真空管ギターアンプの安全設計
(真空管ギターアンプを自作したい人に知ってほしい)
2011年頃初稿
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参考文献「自作に役立つ書籍」はこちら・・・
傾向 |
対策 |
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1:AC電源 |
3:実例 |
5:電源回路 |
7:部品選定 |
2:火災 |
4:感電 |
6:配線・実装技法 |
8:アース・グランド |
緒言
古今東西問わず,自作アンプの指南本は数多く見られますが,電気機器としての安全性を説いている本は滅多にありません。
そもそも自作は自己責任が大前提です。
「自己責任 事故が起きても 無責任」(笑)
そこで自己流であちこち調べて得られた知識をまとめておこうと思い立ちました。
さて,世の中には様々な「安全規格」が存在します。製品を売って商売するためには安全規格を守らなければなりません。 普段はあまり気になりませんが,確かに安全規格は私たちの生活を危険から守ってくれています。
しかし,これらの安全規格は難解な条件付けが多く理解に苦しみます。 もし暗記できるほどの条件だけで安全な真空管ギターアンプが設計出来ればなんと楽なことか,そういった指針があればよいと思っています。
断っておきますが,わたしがアンプの製作を始めたのは1997年ごろ。アンプは6台ほど作りましたが,製作台数としてはそれほど多いわけではありません。他人に譲渡したり商品化したことはありません。 ですから,ここで定義している条件は実際に実験していない項目も多々あります。 しかも自分で定義しておきながら自分では守っていない項目も沢山あります。
ということで説得力は薄いです。自己満足で情報をまとめておくだけです。
相当に議論の余地があると思いますので,おかしな点は指摘していただけると幸いです。
また,内容を詰め込みすぎてわかりにくい部分が多々見受けられます。年中無休で工事中とさせていただきます。
エレキギターと感電のリスク
エレキギターを抱えて感電死したハナシは確かに聞いたことがあります。 無駄に怖がらせることは言いたくないのですが,普通に使っていれば感電はしないでしょう。とはいえ可能性はゼロではありません。
この先何度も述べますが,エレキギターの「弦」は電気を通します。 演奏時には弦を手で押さえますので「感電」のリスクがあります。
つまりギター・アンプはオーディオ・アンプよりも真剣に安全性を考える必要があります。
安全性のポイントは電源
アンプの安全性のポイントはコンセントから供給されるAC電源です。周知のとおり日本はAC100Vです。
アンプの安全性を理解するためにはAC電源と電源回路を中心に考えます。
電気の恐ろしさ
家庭のコンセントから供給されるAC電源は最近何かと話題の「発電所」から送電線を通って供給されています。
発電所からの送電は非常に強力です。扱い方を間違えると感電はもちろん,火災を発生させることもあり,人間に危害を与えるには十分余りあるエネルギーを持っています。 ですから安全装置の設置が義務付けられ,電気工事を行うにも資格が必要です。
身近な安全装置・ブレーカー
身近な安全装置といえば各家庭の配電盤にある15A〜60A程度のブレーカーです。 過大な電流が流れるとブレーカーが落ちて電気の供給を遮断し安全を確保します。
イメージは難しいのですが,ブレーカーが落ちるほどの電力は結構大きいです。
日本ではコンセントの電源電圧が100Vなので,例えば30Aを使うと3000W,つまり3kWの電力になります。
3kWの電力と言ってもいまいちピンと来ません。
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ちょっと計算してみました。
3kWの電力を単純に熱量に換算すると,1円玉5枚(アルミニウム5g)に3kWを加えると1秒で溶ける温度(融点660℃)まで上昇します。
いかがでしょうか。自作アンプが完成して初めて火を入れる瞬間。それはレコードに針を落とす瞬間よりもスリリングなのです。
また,100Vへの感電も危険です。 たかが100Vと甘く見がちですが感電して亡くなる方は年間に数人程度います。
つまり,電気は危険なのです。
危険の定義
電気以外を含めて日常生活で考えられる「危険」について考えてみました。 ネットでの調査結果を自己流で分類しています。
■危険1:「破裂」:高い運動エネルギーをもった破片が飛散する
■危険2:「火災」:装置が燃える,設備や建物が燃える
■危険3:「感電」:感電する,感電により「落下」を誘発する
■危険4:「落下」:ものが落ちる,人間が落ちる
■危険5:「漏電」:「火災」を引き起こす,「感電」を誘発する
■危険6:「漏水」:設備や建物に損害を発生させる,「感電」や「漏電」を誘発する
■危険7:「負傷」:挟み込み,シャープエッジでの擦傷,打撲,火傷
上記のいずれの「危険」でも重大な損害や死亡事故につながります。
これでは定義が一般的すぎるので,ここではギターアンプに限って項目を絞ります。
アンプでは「漏水」は考えなくてもよさそうです。「落下」は骨折くらいで済むでしょうか。 真空管は割れることもありますが「破裂」はしません。電解コンデンサがパンクすることもありますが,安全にパンクするように設計されています。「漏水・落下・破裂」は除外しましょう。「負傷」も電気とはあまり関係ないので除外します。
「漏電」と「感電」は取るべき対策が近いので同列に扱ってよいでしょう。
結果的に「火災」と「感電」が残りました。
ギターアンプの安全対策は「火災」と「感電」
ギターアンプの安全対策としては「火災」と「感電」の防止,この2点を重点的に考えます。 いやなに,いろいろな文献を読んで勝手にそう解釈しただけですが。
「火災」の予防については通常動作時はもちろん,異常な状態になっても「過熱しない」のがポイントです。
異常事態を想定して危険を避けるための設計基準
安全を得ると言うことは,裏を返せば危険を排除していく行為です。
危険につながる異常な事態(故障)をどれだけ具体的に想定できるかが鍵になります。
「異常事態」を避けるための「対策」は「異常事態」を「想定」することから始まります。 「想定外」の事態が起こると重大な事故に繋がるのは,福島の原発事故と同じです。
ところが「異常事態の想定」は設計の中でも経験とカンが必要な難しい部類に入ります。 また,自分が作ったアンプが壊れる想定は心情的にやる気がでる作業ではありません。
普段何気なく使っている自動車は製品化される過程で多くの試験が行われます。衝突試験も実際に行われます。
同様にメーカーのアンプは実際に故障状態にする異常試験を行います。実際に多くのアンプを壊します。 ワンオフの自作屋にはとても無理な話です。
こういった事情を考えると自作屋が安全なアンプを作るために必要なのは「確立された設計基準」だと思うのです。 設計基準にしたがって作るだけで安全なアンプが出来上がるとしたら,それが現実的な自作アンプのあり方と思います。
進化する設計基準
ギターアンプが誕生して60年以上が経ちます。その間に安全規格は進化しています。 ビンテージ・ギターアンプは現在の安全規格から見ると不十分な部分があります。
大手メーカーは進化する安全規格に合わせて設計基準を改善しているでしょう。 こうした設計基準はまさにメーカーのノウハウであり,大量生産を行い,数々のステージをこなす中で見出されてきた法則でもあります。 ですから,設計基準をWEBから安易に得ようとしても入手することはできません。
だからこそ,安全な自作アンプを作るためのノウハウをここに結集するわけです。
巷にあふれる安全規格
安全規格は沢山あります。 ANSI・EN・IEC・IEEE・ISO・JISなど・・・。 MILやULなどの規格もありますし,CEマークやPSEマークもあります。 ここでは具体的内容にはほとんど触れていません。難解すぎて説明できません。
興味がある人はネットで引けるので見てみてください。
こういった規格の類は非常に複雑で難解です。 法律みたいなものですから記述も専門的ですし,どこに何が書いてあるのかさっぱりわかりません。
しかし,最初に申したとおり自作屋さんは無責任です。 自己責任とはいえ,大きな損害が発生する可能性を放置するわけには行きません。
まあ,わたしもアンプ設計はずぶの素人なので,誤解や間違いがあると思って参考意見にとどめてください。
アンプに必要な信頼性は産業用機器程度?
究極の安全性,信頼性をもつ機械とはボイジャーに代表される惑星探査機でしょうか。一度打ち上げてしまったら二度とメンテナンスできないからです。 地球を滅ぼすかもしれない核兵器の信頼性も高そうです。社会インフラである電気,ガス,インターネット,事故を起こしてはいけない鉄道,航空機,自動車,経済的損失が大きい産業用の機械,これらは信頼性が大切です。
楽器はステージ・パフォーマンスと経済的損失リスクから「産業用」の機械程度の信頼性は欲しいのではないでしょうか。
「犬が歩けば棒に当たる」わけで,スペース・シャトルも事故を起こしました。絶対の安全は保証できません。 しかし「想定外」が発生しても大事故を起こさない工夫が「フェイル・セーフ」思想であり,これが装置の仕組みを考える者,つまり「設計者:デザイナー」の重要な仕事だと思います。
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