用語からみるJBLのスピーカー


泥だらけのスピーカー用語集

JBLスピーカーの断面図に名称を加えた図を抜粋してきました。フェライト・マグネットによるSFGの時代です。

JBL cross section
引用:JBL Technical Note - Vol.1, No.3

使っている用語に設計思想が表れていると思い整理してみる気になりました。泥沼の底の方です。

CONE:コーン,振動板

・円錐形なのでコーンと呼ばれる(多分)
・ストレート・コーン,カーブド・コーン,パラボリック・コーン(お椀形)などという呼称がある
・厚みを変えたり,補強リブ(コルゲーション)をつけたり,プレスしたり,ノンプレスだったり,色々と戯れ代がある
・基本はパルプを成型しているが,古いスピーカーほど薄く固い傾向にある(と思う)
・時代が下ると固有音を消すために内部損失の高い素材が選ばれるようになる
・振動板の素材は多種多様に渡り,バブル期は素材開発がスピーカー開発(商品差異化)の根源だった
・ボイスコイルに接する部分を「ネック」と称する

SURROUND, COMPLIANCE:サラウンド,エッジ,アウター・サスペンション

・「サラウンド」つまり周辺部分,日本ではエッジと呼ぶのが一般的
・「コンプライアンス」と呼称を持たせるくらいなので,JBLはエッジにコンプライアンスを重視する設計思想と判る
・「コンプライアンス」は物体の変形しやすさを示す物理量,振動系のバネ定数の逆数,高いほどフラフラ,低いとガチガチ
・「コンプライアンス」はティールスモールパラメータとして公開されることは少ないが「Vas」と正比例の関係にある
・エッジはフィックスド・エッジとフリー・エッジに大別される
・フィックスド・エッジはコーン紙と一体化していてフレームに直接固定されるため,動きが固い,とても古典的な設計
・フィックスド・エッジはコーン紙と同じパルプ素材でかつ外周部は薄いためか,古くなると破れたり亀裂が入ったりする
・フリー・エッジは動きやすく,ハイコンプライアンス型と呼ばれる
・フリー・エッジはロール・エッジ,コルゲーションエッジ,ギャザードエッジ,タンジェンシャルエッジなど折り方によって様々な種類がある
・ウレタンを使ったフリー・エッジは柔らかくて付帯音が少ないが,劣化しやすく硬化したりボロボロになるので最近はゴムエッジが多い
・クロスエッジは布製で通気性があるため,ダンピング材を塗って気密を保つ
・スピーカー改造ネタとしてセーム皮エッジが有名,分割されていない一体成型のものが良いらしい
・昔,ダンピング材といえば「ビスコロイド」というものが有名だった,水バンソウコの原料と同じらしい
・現在では柔らかい水溶性ボンドやゴム系の接着剤が使われたりするが,塗るゴムという水性の塗料もある(使ったことはない)
・ハイコンプライアンス・スピーカーの究極進化系はエッジレス

CENTERING SPIDER:スパイダー,ダンパー,インナー・サスペンション

・ボイスコイルを支持する部品,日本ではダンパーと呼ぶのが一般的
・「センタリング」というだけあり,ボイスコイルとポールピースの中心が一致するように支持する役割を担う
・フリー・エッジの場合はコーンの首振りを防止するためにダンパーを2重(ダブル・ダンパー)にすることもある
・逆にダンパーレスのコーン型スピーカーも少数ながら存在する
・素材は布状の繊維に樹脂を含侵してプレス成形によって固めたモノが多い
・「スパイダー」は古い用語で,昔のスピーカーは薄いベーク板をクモの巣状に打ち抜いてダンパーを作っていた
・こういった樹脂製ダンパーは「蝶ダンパー」や「ベークダンパー」とも呼ばれ,一部マニアには「反応が良い」とのことで珍重されている
・JBLはダンパーと呼ばないので,コンプライアンスを高くしてボイスコイルの動きを妨げないように設計しているようだ

CENTER CAP, DUST DOME:センターキャップ,ダストキャップ

・ギャップへのゴミの侵入を防ぐカバー
・素材は紙,フェルト,アルミ,樹脂など
・ヨーロッパ製の古いユニットはダスト・キャップがなく,ギャップがむき出しの場合があるのでホコリや磁性粉の付着に注意が必要
・最近のハイエンド・スピーカー・ユニットでもボイスコイルが見えるモノがあるが,動きやすくしつつ付帯音を減らす工夫だろう
・D130は硬質アルミのダイアフラムを使い高域を伸ばしている
・ウーハーはわざわざ大口径のキャップを使い,コーン中央部分の余計な音を放射しないようにしていると思う(妄想)
・意図的に切れ目を入れたり,裏側にダンピング材を取り付けてキャップ自体の分割振動を防止することもある
・アルテックのウーハーは空気抜きの穴をキャップ中央に開けている
・スピーカーの顔的な存在なのでデザイン的に重要,ロゴを入れたりすることもある

BACK PLATE:バックプレート,バックヨーク

・外磁型スピーカーの磁気回路を構成する部品(ヨーク),一般的に圧延鋼が多いがJBLは鋳鉄だそうだ
・単品売りのスピーカー・ユニットにとっては顔であり,デザインに注意が払われたりする
・ネオジマグネットの場合は放熱のためにヒダをつけることがある
・外磁型はバックプレートよりマグネットの直径が大きいので漏洩磁束が多い

IRON POT, CAST POT:壺型ヨーク,バックヨーク(Fig.1には存在しない)

・外側全体を覆う壺状の磁気回路を壺型ヨークと呼んだりする,鋳鉄製の鍋(POT)のような形状ゆえ
・古典的には「コの字」や「ロの字」ヨークが一般的だったが,JBLは効率の良い壺型にした
・アルニコ磁石を使用した内磁型はこの部品のおかげで漏洩磁束が少なくなる
・初期型のJBLユニットはパイプ状のヨークと平らなバックプレートを溶接して鍋型を形成しているため,フラット・バックと呼ばれる
・JBLの家庭用ユニットとプロ用ユニットでは壺の形状や深さ,ラベルのデザインが異なる
・ALTECは武骨だがJBLはおしゃれ
・↓こちらはアルニコモデルの断面図
JBL 140F
引用:http://www.audioheritage.org

CNTER POLE PIECE:ポール・ピース

・磁気ギャップを形成する重要な部品
・ポール・ピースとトップ・プレートの隙間が磁気ギャップとなり,磁束密度が非常に高くなっている
・磁気ギャップ中のコイルに電流が流れると強力な推進力が得られる
・高さや形状を工夫すると磁気ギャップ中の磁束密度分布を最適化でき,2次歪みを軽減できるとされている
・ショート・リングとして銅のキャップをかぶせることもある(実は非常に古典的な手法)
・通常は接着固定されているので衝撃でずれることがあり厄介

TOP PLATE:トップ・プレート

・磁気ギャップを形成する重要な部品
・ポール・ピースよりやや地味な存在
・JBLのスピーカーはマシニング(切削)で精密加工され,特にギャップが狭いことで有名
・磁気回路は部品を取り外して開放してしまうと磁力が抜けるため,再組立て後に再着磁が必要になるので分解しないこと

VOICE COIL:コイル

・スピーカーの心臓部,すべての力の源泉だが,発熱源でもある
・エッジ・ワイズ巻き(リボン導体)はラウンド・ワイア(丸線)と比較して磁気ギャップ中のコイル占有密度が24%向上し,能率が良くなるとのこと
・振動系を軽量化をしたい場合はアルミニウム・リボンが使われるが,アルミニウムは半田付けが難しい
・D130や2220は磁気ギャップ高さとコイル巻き幅がほぼ一致しており,最も効率が良い
・リニアリティを重視するならロング・ギャップ,ショート・コイルがよいが,磁束密度を維持するためには巨大なマグネットが必要(LE15や1500AL)
・逆にロング・コイル,ショート・ギャップが一般的(2235やTAD TL1601など)

VOICE COIL FORMER, TUBE:ボビン

・フォーマーは形状を形作るという意味だが日本では単純にボビンと呼ばれる
・真円を保つことが絶対的条件だろう
・紙製の場合は耐熱性に劣る,D130の初期モデルの耐入力はたったの20Wだったが,E-130では300Wに進化
・コイルは発熱源なのでコイル周辺部品は耐熱性が重要
・ノーメックス(アラミド繊維),カプトン(ポリイミド),グラスファイバー,アルミニウムが使われる
・高温に耐えられる接着剤の重要性は言うまでもない
・ボビンが短い方がコイルとコーンの距離が近いので無駄がなくなり理想的な気がする・・・(妄想)
・JBLはSFGまではボビンが短いが,VGC(2226)になってボビンが長くなる

SHORTING RING:ショートリング

・JBLの場合,アルニコ磁石からフェライト磁石に乗り換えるにあたって(SFGになる),ショートリングが追加された
・コイルが発する逆起電力をショートすることによって,高調波歪みを低減する効果とコイルのインダクタンス上昇を抑える効果がある
・一説によればフェライト磁石は不導体なので,アルニコでは不要だったショートリングを追加したという説があるが,ポールピースは鉄だから電気を通すので都市伝説かもしれない
・まあ確かにニッケルより鉄の方が抵抗は大きい

MAGNET:磁石

・この絵(SFG)はフェライト磁石で外磁型
・フェライトは磁束密度が低いため直径を大きくする必要があるので外磁型磁気回路とならざるを得ない
・アルニコ磁石の場合は磁束密度が十分高いので,ポールピースを磁石とすることができ,これを内磁型と呼ぶ
・いずれにせよ,JBLはいつでも巨大なマグネットを使いたがる
・コイルが力の源泉と記したが,エネルギーの元は磁力なので磁石が力の源泉だろう,励磁型(フィールド・コイル)が究極かもしれない
・フェライト磁石は欠けやすいのでゴム製の保護カバーをつけることもある,これもデザイン的な役割が大きいと思う

FRAME:フレーム,バスケット

・JBLはアルミ・ダイキャスト,廉価なスピーカーはプレス加工された鉄板を使う,樹脂製もある
・古いスピーカーほどフレームの穴が小さく開口が狭い,新しいスピーカーほどフレームが細く開口率が高い
・TAD TL-1601cはバックヨークとフレームが一体鋳造されている,しかも分散共振のため7本フレーム
・コイルの熱を逃がす放熱経路としても重要(と言われる)
・フレーム単品では仏具並みの良い響きがする(カーン)ので,フレームの鳴きが音色に及ぼす影響は少なくないと思った
・西海岸系(海じゃなくて湖か)のハイエンド・メーカーではダンピング材を塗りたくったりする
・JBLのバスケットはD130から2226まで50年近くほぼ変更がなかったが,よく見ると時代によって端子部分など詳細部分が異なる
・1998年の2227(SVG)に至って形状がガラっと変更される

MOUNTING GASKET:ガスケット,緩衝材

・厚紙やコルク,フェルトでできている
・バッフル板の裏側から取り付けるリア・マウントの場合は密閉および緩衝の役割がある
・フロント・マウントの場合は役に立たない単なる飾りと化する

INPUT TERMINALS:入力端子

・JBLは交換しやすさを重視しているためか,バネ式
・ねじ式は緩みのリスクに注意,ファストン端子は固い,半田付けは作業が大変,どれも一長一短・・・

INPUT TINSEL LEADS:リード線,錦糸線

・細い銅線と糸を編み合わせた特殊な配線材
・常時振動にさらされるので振動に対する耐久力が必要
・それなりに電流が流れる
・コーンの動きを制限してはいけない
・など注文は多い

REAR VENT, FOAM VEBT PLUG or SCREEN:穴

・JBLの特徴である磁気回路中央の穴
・コーンの動きによって内部の空気が動くが,その動きを妨げない工夫と思われる
・ポール・ピース側は異物の侵入を避けるために網かスポンジがを取り付けるが,スポンジは分解していることがあるそうだ
・アルテックはダスト・キャップ側に穴をあけていた

FOILCAL LABEL:ラベル

・裏面に接着剤のついたアルミの板のラベル,ホーム用とプロ用ではデザインが異なる
・もう少しど真ん中を狙って貼ってほしい,結構ずれてる
・作る人によって接着剤の量が違ったりとか,こういうところにアメリカンな感じをうける・・・JBL


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