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真空管アンプの安全設計:傾向

3:実例 〜ライブでの感電〜


マイクでの感電

危険なマイク

ギタリストならば誰しもマイクに唇が触れてピリピリと感電した経験があるのではないでしょうか。

実例としてどのように感電が起きる原理とその対策を説明します。



簡単な例による原理解説

Fig:1」に単純なPAシステムの一例を示しました。

危険なPAシステム
Fig:1

2Pコンセント

ミキサー,パワーアンプ,ギターアンプ,3台の機材があります。

ちょっと見づらいのですが「Fig:1」ではアースのついていない「2Pコンセント」を使っています。

AC電源とそれぞれの機材の内部回路は安全のために電源トランスによって絶縁されています。 (ミキサーとパワーアンプは配線で結ばれていますので同電位です)

それぞれの機材はお互いに絶縁されています。つまり抵抗値は無限大です。ですから電気は流れず感電は起きないように思います。

確かに,直流的には絶縁されています。。。

しかし,交流的な目でよく見なおしてみましょう。

原因は電源トランスによって発生する「シャーシ電位」

電源トランスや配線には無視できない浮遊容量があります。 無視できない浮遊容量とは小さなコンデンサが無数に,しかも縦横無尽にあちこちとつながっている状態です。 電源周波数は50Hz〜60Hzの低い周波数ですが,浮遊容量(コンデンサ)を通じて電流が漏れてしまいます。

このような漏れ出してしまう電流を漏洩電流と呼びます。いわゆる「漏電」です。 電源トランスは非常に微妙ではありますが常に漏電しています。

直流的には抵抗値が無限大で絶縁されていても,交流は漏れているのです。 銭湯に行ってみましょう。男湯と女湯が壁で仕切られていても声は聞こえます。これと同じです。

機材のグランド(金属筐体)が電源から直流的に絶縁されている状態,つまりテスタで測ると抵抗値が無限大の状態でも交流電流は漏れています。 結果的に全て機材はそれぞれ固有の交流的な電位,シャーシ電位を持っているのです。

シャーシ電位
Fig:2

Fig:2」の電圧「ec」を「シャーシ電位」と言います。 交流で数ボルトから数十ボルトの電圧が発生します。そしてコンセントの極性によって電圧が変化します。

シャーシ電位は各機材ごとに固有の値をとります。

シャーシ電位に差があれば電流が流れます。

シャーシ電位の差が感電の原因となります。

シャーシ電位は非常に重要,テスタで測ってみよう

このシャーシ電位を正しく理解するとアンプを取り巻く様々な問題に対して適切に対処できるようになります。

感電の問題はもちろん,機器間の接続によるノイズの問題,アースの取り方,接地方法,トランスを使ったバランス接続の必要性,グランド・リフト・スイッチの意味,アンプ内のグランド処理などが関係してきます。

「交流」と「インピーダンス」は難解で理解が難しいですが,シャーシ電位が機材ごとに異なると言う事実はテスタで簡単に確認できます。

<シャーシ電位の測定方法>
まずテスタをAC測定レンジにします。
片方のリードをアースに接続します。コンセントのアースに接続するかリードの金属部を自分の手で持ちます。
もう片方のリードを機材のシャーシやネジなど金属部分やコネクタのグランド部分に当てます。
もし,機材のアースが接続されていれば0Vを示すはずです。
アースが接続されていなければ0V〜100Vを示します。
もし,2Pプラグでコンセントに接続をしているのならば,プラグの向きを変えてみてください。
出てくる電圧に変化があるはずです。この現象はいわゆる「コンセントの極性合せ」の理屈につながります。

なお,機材の電源はON状態でないと正しく測れません。
また,他の機材と接続されていると,接続されている機材の影響が出てきます。 シャーシ電位をより正確に知りたければ,接続を全て外して単独の状態で測定する必要があります。

マイクに感電する仕組み

危険なPAシステム
Fig:3

Fig:3」は「Fig:1」の機材を二つのグループに別けたものです。 PAアンプとミキサーは信号線で接続されているのでシャーシ電位は同じになります。 当然,マイクも同じ電位となります。

しかし,ギターアンプとギターはミキサーのグループから独立しているため,ミキサー達とは異なるシャーシ電位を持ちます。

この二つのグループに発生している「電位差」が感電の原因です。 この状態でギタリストがマイクに触れるとギタリストの体を通じて電気が流れるため感電します。

テスタをAC測定レンジに設定してギターの弦とマイクの金属部にテストリードを当ててみてください。電位差が大きければ感電します。 流れる電流が非常に少ないので日常生活の中で気づきませんが,個人差があるものの10V以上の電圧が出ていると知覚可能です。

何よりも問題をセンシティブにしている原因はマイクには唇が触れるからです。 手で触れても感じない程度の弱い感電でも,唇は湿っていますしとても敏感なのでピリピリと感じます。

このような電位差を消すためには二つの機材を何らかの配線で結び電位差を解消すればよいです。

対策は2つ考えられます。


対策1:やっつけてきな対処療法

危険なPAシステム対策1
Fig:4

Fig:4」のようにマイクのシールド線とギターのシールド線を結ぶ方法です。 ミキサーのアースとギターアンプのアースを等電位にできます。

クリップ付ケーブル

具体的には大きなクリップを両端に取り付けた配線材を用意して,一方をマイクのシールド線の金属部分に噛ませます。 もう一方はギター用のシールド線の金属部分かギターアンプのシャーシを噛ませます。

自動車用のブースターケーブルが使えると思います。本来なら色は緑がいいのですが・・・

マイクとギターの電位差を解消する確実な方法ですが,アース線を接続する手間がかかります。

野外ライブなど電源の状況がよくわからないなか,ギタリストが自ら積極的に感電から逃れることができる簡単な方法です。

欠点としては,マイクラインにそれぞれの機材の電位差による微弱なノイズ電流が流れますのでノイズが発生する可能性があります。

#:この方法は奥田民生氏のシステムで見たことがあります。


対策2:3Pコンセントを使った簡単な方法

危険なPAシステム対策2
Fig:5

3Pコンセント

そしてもっと簡単なのが3Pコンセントを使用してそれぞれの機材をアースにつなぐ方法です。

Fig:5」ではちょっと見づらいのですがアース付の3Pコンセントを使っています。 それぞれの機材の電源アースは内部でシャーシに接続されています。 3Pコンセントを使い電源経由で電位差を解消します。

電源を3Pコンセントからとるだけで感電を防止できますので簡単で確実な方法です。

ライブハウスなどの固定設備において,細かいことを気にせずに手軽に安全を確保できる方法です。

ただし,信号線と電源線の2系統のグランド配線が存在するのでグランド・ループが形成されてノイズが発生する可能性があります。


対策は設備側で行うのが基本

Fig:4」は対処療法的な方法です。 基本的に「Fig:5」の方法,つまり設備側に3Pコンセントを設けてそのまま使用するのが安全な方法です。

Fig:4」のような場当り的な対策を行わないと感電する状況は,それはそれでとても危険な状態である証です。ぜひとも避けたい状況です。

3Pコンセントを使用していればまず安全と考えてよいですが,野外ライブや古い建物では配線が適切ではない可能性があるので気を付けたほうが良いです。

自己防衛策

危険を感じたときはテスタをAC測定レンジにしてPA用のマイクとギターの弦の電位差を確認してみてください。

テスタを持ち歩いているギタリストはなかなか見ませんが。。

#:私の機材ケースにはテスタと半田ごて,ニッパー,ラジオペンチが入っていることがあります。。

10V程度なら我慢できると思いますが,50Vも出ていたらマイクに唇が当たるとしびれます。

そんな時はマイクにスポンジのカバーをかぶせればOKですが,ちょっと怖いですよね。

プロのPA屋さんでも電源にまで精通しているとは限りません。 ギタリスト側が知識を持って自己防衛するしかありません。


まとめ

アースやグランドに流れる交流を正しく理解するのは難しいのですが,感電が発生した場合,原因は必ず存在します。

このつかみどころのない問題の正体は「シャーシ電位」です。

感電を防ぐためには「アース」の接続方法が重要です。正しくアースを接続すれば安心・安全です。


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