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真空管アンプの安全設計:対策

5:安全な電源回路


安全な電源回路の具体例

ここでは回路構成について具体的に考えます。 部品選定については別項で説明しています。

安全な電源回路
Fig:1

Fig:1に安全性を考慮した電源の回路図を示しました。 実際この通りに作ったことはありませんが。。。


アースの引き回し

AC電源のアース端子は直接シャーシに接続します。 雷のような強い電気が流れる可能性がありますので,短く太く確実に直結します。

アースは歯付きワッシャー(Tooth Lock Washer)利用して確実に導通を確保します。ワッシャーを使用して緩みを防止します。 卵ラグ等を使用しますが,Yラグは脱落する可能性があるので使ってはいけません。

タッピングビスで締め付けたり,シャーシにタップを切るだけでは安全とは言えません。 M3かM4のビス・ナットを使って確実に締め付けたうえでネジロックなどで固めます。

wiring of the earth terminal Lockwasher-Terminal-Lug, Keystone 7313

左図のように卵ラグと歯付きワッシャーを組み合わせるか,右図のような歯付のラグ端子があると便利です。

アース配線にスイッチは入れない

アース配線には接続先を切り替える「グランド・スイッチ」や,電源アースを切り離す「グランド・リフト・スイッチ」は取り付けてはいけません。

古いアンプにはグランド切り替えスイッチがついていますが,これは古い設計です。 最近の一流メーカーのアンプにはついていません。

アースは建物などの設備側で安全性を保障するべきものです。 不都合があればアンプ側ではなくアース側(つまり設備側)を改善する必要があります。

*DI.出力に入る「グランド・リフト・スイッチ」はPA機材とアンプの電位差やグランドループを解消するためのものですので有効に働く場合があります。


ACインレット

ACINLET

最近のアンプは一部のコンボアンプを除き,ACインレットを持っている場合が多いです。

コンセントからの電源ケーブルを接続する側から見てアース端子を下にした場合,右側が活線(LIVE)で左側が中性線(NEUTRAL)です。 「W」と書いてある端子が「白」つまり中性線です。ACインレットには極性表示してあるものが多いです。

壁に設置されているコンセントの極性も同じです。

#:コンセントの極性は法令で定められていますが,たまには配線を間違えることもあるでしょう。

取り付け方向

アース端子を上にするのか,下にするのかは諸説あるのですが,メジャーなメーカーは上が多いです。

端子の処理

端子の接続はファストン端子やネジ止めが多いです。アマチュアはファストン端子に半田付けでしょうか。

ファストン端子を使う場合はカバーつきの金具を使い端子部分を覆うと安全性が高まります。

FASTON terminal

半田付けする場合は,半田が溶けても配線が外れないようにしっかりと絡げて(からませて)から半田を流します。 そして,端子部分が露出しないように熱収縮チューブをかぶせると安全性が高まります。


ヒューズ・ホルダー

トランス1次側のヒューズはパネルに取り付けるタイプのヒューズ・ホルダを使用します。 ヒューズが切れた際に簡単に交換できるようにするためです。

配線方法の注意点

wiring of the fuse holder terminal

現在流通しているパネル取付型のヒューズ・ホルダ―は感電防止構造になっています。 したがってそれほどシビアに考えなくてもよいですが,定石として次の方法があります。

ヒューズ・ホルダーのパネルに近い側の端子はトランスに接続される配線を接続します。 パネルから遠い側の端子をAC電源側に接続します。 このように配線するとヒューズ交換時の感電リスクが下がります。

一方,トランス2次側のヒューズはアンプ内に取り付けることが多いです。 ヒューズ自体に高電圧がかかってますので,交換には大きなリスクがあるからと考えられます。

シャーシ内部なので基板やシャーシに取り付けるタイプのヒューズ・ホルダ―を使用します。 ヒューズは交換しやすい位置に取り付けるべきで,交換時に指が他の回路に触れないように十分余裕をもって配置します。


電源トランス1次側ヒューズ

電源トランスの1次側に入るヒューズはもっとも重要な保護機構になります。

トランスは過負荷で使用し続けると過熱し,煙を吐き,やがて燃えますので,トランスを使用した機器には必ずヒューズが必要になります。

ヒューズ挿入位置

ヒューズは活線側(黒い配線)に挿入します。

ヒューズが切れたときに活線側が切れて中性線だけつながっている状態の方が安全だからです。 なぜならば,中性線の方がアースに対する電位が低く感電のリスクが少ないからです。

複数の電源トランスがある場合

お助け電源トランスが必要な場合,ひとつのアンプに複数の電源トランスが存在します。

そのような場合は,ヒューズは電源トランス1台につき1つ必要です。

「ひとつの装置にひとつのヒューズ」は間違いです。複数の電源トランスが搭載されている装置にヒューズがひとつしかない設計が見受けられますが,これは危険です。

なぜならば,ヒューズをひとつにしようとするとヒューズの容量が大きくなります。 大きなヒューズでは小さな電源トランス1台に不具合が発生してもうまく保護できません。

大きな電源トランスと,小さな電源トランスを同時に使用する場合を考えるとわかりやすいです。

例えば5Aのヒューズが必要な大きな電源トランスと1Aのヒューズが必要な小さな電源トランスを使うことにしました。 そして,二つのトランスを1本のヒューズで保護しようとします。 ヒューズは最低でも5Aの容量が必要になります。

その時,小さなトランスがショートしたと考えます。ショートして1A以上の電流が流れても5Aのヒューズは切れないでしょう。 結果として小さな電源トランスは燃えてしまいます。


電源トランス2次側ヒューズ

電源トランスの2次側ヒューズは1次側ヒューズの働きを補う第2の保護機構です。

電源トランスの2次側タップをショートしても1次側のヒューズが切れない場合,もしくは中途半端な異常電流が流れる事態が想定される場合は2次側にもヒューズを挿入すれば安全性が高まります。

真空管の故障時にトランスを守る

真空管がショートすると大電流が流れます。 完全なショートならば電源トランス1次側のヒューズでも保護できるはずです。 ところが,ゼロバイアス状態などで中途半端に大きな電流が流れる故障の場合,1次側のヒューズが切れない場合があります。 1次側のヒューズが切れずに大電流が流れ続けるとトランスが過熱して煙を吐いたりします。 電源トランス2次側のヒューズはこのような事態を防ぎます。

また,速断ヒューズを使えば異常な状態に陥ってからヒューズが切れるまでの時間を短くできます。 異常な電流が流れる時間が短くなれば軽症のうちに電源を遮断し,重大な故障に陥らないようにする効果があります。

2次側の保護には1A程度の速断ヒューズがよくつかわれます。

ヒーター配線はショートすると大電流が流れます。10A程度のヒューズで保護しておくと安心です。


温度ヒューズ

電源トランスに内蔵されている場合もあります。外付けも可能です。

電源トランスの過熱を監視する

過負荷で連続運転したり,ヒューズでギリギリ保護できない(ヒューズが切れない)ような状態で長時間使用するとトランスが過熱します。

過熱した電源トランスは煙を吐き,やがて燃えます。

温度ヒューズは最後の砦

「温度」で切れますので,想定外の異常で電源トランスが過熱した場合も保護してくれます。 異常事態を想定するのは難しいですが,過熱が重大な事故につながるのは確実と言えます。

温度ヒューズが切れると電流が遮断され発熱が止まります。電源トランスを異常過熱から保護するためには温度ヒューズが最適です。


電源スイッチ

最近のメジャーなメーカー製のギターアンプはすべてDPSTスイッチを使った「両切り」です。

DPST Switch

両切りスイッチの意味

両切りとは「活線と中性線の両方を切り離す」スイッチです。 コンセントから供給されるAC電源とアンプは完全に遮断されます。

何らかの事故が起きたときに電源スイッチを落とせばAC電源から完全に隔離できます。

昔のアンプは片切りだった

昔のアンプはSPSTスイッチで片側(普通は活線)だけを遮断していました。 この場合,もし中性線に電圧が出るような事故(落雷,誘導雷)が発生すると電源スイッチを切っていても感電の危険があります。

中性線と活線の両方を遮断すれば安全性が高まります。

スパークキラーを取り付けよう

スイッチの接点の長寿命化と火花が発するノイズを防止するのために,火花消し(スパークキラー,スナバ)は必ずつけておきます。 取り付け場所はスイッチの直近です。


スタンバイスイッチ

スタンバイスイッチを正しく使うと真空管の寿命を延ばす効果があります。 しかし,300V〜500Vの高電圧を切り替えますので故障しやすいです。

高電圧を切り替えるスイッチ

高電圧を切り替えるスイッチのトラブルは遮断時に発生する場合が多いです。

定格不足の場合はアーク(放電)が長時間発生し,接点を蝕み,やがて故障します。 故障モードはショート・モードも考えられます。 最悪のケースでは接点で発生したアークにより周辺の部材から発煙・発火します。

交流用電源スイッチは直流の遮断が苦手です。 AC250VのスイッチでもDCでは30Vまでしか使えない例もあります。

接点を2重化して耐圧を向上

直流用の高圧スイッチは高価で入手性も悪いです。わざわざ専用のスイッチを使ったアンプもありません。 交流用電源スイッチを直流用に転用するのはある意味仕方ないのですが,工夫が必要です。

まずDPSTスイッチを使用して接点を直列に接続して2重化し,より耐圧を稼ぎます。 遮断時のアーク(放電)の発生状態は絶縁距離で決まります。接点を直列にすると絶縁距離が2倍になります。

2重化する場合は必ず接点を直列にします。並列では無意味です。

スパークキラーを取り付けよう

2重化で耐圧は上がりますが,火花消し(スパークキラー,スナバ)は必ず取り付けます。 アークの発生を抑え接点を長寿命化すると共に,切り替え時に発するノイズ輻射を減らす効果があります。

電源用のスイッチを使うことも大切です。 電源用のスイッチはレバーをゆっくりと操作しても,接点が素早く離れる構造になっておりアークが発生する時間を短くしています。

スタンバイスイッチはどこにつけるか

スタンバイスイッチの挿入位置は諸説あります。

アークによるスイッチの摩耗を防ぐためには交流部分にスイッチを挿入します。 例えば整流用のダイオードとフィルターコンデンサの間です。

交流は電流の流れる方向が切り替わりますので,アークが消えやすくなります。

しかし,交流のリップル電流がスイッチを含む配線に流れますので,適切に配線してやらないとノイズを撒き散らします。

私はシャーシ内に交流を引き回すのが嫌なので,直流部分にスイッチを入れています。

直流の場合,普通に考えるとプラス側をスイッチを入れますが,私はグランド側にスイッチを挿入しています。

電源投入状態ではスイッチの電極の電位が低くなるからです。 こうしておけば仮にスイッチが絶縁不良になっても感電しにくくなります。

電源トランスのキックバックから整流ダイオードを保護する

スタンバイスイッチを遮断するときに電源トランスが持つインダクタンスにより過渡的な電圧上昇(キックバック)が発生することがあります。

キックバック電圧は通常の電圧の倍以上になることもあり,整流ダイオードの破壊につながります。

Fig:1のC2の容量を1uF以上にするとキックバック電圧が弱まります。

また,チョークコイルの出口や入り口にスタンバイスイッチを挿入するとやはりインダクタンスによるキックバックが発生します。 チョークコイルが完全なオープン状態にならないように,グランドに対して1uF程度のコンデンサを入れるとキックバックが減ります。

キックバックは見落とされがちな現象です。 短い時間しか発生しないため,いきなり故障するのではなく,徐々に部品を劣化させていきます。 ただし劣化の進行は確実ですのでいつ故障するかは時間の問題です。


ノイズ・サージ対策部品(C1,Z1)

AC電源のノイズ対策のため電源トランスの1次側にコンデンサやバリスタを挿入する場合があります。

コンデンサやバリスタはショートモードでの故障が想定されますのでヒューズより後ろ側(電源トランス側)につけます。 ヒューズより手前に取り付けるとショートに対して保護出来ません。

故障モードに注意

バリスタはサージを加え続けると漏れ電流が多くなり最終的にはショートモードで故障するそうです。 コンデンサーもまれにショートモードで故障しますのでヒューズで保護できるようにします。


電源トランス

電源トランスは原理は簡単ですが,実はさまざまなノウハウが隠されています。

1次側結線

1次側の0V端子(巻き始め)に中性線(N:白)を接続し,100V端子に活線(L:黒)を接続します。 コアに近い側が中性線になります。万が一,コアと巻き線がショートした場合の危険度が下がります。 場合によってはコモン・モード・ノイズ低減の効果もあります。

トランスのアースと浮遊容量

トランスにアース端子がある場合は直接シャーシに接続します。

コアやケース,カバーと巻き線がショートした場合,シャーシに接続しておけばアースへ電流が逃げるので感電を防止できます。

ただし複数の点で接地すると渦電流による障害が発生する可能性がありシャーシへの接地は1点接地とします。

トランスのコアと巻き線はDC的に絶縁されていても,浮遊容量がありますので交流的には導通があると考えます。

トランスの接地は出力トランスでも同様です。 出力トランスの場合,グランドとり方によって高域特性に変化が見られます。

静電シールドは必ずアースへつなぐ

電源トランスの1次側と2次側の間に静電シールドがある場合は直接シャーシに接続します。

静電シールドは浮遊容量によるノイズの伝達を防ぐ効果がありますが,絶縁強化と感電保護の役割もあります。

1次側の絶縁が破れた場合,まず静電シールドとショートして漏れ電流がアースに流れ落ちますので2次側は保護されます。

静電シールドを浮かせてしまってはノイズ対策にも安全対策にもなりませんので必ずアースにつなぎます。


温故知新

フェンダーの新旧TWINを比較してみました。進化の具合がわかると思います。 このような変更はトーンを改善するためではなく,安全性を向上させるための変更です。

TWIN 5E8
「FENDER TWIN 5E8」オリジナルの電源部分(引用:Fender)
57 TWIN
「FENDER 57 TWIN」リプロダクションの電源部分(引用:Fender)

リプロの特徴を述べます。

アース付の3Pプラグが使用されています。
グランドスイッチはありません。
AC電源の極性が明確化されています。
電源スイッチは両切り(DPST)です。
ヒューズは活線側に入ります。
ノイズ減衰用の0.1uFはAC250V耐圧です。おそらくX-Classと思われます。
RT1は突入電流防止と過熱防止のためのPTCです。
トランスには温度ヒューズも取り付けられています。
静電シールドはGNDに接続されています。
2次側にもヒューズが挿入されています。


リンク集

参考文献


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