vそのものであり,コモン・モードは通常は発生しない。 一般家庭のAC100Vに大きなコモン・モード電流が発生すると漏電遮断器が働き配電盤のブレーカーが落ちるようになっている。 コモン・モード電流の発生は漏電を意味するため,感電防止のためにブレーカーが落ちる仕組みになっている。

先の雷ガードはコモン・モードに対してはバイパス,ノーマル・モードに対しては折り返しという手段でサージ電流を逃がしている。

電流耐量は決められた波形で定義されており「8/20μs」という表示は8マイクロ秒で電流がピークになり,その電流が20マイクロ秒で半減する波形のことを示すそうだ。 「15/100μs」は10マイクロ秒でピークに達し,100マイクロ秒で半減する波形ということになる。

「8/20μsの条件なら5000アンペア以上,15/100μsの条件なら1000アンペア以上のものを選べば,9割以上の雷サージ電流は防げる」そうなので参考にしたい。

参考情報として「直撃雷サージの電流値は,10万アンペア(10/350μs)」に達するとのことなので 耐量に対して100倍の開きがある上に持続時間が長いのでエネルギーが強いことがわかる。

雷ガードなし
雷ガードなし
雷ガードあり
雷ガードあり

雷ガードがないと電話線やアンテナから侵入した雷サージはPCやTVと言った機器の内部を抜けてコンセントへ達し,電源線へ抜けていく。 もちろん雷サージが通過した機器は壊れてしまう。

このとき,電源線に接続されていないシンプルな電話には電流が流れず影響を受けづらい。 電源が必要なFAXや留守番電話は影響を受けやすい。

雷ガードがある場合について説明する。 電話線とアンテナに保安器を取り付けてしっかりとアースに接続すれば,雷サージ電流はアースに逃げる。 このため屋内に侵入するサージ電流は弱くなる。 屋内に侵入してきたサージに対してはADSLモデムの近くに,先の例のようなネットワーク対応のコンセントに挿すタイプの雷ガードを接続しておけばサージは電源線を経由してアースへ逃げるので機器内には侵入しない。

さらに電源線の配電盤にも避雷器が設置されていれば電源線からの雷サージ電流も軽減することができる。

(2)のアース対策だが,基本は電流を地面に逃がすことだ。 「ネットワークに侵入する前にアースに流すのがポイント」であり,これを間違えると逆効果になってしまう。 つまりサージがネットワークへ侵入した後,行き当たりばったりでアースへ流すと多くの機器が共倒れになりかねない。

また,アースの強さに違いがあると雷サージ電流が集中してしまい機器の破壊につながる。 「電圧をそろえること」「等電位にする」と記されているが,アースの電圧を測ることは現実には難しくイメージしづらい。

ここからは独自の提案になるが,アースにも「レベル:階層」があると考えると分かり易い。 異なる「レベル」の電源線と通信線を同じ機器に直接つなぐと電位差が大きくなりコモン・モード電流が流れやすい。 異なるレベルの配線を接続する機器には雷ガードを設置すると被害を軽減できるだろう。

*分かり易く説明するための「独自研究」なので鵜呑みせずよく咀嚼すること。

<電源線アースのレベル>
レベル0:実際に地面に接地している「アース線」・「地面」・「建物の筐体(鉄骨,鉄の配管)」
レベル1:アース線が接続された「分電盤や配電盤」
レベル2:分電盤や配電盤から配線された「コンセントのアース」
レベル3:3Pコンセントに接続された電気機器のアース端子,金属筐体;ex.PCのケースなど
その他 :2Pコンセントに接続された電気機器,アダプターもしくは電池駆動の機器;ex.ノートPC

<通信線アースのレベル>
レベル0:実際に地面に接地している「アース線」・「地面」・「建物の筐体(鉄骨,鉄の配管)」
レベル1:アースが接続された「保安器」
レベル2:レベル1に接続される機器;ex.モデム,テレビ,ビデオ,電話機
レベル3:レベル2に接続される機器;ex.オーディオ機器,映像機器,有線LANケーブル接続機器(ルーター,PC,サーバー,NAS)
その他 :無線機器,携帯機器

具体的な例を挙げる。LANケーブルを接続したPCを直接地面に接地してみよう。 LANケーブルと地面ではアースのレベル差が大きいため地面からの誘導雷サージをもろに食らってしまう。 PCの電源はLANケーブルと同じレベルである3Pコンセントに接続しておくのが最も安全ということになる。

もうひとつ例を挙げると,ウチのモデムは屋根裏に設置されているが,モデムのアース端子を3Pコンセントのアースにしっかりとネジ止めしている。

こう考えるとネットワークにつながるテレビやレコーダーはアンテナにもつながるし電源にもつながる。 雷サージの出入り口が豊富なので落雷発生時に故障するリスクが高いことが分かる。

以上Part2


Part3:建物全体で守る

「建物全体で雷サージ電流から守る」ことが進められている。 「JISA4201-2003(建築物等の雷保護)」が定められ,2005年に改正された建築基準法で認められるようになった。

大規模な実施例としてNTTのビルの例が紹介されている。 「NTTのビルの接地は,通信用,機器用,電源用,避雷針用でばらばら」だったので「1996年からビルの改修を順次始め」接地の一本化を進めているそうだ。

「ビルを上下に貫く形で接地用の幹線を引き通し」「接地用幹線をフロアごとに建物の鉄骨とつないだ」ことが主な対策だ。

挿絵には共用接地(幹線接地)と電源接地,避雷設置の三つの接地ポイントがある。 これは根本(地面)ではつながっているのだろう。

仮に建物に落雷してもほとんどサージ電流は避雷針をとおり,その他の迷走電流も鉄骨を流れる。 鉄骨は各フロアのアースにもつながっているので等電位となり鉄骨を流れる電流は建物内部には侵入しない。 最後に地面に達したところで電源接地と同電位になるため電源からのサージも最小限になるということだろう。 これで「雷サージ電流による被害は桁違いに少なくなった」ので効果は大きかろう。

古いビル
古いビル
雷対策したビル
雷対策したビル

一般家庭での対策も気になるところだが,2005年9月の「内線規程」では一般家庭でも「通信用接地と電力用接地の接続ができるようになっている」そうだ。 しかし「通信用接地と電力用接地の接続の保安器側の作業はNTTに依頼する必要がある」とのことだ。

ちなみにウチの配電盤に避雷器がついている。 そして壁のコンセントはすべてアース付きの3Pコンセントになっている。

しかしADSLモデムのアースは接続してあるが,通信線側はノーマーク状態。 通信線は直接ADSLモデムに入っているように見える。 保安器は外壁に取り付けられているようだ。保安器から緑の線が電信柱に伸びている。 きっと電柱側でアースがとられているのだろう。 配線が長いので電位差が大きくなってしまう。 自分でできる対策としては通信線に雷ガードを入れておくことだろう。

以下略


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