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1:初めて作る直熱管アンプの計画

211(VT4C)シングル・ステレオ・アンプの自作

直熱管とは?

「直熱管」と言えば300B,2A3でしょうか。 その他にも色々あると思いますがギターアンプ野郎なのでよく知りません。

モノの本によると真空管が発明されたとき,それは「直熱管」でした。 真空中のフィラメントに電流を流して過熱するとフィラメント表面から対向する電極へ向けて熱電子が飛び出します。 カソード電極である「フィラメント」とこれに対向する板状のアノード電極「プレート」という構造はまさに二極管であり整流管とも呼ばれます。

フィラメントとプレートに加えて第三の電極である格子状の「グリッド」を設けると三極管になります。 グリッドに印加する電圧に応じてカソード電極からの電子の飛ぶ量が変化すると増副作用が生まれるのです。

フィラメントがカソード電極となる「直熱管(Direct Heated Tubes)」に対して「傍熱管(Indirect Heated Tubes)」は傍熱管はヒーターとカソード電極が絶縁されています。 ヒーターによって温められたカソード電極から電子が飛び出します。 英語名からすると「傍熱管は直熱管に非ず」となりますので,今となっては否定的なニュアンスら漂います。 「Isolated Heater Tubes」とかすれば,絶縁してるぜ!的な雰囲気でよいと思うんですけどね。英語圏のセンスは理解できません。

直熱管はいわゆる「古典管」に多く見られます。時代が古いということです。 古典管と言うと第2次世界大戦前までさかのぼります。70年以上前です。 直熱管は大出力を絞り出す送信管と言う用途では生き残りが見られますが,オーディオ用の直熱管は実用的には死滅しました。 2A3は古典的なラジオ用,300Bは電話用からの流用ですから,真空管全盛期にはオーディオ用は6L6系の様な新たに開発された傍熱管に置き換わっています。 そんな古典的な直熱管を引っ張り出して賞用しているのが日本のオーディオマニアということです。まあそれが世界的潮流になったわけですが。

直熱管は真空管の元祖であり,傍熱管は進化系です。ということは,傍熱管には何か利点があるということです。

直熱管の欠点は電子を放出するカソード電極がフィラメントを兼用していることです。 カソード電極の電位が変化するような回路には使いづらく,他の球とヒーター回路を共用することも難しくなります。 一方,傍熱管はヒーターとカソード電極は絶縁されているので,カソード電極の電圧設定範囲が広まり設計自由度が高まります。 つまり,カソード接地増幅回路ばかりではなく,カソード・フォロアーやSRPPなどの応用回路が実現できるわけです。

傍熱管はどんどん進化して効率が向上し,装置のコストも下げられます。 そして最終的には直列点火によるトランスレス・ラジオに行き着くわけですが,その方向性はもちろんコストダウンです。

211(VT-4-C)と845

GE VT4C 211

211は500mlのペットボトルと同じくらいの大きさの真空管です。 オーディオ用として使われる真空管としては大型の部類に入ります。 もともとは軍用無線の送信管だそうです。 起源は非常に古くMJの大塚久氏の記事のよると1920年代にWEによって211Aが開発され,同時期にGEによってUV-211が開発されたとのことです。 現代でも使われている実用的な真空管としては最も古い設計でしょう。 これ以上の詳細は専門書に譲ります。

211はこれぞ真空管!という風貌と存在感。明るく輝くトリエーテッド・タングステンのフィラメント。 実に魅力的です。

211はよく845と比較されます。送信管である211をオーディオ用に改良した球が845です。 845は直線性が良く,内部抵抗が低く,最大出力も大きく取れますのでオーディオ用としては心を惹かれます。

代表的動作例としてRCAのデータシートからAFのClassA1の動作例を抜粋します。

211 RCA 1936AFA1
PLATE DISSIPATION75Watts
DC Plate Voltage75010001250Volt
DC Grid Voltage-46-61-80Volt
DC Plate Current345360mA
Transconductance275031503300umhos
Plate Resistance440038003600Ohms
Load Resistance880076009200Ohms
Power Output5.61219.7Watts
845 RCA 1933AFA1
PLATE DISSIPATION100Watts
DC Plate Voltage75010001250Volt
DC Grid Voltage-98-145-195Volt
DC Plate Current959080mA
Transconductance310031003100umhos
Plate Resistance170017001700Ohms
Load Resistance3400600011000Ohms
Power Output152430Watts

しかし,845には致命的な短所があります。それはバイアスが深いこと。 1000Vの動作例では-145Vもあります。つまり300Vp-p以上のドライブ電圧が必要です。これをスイングさせるのが難しいのです。 この点すでに語りつくされていますが,昇圧しつつのトランスドライブが最良と思います。

一方の211はバイアスが浅いのでドライブは楽です。 しかし,845に比べて内部抵抗が高いという点が短所です。

845/211を初めてみたのは

1988年か1989年だと思います。我が家に突然845アンプがやってきました。 それまで真空管アンプを見たことがなかった私はやられました。その見た目にね。

そしてその10何年後かに真空管アンプを作るスキルが身についてきたころ,秋葉原の店頭でGEのVT4Cを見かけ,保護して我が家の神棚に祀っていたのでした。

VT4Cと211は別物だと言われるとあれなんですけどね。

そしてさらに10何年後の2020年。死ぬまでにやりたいことのひとつ。「211でアンプを作る」が実行に移されたのでした。はい。

初めて出会ったあの845アンプはまだ実家にあります。埃をかぶっているけど。 知る人ぞ知る「白根録音研究所(SRK)」の845シングル・ステレオ・アンプです。 初段は12AU7,ドライバは12BH7,CR結合でプレート電圧は800V程度だった記憶しています。 左右個別のヒーター専用トランスによる交流点火でトランスとチョークは全て手巻き。

確か抵抗も手巻きの巻き線抵抗を使っている部分があったはずです。 しかもフォノイコライザのコンデンサはマイカを重ねて自作するというのがシロネアンプです。 所沢の航空公園の近くにラボがあり,シロネさんが現役の際に一度だけお邪魔したことがあります。(一体お前は何歳なんだ?)

あのアンプは845ですが,日電のUV-845が挿してあったソケットの脇に,確か211と刻まれているのです。

結局,今回の211アンプの設計思想もシロネアンプの影響を強く受けています。 なのでアンプの計画といっても,憧れとか思い出とかそんな思いが詰まった211に何か舞台を与えてやりたいという。 積年の思いが実現しただけです。

計画始動のきっかけ

オークションで部品を物色しているとシングル用の出力トランスが目に留まりました。 LIST(調所電器)のトランスです。どこかで聞いたことがあります。確か昔のMJに広告が出ていたと思います。 出力トランスはカットコアでケース無しですが手ごろな値段で巻いてくれるようです。

そう,シングル用のOPTは家族で国内旅行に行けるほどの大枚をはたかなければ手に入りません。 とはいえ,まだ手に入るのが奇跡的だとは思います。あと10年は大丈夫でも,20年後は作れる人がいないかもしれません。 そんなシングル用のOPTがお小遣い程度で手に入るとなればヘソクリをはたく価値が出てきます。

右往左往すること数年でしょうか。あっという間に時間は過ぎます。 異動した会社の先輩,アンプ好きの先輩にへ送る年賀状に「今年は211アンプに挑戦します!」と啖呵を切ったのが2018の年始でしょう。 何かきっかけが欲しかったのです。それから2年の時間が必要でした。 仕事が一段落した時期にスパイスを回して回路をいじり,部品を物色しました。 目途がついたのが新型コロナ騒ぎの直前です。

テレワークだという風潮の中で通勤時間が削れることにワクワクしましたが,それは数年前の苦行「JBLスピーカー自作」に続く新たな修行の始まりでした。


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