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真空管アンプの安全設計:対策

7:安全面から見た部品選定


7-1:異常の想定と試験

故障は「機能が失われた」状態と定義されます。 故障が発生すると機械は異常な状態に陥ります。

例えば,電球や蛍光灯が切れると光を発する機能が失われて故障になります。結果として部屋が暗くなります。

自転車のタイヤがパンクするとクッションが無くなり故障になります。結果として走行不能になります。

アンプの回路上である抵抗器が一本焼き切れたらどうなるでしょうか。 音が出ない・・・故障です。

まず,どの部品がどのような故障を起こすかを想定します。

そしてその結果,どのような異常が発生するかを考えます。 もし,火災や感電に至る危険があるならば対策を講じなければなりません。

最後に故意に故障を起こす異常試験を行い,安全であるかどうか確認します。

市販されているアンプは自動車の衝突試験と同様に実際に破壊して安全性を確かめています。

自作アンプではどうするか

自作アンプは基本的に1台しか作りませんから,破壊する異常試験は行いたくありません。 となるとまず第一に故障しない設計が要件になりますから,部品定格に対して十分なディレーティング(安全率)を確保し,ゆとりを持って設計します。

しかし,どんなに慎重に設計しても,信頼性の高い部品を使っても故障は起きます。

ギターアンプにおいて避けたい事象は火災と感電です。

ある部品が故障した時,火災に至らないか,感電しないかを考えて設計していきます。

以下,記述が具体性に欠けるのは私の経験が少ないからです。。現状これが限界です。

部品の故障想定の基本

例えば,抵抗やコンデンサは二つの端子を持ちます。この場合は単純に2端子間のオープンまたはショートの場合を考えます。

ちなみに故障を想定する場合,ひとつの要素・部品が壊れた場合を想定します。 二つの故障が同時に発生する確率は各故障確率の2乗となり非常に小さくなりますので想定しません。 ただし,ひとつの故障が原因となり2次的な故障を引き起こしてはいけません。

トランジスタやICなど多数の足が生えている部品は,足1本がオープンになった場合と隣同士の足がショートした場合を考えます。

トランジスタは3本足です。エミッタ,コレクタ,ベースのどれかがオープンの場合を考えると3条件です。 そして隣り合う足同士つまり,エミッタとコレクタがショートの場合,コレクタとベースがショートの場合を考えます。合計のパターンは5つです。

電源トランスは2次側のタップのどれかがショートした状態を考えます。 トランス内部で巻き線同士がショートした状態を想定しているわけです。 端子がオープン状態で危険が予想される場合,例えば,バイアス用の電源が失われて大電流が流れてしまう場合はオープン状態も考慮すべきです。

故障頻度と厳しさ

壊れやすい部品と壊れにくい部品があります。つまり故障頻度に差があります。

また,壊れた時の被害の大きさも想定のポイントです。 火災や感電につながらない軽微な故障は考えなくてよいです。 音が途切れたり,ノイズが出るのも故障ですが,自作アンプなら問題になりません。

抵抗器は許容電力を守っていれば壊れにくい部品ですが,コンデンサーは定格を守っていても抵抗器より壊れやすいです。

電解コンデンサーは必ず寿命がありドライアップします。 電源フィルターの電解コンデンサーの容量が抜けると電源電圧は上昇します。

逆に多くの場合,抵抗器が切れれば電流が遮断されるので安全方向です。

ボリュームの2番端子(真ん中の端子)はいわゆるガリオーム状態を想定して,必ずオープンになると考えて設計します。

なお,ボリュームがガリった時に大電流が流れるのはよろしくない設計です。 フェンダーの古いアンプは危険な設計になっています。

真空管にも寿命があります。トランジスタは真空管よりは壊れにくいですが抵抗器よりは壊れやすいです。 ICやLSIは複雑なものほど壊れやすいです。

電流を沢山流すデバイス,熱くなる部品は壊れやすいです。 プリアンプよりもパワーアンプが壊れやすいです。

整流用のダイオードは案外壊れます。

つまり,限られた寿命を持つ部品と壊れやすい部品は故障を想定すべきです。 故障を想定したくないのであれば,対策として寿命が長く故障しにくい部品(高額になりがち)を使えばよいです。

また,電源1次側回路は無限とも思えるエネルギー源,コンセントに接続されますので故障時の被害が大きくなります。 例えば電源トランスが壊れたときのダメージは非常に大きく,燃えたり煙が出ますので異常試験が非常に重要です。

結果的に故障頻度が高い部分と,故障時の被害(厳しさ)が大きい部分を重点的に想定・試験・対策していきます。

試験が必要な部品

数十ボルト以上の高電圧,数百mA以上の大電流を扱う部品はショートやオープンした場合の挙動を確認する試験が必要です。

代表例が電源トランスです。

そして,パワーアンプ部の真空管や半導体(ダイオードやトランジスタ)抵抗器,コンデンサが対象になります。 プリアンプでも電源回路は対象になります。

試験が必要な故障の想定例を示します。

電源トランスの各タップのショート,各端子がGNDに落ちた場合,バイアス電源用の端子についてはオープンした場合も必要でしょう。

出力段真空管のバイアスが失われた場合(グリッドをオープン,グリッドをGNDにショート)。 ヒーターとカソードのショート。プレート及びSGとカソードのショート。 もし,カソフォロ直結ドライブならドライバ段も試験の対象になるでしょう。

大切な点ですが,真空管がヒーターが冷えている状態つまり,引っこ抜いた状態は回路設計の段階で必ず考慮します。

電源電圧が上昇してコンデンサーの耐圧を超えてはいけません。 また,段間の結合を直結で設計したアンプでは過渡的な異常電圧,異常電流,発振の可能性があります。

CR部品では・・・

電源フィルターコンデンサーのオープン・ショート。

チョークコイルの端子間ショート,GNDへのショート。

バイアス電圧調整用VR(POT)の2番端子オープン。

整流用ダイオードのショート・オープン,整流管も同様。

わたしの想像力ではここまでで限界です。 そして実際にやってみたことはないです・・・

対策

もし危険な状態が想定されるならば対策が必要です。

・ディレーティング強化,つまり電力容量が大きく耐圧の高い大きな部品を使用
・ヒューズやブレーカーなど,回路を遮断する部品を使用
・不具合時に安全方向になる回路設計

上記いずれかもしくはすべてを駆使して異常時に発熱や感電が起きない状態にします。

異常試験の実施

危害を想定し,保護を施した設計を行ったので,これで事故は防げます。 ひと安心したいところですが,現実はそう甘くはありません。 異常時に本当に危険な状態にならないか,実機を使って実証しなければなりません。

これがアブノーマル試験(異常試験)です。 想定した異常状態をことごとく人為的に発生させて危険な状態が発生しないか確認していきます。 つまり,部品をショートさせたりオープンにしたり,そういった実験を繰り返します。

異常試験中に煙が出たり,火災になってはいけません。 各部の温度上昇を計測して許容範囲内であるか確認して初めて安全と判断できます。

もちろん試験中にあちこち壊れます。 故障するのが分かっている試験を自作アンプで行いたくありません。 結果的に自作アンプの安全性は証明できず,危険な目で見られてしまいます。

だから自作アンプは事故が起きても自己責任なのです。

故障は面白い

ひとつの部品が壊れると道連れになる部品も出てきます。 どこかの部品が故障しても他の部分に波及しない考慮は安全上非常に重要です。

ヒューズが良い例です。 わざと弱い部分を作っておき,意図通りの小さな故障を発生させて故障原因を明確にすると共にシステム全体が崩壊してしまう大事故を防ぎます。

逆に冗長系を用意して容易にシステムを停止させない設計手法も普及しています。 金融システムなど大規模なネットワークを駆使するシステムでは非常に重要な考え方です。

センサーを駆使して故障する前に異常を検知して知らせる自己診断機能も普及してきています。

「フェール・セーフ」は単一故障に対して危険側ではなく安全側に倒れて停止する設計方法です。

例えば,自転車のブレーキワイヤーが切れるとブレーキが効きません。これはフェール・セーフではありません。 しかし,鉄道やエレベーターのブレーキはエネルギーが遮断されるとブレーキが効いて動作が停止します。 これがフェール・セーフ設計です。

なお,自転車のブレーキは前輪と後輪の2系統の冗長系を持っていますので安全性は担保されています。

安全性に直結する重要な部品はできるだけ単純な原理で動くべきです。

確実に動作してほしいロケットの切り離し機構には電気制御ではなく導火線と火薬が使われるそうです。 電気を使った機構は接触不良や誤作動などのリスクが高いですが,「燃える」は化学エネルギーを消費するだけの単純な現象なので信頼性が高いのです。

ジェットコースターは坂道を登るときに機械的なラッチによって逆走を防いでいます。 坂道を登るときに「ガチャガチャ」音を立てるのはラッチの音です。シンプルな機構によって安全性を担保しています。

アンプに使われるヒューズの原理も単純です。電流によって焼き切れるだけです。 故障すると回路がオープンになり安全方向に倒れるのがミソです。


リンク集

参考文献


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