真空管ギターアンプの回路設計


電源の設計

一般的に手に入るトランスを使うのが便利です。 オーディオ用のトランスを使用したりする場合は,フェンダーのリプレース用として売られているトランスの仕様(電圧と電流容量)を参考にするのが一番簡単です。 ここでは自作を支援するために難しくならない程度に説明します。


整流方式を考える

電源回路を考えるにあたって,まず気付くのは整流管(Rectifire)を使用するか,シリコン・ダイオード整流にするかということです。

整流管とシリコン・ダイオード

整流管を使用した整流は損失が大きく,シリコン・ダイオード整流よりも数十〜100V以上の電圧降下が見込まれます。 シリコン・ダイオード整流は整流後の電圧は計算通りか,むしろ高めに出てびっくりすることが多いのが実情です。

なお,電源電圧が下がればその分最大出力は低下します。

元々整流管の使用を前提に設計されているアンプの整流管をそのままシリコン・ダイオードに交換した場合,電源電圧が高くなりすぎる可能性があります。 この場合,シリコン・ダイオードと直列に100Ω〜300Ω位の抵抗を入れてやれば整流管の整流電圧にあわせることが出来ます。

音の違いは・・・

整流管を使うか,シリコン・ダイオードを使うかで音が違うといわれます。

しかし,この変化は電源インピーダンスや動特性による変化であり,デバイスの違いを聞いているわけではありません。

シリコン・ダイオードは固め,整流管は柔らかめといわれています。

しかし,整流管かシリコンダイオードかなどデバイスの違いを議論する前に電源インピーダンスや動特性を調べるべきと考えています。

整流管は信頼性が低く,発熱も多いため故障の原因になります。 出力管よりも寿命が短いので頻繁に交換する必要があります。

整流管でないと得られない音があるかもしれませんが,それは偶然です。 整流管に固執すると失うものが多いのは確かです。

シリコン・ダイオードのノイズ

シリコン・ダイオードはノイズを出しますので,中途半端な実装を行うと「ジー」というノイズに悩まされます。 このノイズもシリコンダイオードが嫌われる理由かもしれません。

しかし,部品配置と配線を適切に行えばこのようなノイズに悩まされることはありません。

シリコン・ダイオードでもFRDやSBDという新しいデバイスを使うとさらにこのノイズを減らすことができます。

シリコン・ダイオードの耐圧

スタンバイスイッチを遮断したときに電源トランスやチョーク・コイルのインダクタンスによって過渡的な電圧上昇(キックバック)が発生することがあります。 この電圧は瞬間的ですが1000V以上になることもあります。

半導体は真空管に比べると故障しやすいので徐々にストレスが蓄積されて故障に至る場合があります。

シリコン・ダイオードの耐圧はトランスのタップ電圧の実行値に対してブリッジ整流では4倍(両波なら6倍)以上あると安心です。

例えばタップ電圧がAC300Vの場合ではダイオードの耐圧は,ブリッジ整流ならば1200V以上,両波整流ならば1800V以上必要ということです。


電源トランスのタップ電圧を決める

リプレイス用に用意されている電源トランスは整流管用とシリコンダイオード用で高圧タップの電圧が異なります。 整流管用で300〜360V,シリコンダイオード用は280V〜320Vくらいのようです。

整流管のほうが効率が悪いので電圧が高く設定されています。 そのままシリコンダイオードで整流すると電圧が高くなりすぎます。 電圧が500V以上になり,電解コンデンサーの耐圧を超えてしまうことがあります。

整流後のDC電圧は6L6系では400V〜500V程度,6V6GTやEL84では350V程度にすることが多いようです。 EL-34は高い電圧に強いので,500V以上の電圧にすることもあるようです。怖いですね・・・

電源トランスを特注する場合

電源トランスを特注する場合はタップ電圧はSpiceなどのシミュレーションで決めることが多いです。

消費電流を見積もりさえすれば後は割と簡単です。 消費電流は6L6のプッシュ・プル方式だと最大で250mA〜350mA程度です。

シュミレーションのときはトランスの2次側のタップとして50Hzの信号源を電源にしますが,出力インピーダンスを10Ω〜100Ω程度に設定するのがミソです。 この抵抗分は電源トランスの巻き線抵抗や鉄損などのロス分にあたります。 電源へチョークを入れる場合はチョークの巻き線抵抗も考慮する必要がありますし,整流器の抵抗分やドロップ電圧も加味する必要があります。

大型のチョークを使いコンデンサーの容量を減らしていくと電圧が降下してきますので設計が難しくなります。 逆に,容量の大きいコンデンサーを使い,小型のチョークを使う場合は実行電圧の1.4倍に近づきますので,設計は楽です。


平滑コンデンサーの容量

電源リップルを取り除くための平滑コンデンサーは10uF程度から100uF程度まで使われています。

容量を大きくするとフィルター効果が高くなり,電源リップルが減りハムノイズが減少します。 また,電源電圧の変動が少なくなり,瞬間的な最大出力が上昇します。

逆に少なくするとリップルが増大しハムノイズが出やすくなります。 また,大出力時の電圧降下も大きくなりますので,最大出力が減ります。

オーディオ用のアンプでは200uF以上の容量,はたまた1000uF以上という容量も使われますが, ギターアンプではこの容量がピッキングニュアンスに影響してきます。

大きくすればするほどトランジスタアンプのような平坦な音になってしまいます。

電解コンデンサーが使われることが多く,古いアンプは容量抜けしている場合があります。 案外容量抜けした状態が「ビンテージアンプ」の音色につながっているのかもしれません。

無意味に大きくすることは無いです。ただし,小さいとハム・ノイズと後述するゴースト・ノートの影響がでます。

ゴースト・ノート

ギターアンプの場合,出力管のプレート電源(+B)は整流器の出力をコンデンサにつなぐだけの整流しっぱなしのものを使うことが多いです。

オーディオ用途ではチョーク・コイルを通す場合が多いですが,ギターアンプではコストダウンと出力確保を優先していますのでプレート電源にチョークトランスは使用しません。

チョークはフィルターとして働くのでリップル・ノイズを減らします。 リップル・ノイズがスピーカーに現れるとブーンというハム・ノイズとして聞こえます。

プッシュ・プル方式は回路のバランスが取れていれば電源のリップ・ノイズはキャンセルされるので出力されません。 ですので一見,整流しっぱなしのリップルが多い電源でも問題ないように思います。

しかし,フルテンのとき,エンベロープ(ヘッドルーム)が制限されますので電源リップルの影響が音として出てきます。 電源リップルは取り除いておいた方がよいと思います。

この影響は「ゴースト・ノート」と呼ばれ,50HzのAC電源からは100Hzのゴーストノートが出ます。

音楽的な言い方にすると,大きな音を出すと6弦の3フレットをハーフチョーキングしているやつが現れて和音を濁すということです。 別の言い方をすると,高速なトレモロがかかった状態になるともいえます。

言われないと気付かない程度ですので,気にしなくてもよいかもしれませんが,対策を施したアンプもあるようです。 出力管の歪にこだわるならば考慮すべき項目のひとつとして無視できないと考えています。

平滑コンデンサの耐圧

耐圧が450V以上の電解コンデンサはあまり流通していません。 複数のコンデンサを直列にすることで耐圧を向上させることができます。 直列で使う場合は数100kΩの抵抗を並列に取り付けます。

また,電源電圧は負荷が軽くなれば高くなりますので,耐圧の確認は整流管以外の真空管を全て抜いた状態で行います。


その他電源

真空管アンプにはいくつかの種類の電源が必要です。 どんなに単純なアンプでもヒーター電源は欠かせませんし,複雑なアンプになれば電源回路も複雑になります。

ヒーター用電源

ギターアンプで使われる真空管はほとんど6.3Vです。
整流管が5Vの場合は別系統のヒーター電源が必要です。

2A〜5A程度の大きな容量が必要です。

バイアス用の負電源

使用する出力管によって異なりますが20V〜50V程度の直流が得られるように設計します。

主電源が両波整流の場合,+B巻き線の途中から取り出すことができます。

主電源がブリッジ整流の場合は別途タップを用意するのが無難です。

制御回路用の電源など

チャンネル切り替え制御や,オペアンプを仕込む場合は必要になります。
電圧は15V,電流は500mAの容量があれば間に合います。

単電源で良いのか,正負両電源にするのか等をよく考えておく必要があります。


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