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真空管アンプの安全設計:対策

7:安全面から見た部品選定


7-2:ヒューズ

ヒューズは安全を守る大切な部品です。 目障りな部品ではありますが,軽視してはいけません。

不適切なヒューズを使ったり,省略するとアンプが燃えるかもしれません。

しかし,逆に頻繁にヒューズが切れるのも困ったものです。。

電源トランス1次側ヒューズ

ヒューズの中でも電源トランス1次側のヒューズは安全保護上もっとも重要なヒューズです。

異常発生時に電源を切り離して安全性を確保します。自作アンプでも必ず必要です。

ヒューズ容量の決定方法

ヒューズに求められる機能は単純ですが,容量を決めるのは結構大変な仕事です。

異常時にヒューズが確実に切れる

通常使用ではヒューズが切れない

ヒューズの機能はこの2点に集約されます。

ヒューズの容量を決めるにはこの2点両面から検討していく必要があります。 この項では後者を中心に説明します。

通常使用時には切れない条件を考える

通常使用時に容易にヒューズが切れると演奏が停止してしまいますので非常に困ります。 こんな状況に陥らないためには最低限必要なヒューズ容量を決める必要があります。

最低限必要な電流容量は二つの設計要素から決められます。

・ アンプが最も電力を消費している状態

・ 電源投入時のラッシュカレント

基本は正常動作時の最大消費電流

一般的にアンプが最大の電力を消費するのは大きな音を出している時,つまり最大出力時と考えられます。

まずは最大出力状態で電源に流れる電流を測定します。もしくは,設計上の消費電力から計算しても構いません。

ヒューズの容量は少なくとも消費電流の1.5倍以上は必要です。 しかしたいていの場合は後述するラッシュカレントに制限されてより大きな容量を入れる事態になります。

製作したばかりで動作に不安があるアンプの場合は,まずは最大消費電流の1.5倍〜2倍のヒューズを入れておくとよいと思います。 電源投入時に頻繁にヒューズ切れが発生するなら,一段階大きな容量のヒューズを入れればよいわけです。

電源投入時のラッシュカレントに注意

ヒューズは電源投入時に切れやすいです。原因は電源投入時に発生するラッシュカレント(突入電流)です。

ラッシュカレントについては実測するか,電源トランスの特性から計算してヒューズの溶断特性と合わせて電流容量が足りなければ大きくしていきます。

ラッシュカレントを実測する際,交流の100Vがゼロの状態かピークの状態かによって突入電流の出方が変わります。本当のピークを探すためには少なくとも20回は試行する必要があります。

ラッシュカレントがもっとも大きくなるのは正弦波のピークでスイッチを閉じた場合です。 逆に一番小さくなるのは電圧がゼロの時にスイッチを閉じた場合です。 また,スイッチを開いた時のトランスの励磁状態によってもラッシュカレントの量は変化します。

ラッシュカレントの発生を防ぐために電圧がゼロボルトになった瞬間に自動的にスイッチを閉じる「ゼロクロススイッチ」もあります。

ラッシュカレントの実測には電流プローブと言う専用の測定装置が必要になりますので,一般的には実測は難しいのが実情です。

ヒューズの特性

通常のヒューズはラッシュカレントに耐えられません。SLO-BLO(遅延,タイムラグ)ヒューズを使用する必要があります。


Fig:2

Fig2は「LITTELFUSE」社が公開している標準溶断時間をグラフ化した図です。「SLO-BLO」と「FAST-ACT(NOMAL)」の2種類をプロットしました。

真空管アンプでは電源投入後の1発目の正弦波で大きな電流が流れます。この最初のラッシュカレントの継続時間は10msec以下の非常に短い時間です。

0.01秒(10msec)のラッシュカレント(50HzのSin波ひとつ分の時間に相当)で比較すると,SLO-BLOは90Aまで耐えられますが,FAST-ACT(NOMAL)は20A程度までしか耐えられません。

また余計なお世話ですが,同じSLO-BLOでもメーカーによって特性が異なります。

ラッシュカレントの計算方法

ラッシュカレントを実測するには電流プローブが必要ですので,なかなか大変なのです。そこで計算で求める方法を簡単に紹介します。

考え方としてトランスの2次側がすべてショートされている状態で実効値100Vのピーク電圧である141Vが加わったと仮定して算出します。 厳しい人がいるので5%増してピークで150Vと仮定しておきましょう。

各経路における抵抗値は下記に従い決めていきます。(注意:我流です)

・電源ライン(コンセント)の抵抗値:0.5[ohm]と仮定:(Rac)
・トランス1次側の抵抗値:巻き線の抵抗値を実測する:(Rp)
・トランス2次側の抵抗値:巻き線の抵抗値を実測して1次側に換算する:( Rpn = Rsn * (Vp/Vsn)^2 )
(Vp/Vsnは1次巻き線に対する2次側タップnの電圧比)

全ての抵抗成分を合計した等価抵抗値(Rsum)を算出します。

・電源ラインと1次側の抵抗値を足し,2次側の抵抗値は全て並列にした上で1次側の抵抗値に足します:(Rsum = Rac + Rp + (Rp1//Rp2//…Rpn) )

・ピーク電圧である150Vで割る:( Irush = Vpeak / Rsum )

なお,鉄損が大きい場合は1次側から見た2次側の抵抗値が下がりますので,Rsnは実測よりも低くなります。

コアが飽和した場合はインダクタンスの影響が低下し,鉄損が大幅に増加しますから,1次側から見た2次側の抵抗値はゼロに見えてしまいます。 突入電流が大きくなりますので特に「励磁突入電流」と呼ばれます。

Rコアトランスやトロイダルコアトランスはコアが飽和しやすく突入電流が大きくなります。 EIコアでも電源OFF/ONタイミングによっては飽和するケースがあります。

つまり,最悪を想定するならば,2次側の抵抗値(Rsn)をゼロと見ます。

ラッシュカレントの持続時間

ラッシュカレントの持続時間についてはサイン波片側一発分,つまり50Hzでは10msecを考えれば十分です。

真空管アンプの場合は2次側のコンデンサ容量が大したことないので,サイン波片側一発でほぼ充電が完了します。 2発目以降のラッシュカレントは1発目と比較すると微々たるものになりますので影響は無視してよいです。

例えば,Rp=1[ohm]と仮定します。2時側を全て無視してしまえばRsumは1.5ohmですのでラッシュカレントは100Aです。 前述の2A SLO-BLOは10msecで90Aまでですので1回では切れなくてもそのうち切れる可能性があります。 まあ,2次側を無視しましたので実際すぐには切れないと思います。

真空管アンプはあまり問題ないのですが,大きなトランスと大きなコンデンサを搭載したトランジスタアンプでは非常に大きな電流が流れます。 部屋の電気が一瞬暗くなったり,はたまたブレーカを落とすほどのラッシュカレントが流れるアンプもあるそうです。 トランジスタアンプの場合は2発目以降のラッシュカレントも真面目に積算する必要がありそうです。

電流容量の目安

自作アンプでは電源トランスを壊す恐れのある異常試験はできません。 あれこれ計算したとしても実際どうすればいいのでしょうか。

実際の製品はどうなっているのでしょうか。

電流容量の目安は電源トランスの全容量の2倍から3倍と言われています。 それ以上の容量をもつヒューズを入れるのは危険です。

実際に使われているヒューズの電流容量から目安を決めるならば,出力50Wの真空管アンプで2A〜3A,出力100Wの真空管アンプではでは3A〜4A程度です。

SLO-BLOWを使うのは言うまでもありません。


電源トランス2次側ヒューズ

トランス2次側は突入電流が大きくないので速断(FAST-ACT,FAST-BLOW)ヒューズを使います。

真空管の故障から出力トランスを保護

+B電源では1Aの速断(FAST-ACT,FAST-BLOW)ヒューズがよく使われます。 真空管,特に出力管はたまにショートモードで壊れるのであったほうがよいと思います。

真空管に大きな電流が流れると出力トランスにも大きな電流が流れて発熱し,最悪の場合故障します。

ちなみにC2や整流ダイオードはヒューズの手前に接続されますのでこれらの部品が壊れた場合は保護できません。

あくまでも真空管が故障した際の保護と考えるべきと思います。

その他2次側の保護

ヒーター電源は大電流を取り出せますので,ショートさせると危険です。 10A程度のヒューズが使われます。

その他の電源にも0.5A〜1Aのヒューズを入れておいたほうが無難です。 ただし,ショート時に確実に切れる必要があります。切れないヒューズは意味がありません。


温度ヒューズ

第3の保護機構です。 一般的なトランスの巻き線や絶縁材料は150℃をあたりで絶縁が怪しくなります。 トランスをいたわるなら100℃が目安でしょう。

厳密にはもっとも温度が上昇する電源トランス内部の温度を検出しなければなりません。 そうなると製造段階でヒューズを内蔵してもらう必要があります。ちなみにトランス内蔵の温度ヒューズが切れた場合ほとんど修理不能です。

温度ヒューズが内蔵されていない電源トランスに外付けする場合は余裕を見て85℃としてもよいと思います。

#:わたしはまだ怖い目にあったことがないので付けていません(汗)。。


ヒューズフォルダ

ヒューズホルダーは重要な部品ですので,信頼性の高い新品を使いたいものです。

パネル取り付け用

パネル取り付け用のホルダは各種有り,軍規格のものや防水のホルダーまであります。

大きな穴を開けないといけないのと,長さが結構あるので配線や部品配置に注意が必要です。

最近のヒューズホルダ―はヒューズ交換の際に感電しない構造になっています。 昔のモノはわかりません。自己責任で。。

ACインレットとヒューズホルダが一体になった部品は電源コードを抜かないとヒューズ交換できない構造になっており,より安全性が高いです。

内蔵用のヒューズホルダ

ヒューズには高い電圧がかかっていますので触れると危険です。

カバーが取り付けられるホルダーの方が安全性は高いと言えます。

シャーシ内蔵用のヒューズホルダは電極部分がむき出しですので,シャーシや周囲の部品との絶縁距離を十分確保して取り付けます。


電源トランスの選定

電源容量は余裕をもって決定します。

ギターアンプは最大出力で運転する機会が多いです。

正弦波出力が50Wのアンプは,矩形波出力では100Wの電力が出ます(理想的には)。

オーディオ用アンプはあくまでも正弦波出力を想定しています。 ディスト―ションさせて飽和(フルアップ)させる使い方をするギターアンプは2倍程度の容量が求められます。

自分で使う自作アンプなら自分の演奏スタイルに合わせて設計できます。 クリーントーンしか出さないなら余裕が少なくても故障はしませんが,ディスト―ションを多用するなら余裕を持った電源が必要です。

過熱に注意

過負荷状態で連続使用すると電源トランス内部の損失が大きくなり発熱量が急激に大きくなります。

電源トランスは熱容量が大きいため短時間の過負荷はある程度許容できますが,無理な使い方をすると過熱して煙を吐き,やがて燃えます。

温度ヒューズが内蔵されていれば火災は防げますが,まずは過負荷状態に注意すべきです。

トランスは温度が上昇すると発熱量が多くなる危険な傾向があります。 ですから最大出力時にどのくらいの熱を持つのか,温度上昇を測る必要があるのです。

電流容量

整流方式によって取り出せる電流が異なってきますが,+B電源に必要な電流量は シングルプッシュプルで200mA以上,パラレルプッシュプルでは400mA程度必要です。 オーディオ用のトランスよりも過酷な条件下で使用されるので余裕があったほうが安心です。

ヒータ電流は真空管の使用本数で決まります。 同じ真空管でもメーカーによってヒーター電力が異なりますので余裕が必要です。

真空管アンプの動作は複雑なので,結局最終的に何ワットの出力が出て,何ワットの電力を消費するのかは作ってみないとわかりません。 同じ設計図を基にしてアンプを作ったとしても,電源トランスが異なれば最大出力も消費電力も変化します。 ですから出来上がったアンプを実際に動作させて消費電流を測り,トランスの容量内に収まっているか確認する必要があります。

静電シールド

1次・2次間に入る静電シールドは浮遊容量によるノイズの伝達を防ぐ効果がありますが,絶縁強化と感電保護の役割もあります。あった方が良いです。

豆知識

日本製のトランスは電圧を引き出す端子がトランスから直接が出ていますが,海外ではトランスの端子の露出が禁止されています。 ですから,海外製のトランスは必ずカバーがかけられ,リード線によってタップが引き出されています。

過熱や金属疲労で半田接合部分が外れてしまうと機器内でブラブラしてどこにショートするかわかりませんのでこのような決まりがあるのだと思います。

トランスはリプレイス用が気楽

色々な条件を考えると選定が難しくなり,特注する場合でも制限が多くなり値段も高くなってしまいます。 ギター用のトランスはリプレイス用が手に入りますので,自分がイメージしているアンプに合ったリプレイストランスを使うのが賢いやり方です。


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参考文献


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